表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ぼっちを極めた結果、どんな攻撃からもぼっちです。  作者: ウィザード・T
第七章 ハチムラ商会(第二部第一章)
199/631

俺は変わったのか

第二部本編開幕です。

 三人の同級生と、三人の異世界人。しかも後者は全部女性。


 改めて、かつての俺には想像もできない光景だ。




「そんなに俺って敷居が高いですかね」

「全然そうは思わんけどな。とりあえずアスリートって奴は体が資本だからな、ちゃんと食べないとダメだぞ」


 柴原コーチ曰く、いわゆる高嶺の花の女性ってのは案外モテないらしい。自分なんかで釣り合うのかとなってしまい、それゆえに引いてしまうって事なんだろう。

 でも俺は顔も成績も人並みであり、タイムだってそんなに優れている訳でもない。そりゃ校内ではトップクラスだし部内でもたまたまレギュラーレベルのタイムがあるが、全国から見ればその他大勢でしかない。

 そんな俺に絡んで来るのはせいぜい三田川ぐらいで、それも明らかに俺をおもちゃにするために来るだけ。赤井のようなごく少数の男子に話を振る事はあっても振られる事はない。様々な情報をもらったりやったりと言う当然の事が、俺には果てしなく高いハードルだった。


 それは自然、アスリートにふさわしい情報も入らないと言う事になる。


 一応高校生になって買ってもらったスマホや雑誌などで一応かき集めてはいるが、大会に出てもその手の機会が巡って来ることはない。吐き出す機会もなければ、入って来る機会もない。

「はいこれ」

 俺がその事をなんとなく愚痴ろうとすると、河野が実にタイミングよくDVDをよこして来た事もある。

 そこにはテレビでやっていた一流ランナーの心掛けやフォームなどがずいぶんと事細かに映っていた。確かにこれを真似れば少しは強くなれる気がしたが、と言ってもいきなり雲の上のそれを見せられても追いつけそうにない。やる気にはなれたが、同時に力の違いも思い知らされた。


「裕一ったらこの前の気に入らなかったの?」

 そのプレゼントを堪能した三日後、浮かない顔で現れたらしい俺の肩をずいぶんと強い力で河野は叩いて来た。バランスを崩しそうになるほどの力で、何をしたいのやら不可解だった。


「あのさ、俺はもっと同レベルの人間のそれを知りたいんだよ」

「やっぱりインターバル走は大事だと思うよ、速くても遅くてもずーっとワンペースで走ろうだなんて無理なんだから、アクセルの切り替えができないといろんな展開に対応できないよ。ましてや裕一の目標は箱根駅伝っていうロードレースなんだから、いくらアスファルトの上を走るとわかっていてもいろいろ立場が違うんでしょ、区間にしても順位にしても」

「……そういうんじゃないんだけどな」

「じゃあさ、私たち他に学問しなきゃいけない訳じゃん。裕一だってスポーツ推薦で行けるがどうかわからないって言ってたでしょ?でも勉強して練習してだと他の時間ぜんぜんないじゃない、それでいいのかって、それ以外になんか別の道を作っとかないとやばいのかなってさ」


 そんでちょっと素直に思いをぶつけたらこれだ。河野がこんなに多弁だったのかと知る暇さえなく、1のため息に対し10以上の言葉が返って来る。

 それでもインターバル走だの第三の道だのいろいろ有意義な言葉を持ち込んで来るのだから大したもんではあるが、やはり情報ソースが少ないのは困る。


「河野お前さ、俺が昔ぼやいたことを真に受けすぎてやらかした事あるだろ」

「何を?」

「ポッキー事件だよ」

「だって私、お小遣いの使い道分からなかったんだもん」




 小学校一年生の時、俺はコンビニでポッキーを買おうとした目の前で俺と同い年ぐらいの女の子に持って行かれ、他の菓子を買わずにトボトボ帰った事もある。今となっちゃめちゃくちゃ些細な事だけどそれだけでその時はえらく落ち込んで、宿題をするのすら忘れそうになっていた。

 そんでそのお話を聞きつけた河野が次の日ポッキーを持って来たわけだ――――それもひとつやふたつじゃなく、十箱も。

「おまえじぶんのおかねでかったのか」

「もちろん!」

 その時の河野と来たら、本当に幸せそうな顔をしてたね。

 河野の親御さんも止めなかったらしくて、ったく昔から河野は何も変わってねえって事を証明するには十分なお話だ。


「あの後2週間毎日ポッキーだったからな、何故か知らないけど他人に渡す気になれなかったんだよな」

「それは……」

「だからさ、お前もう少し落ち着けよ」

「そうやって裕一から有意義な事を言われるのは嬉しいなあ、ものすごく嬉しいなあ」


 反復横跳びでもするかのようにはしゃぎ、頬をわかりやすく赤く染める。




 そう言えばこの世界で再会した時も、河野は本当に楽しそうにはしゃいでいた。


(あんなに激しい女性はいねえよな、この世界にも……)


 セブンスは言う事は言うけど基本的には俺を静かに立ててくれる感じだし、オユキは普通の女友達って言うかみんなの友達って感じだし、トロベは俺を戦士として尊敬している感じだし、で大川は真っ先に俺の秘密を知ったと言う優越感とこの世界での苦しみの反動みたいに俺と仲良くしてくれてるし。


 今の俺たちの目標は、元の世界に帰る事。しかもクラス全員無事で。


 そのためにはとりあえず、みんなの無事を確認しなきゃならない。


 そして、三田川のように道を踏み外した存在を正さなければならない。


 河野ならば三田川を正せるかもしれないとは思いながらも、俺らは俺らなりにやるしかない。


 そういう決意を込めて、俺たちはサンタンセンの街を発つ事とした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ