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ぼっちを極めた結果、どんな攻撃からもぼっちです。  作者: ウィザード・T
第六章 同級生の恐怖(第一部最終章)
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ギルド落成式(第一部完)

とりあえず第一部はこれにて最終話となります。

 セブンス酒乱事件から三日後の、サンタンセン滞在六日目。




 新ギルドの落成式が行われた。


「いいんですかねこれ」

「いいんだよ」


 と言っても文字通りの掘っ立て小屋で、変わってないのは場所だけだ。


「ギルドなど、場所と冒険者とギルドマスターがいれば成り立ちますから」

「書類その他は」

「当分は私とあと二人しかいないからね。まあ悪いけどミワは当分はランクアップできないよ、この町のギルドの三番手なんだからそれで満足しなよ」


 ギルドの三番手、ったく物は言いようだ。

 当然ミワは膨れていたが、三田川のせいとは言え自分が荒らしても同然の街道の修繕ができなかったのだからしょうがない。Zランクへの降格を命じられなかっただけでもありがたいと思えとさえ言われている。


「しかし町の人たちが手伝ってくれたおかげで、あらかたの事は片付いたでありますな」

「途中から回復魔法使ってあっちこっち行こうとして止められてたのはどこの誰?」

「それはやはり、私が結局異邦人だと言う事でありましょうな……」


 一日十二時間の肉体労働を四日間ぶっ通しでできたのは、まったく赤井のおかげでしかない。筋肉や骨がきしみそうになる度に赤井が回復魔法を使ってくれ、また体力が戻る。気力までは回復できない事もありその分は休んではいたが、それでも普通なら十人がかりで一週間かかるらしい作業を助っ人五人を含めて四日半で終えられたのは実にありがたい。

 それで四日目、この仮のギルド作りに目途が立ったころから赤井は工事現場を離れて桑畑や染料を扱う場所などに赴いては疲れている住民に回復魔法を施そうとしていたようだが、ほとんどの場合断られていた。


「確かに彼らは職人だが、どうあがいても人間だ。それにアカイ殿が回復魔法を施そうとしたのは皆年かさの職人たち。すべて自分たちのリズムを体の中に作り上げているような存在達だ。それを無理矢理にずらすのはよくない事だ」

「…………はい…………」


 赤井より深く落ち込んだのはミワだった。


 ミワは当初赤井と共に俺たちに付き、三日目以降は仕事のなくなりつつあった赤井と同じようにあっちこっちを回り、回復魔法で町の人たちを癒そうとし、やはり同じように断られていた。


「ミワ、その血の気の多さってのが結局お前さんの本性って訳だ。やっぱこいつはどうも危険ですよ、俺だって正直かったるいんですから」

「俺の本性は何なんですかね」

「あんたの力はどんな攻撃からも嫌われるってもんらしいけどさ、それが本性だとするとそれこそとんでもないお話だね」

「まるで死んでほしくないって誰かに祈られてる感じだよ、それも相当に強く」

「女神様だとは思いませんけどね」


 イトウさんはかったるそうに指輪を輝かせながら頭を撫でる。


 死んでほしくないと祈られている、確かにそうかもしれない。


 だがその祈りによって守られているだなんて言うのならば、もっと違った守り方をして欲しかった。


「なぜ女神様じゃないと言うのかい?」

「俺はこの世界の最高神だと言う女神様の事をよく知りません。知っているのは、赤井を変えたと言う事と、もし俺に与えられたチート異能とやらが女神様の恩恵だとしたらその女神様はずいぶんと酷な真似をしたなと言う事だけです」


 ナナナカジノ襲撃戦と言い、クチカケ村のザレとの戦いと言い、サンタンセンの戦いと言い、俺に当たらなかった打撃がすべて他の所へ当たっている。

 その結果モモミちゃんにも嫌われたし、鉱山の山道も荒れたし、シギョナツとの街道も荒れた。


(そりゃこれまでやった殺人行為そのものにも心が痛いよ。でもさ、それと同じかそれ以上に、そのための行いのついでに他の人が犠牲になる可能性を産んでいるのがまた痛い…………)


 戦いに犠牲は付き物とか言うが、それにしても俺は守るべきはずの他の存在を犠牲にしてまで勝利をつかみ取っている。

 もしこの世界を作ったはずの立派な女神様がこんな力を俺に与えたのだとしたら、正直俺はその女神様への信仰心を持てそうにない。



「ウエダ殿は女神とまた別の何者かがこんな力を与えていると言うのか?」

「わからないよ。わかるのはとりあえず、俺が無事でもみんなが無事とは限らない、と言うか今回の事で痛感したよ。ヘイト・マジックをもってしてもかなわない相手に、俺が戦えるのかって」

「ミタガワ…………か」



 三田川はあくまでも逃げたに過ぎない。あれほどの力を持った存在と、俺は最低もう一度は戦わねばならないだろう。




 あの戦いの最後の方は、三田川が作った指輪によって強化したはずのヘイト・マジックをも断ち切られていたようにしか思えなかった。


 本当に俺だけを狙って攻撃をし続けていたとしても、三田川が俺の秘密(チート異能)に気づいていないとは思えない。


「俺たちの目標は、みんな一緒に元の世界に戻る事です。そのためには三田川に言ったように、この世界で名声を得てそういう力も使うべきだと思っています」

「私なりの結論だがな、彼女に言わせればウエダ殿は元から難攻不落の存在だった。

何としても自分の方が上だと認めさせたい。自分の方が優れている事を証明したい。自分にひざまずかせたいのだろう。だがウエダ殿、おそらく貴殿はミタガワが上であろうがなかろうがどうでもいいのではないか」

「まったくその通りだよ」

「むしろそれこそが癇に障るのかもしれん」


 俺は俺お前はお前、以上。


 と言う理屈が十分に通る程度には俺と三田川は遠い人間のはずだった。


 たまたま同じ学校の、たまたま一年五組と言うクラスにいて、たまたまほんの少しだけ関わるに過ぎない、と言うかほとんどぼっち生活を送って来たはずの俺になぜ執着するのか。


「何を言っても反応がなければ飽きると思うのでありますが、上田君はまったく無反応であった上で三田川は毎度毎度同じように……」

「歪んだ恋愛感情もほどほどにしてもらいたい物だ」


「………………不意討ちって受け止められないもんだな。と言うかトロベ、お前は恋愛経験が豊富なのか?」

「何を言う、ウエダ殿が初恋なぐらいだ。ああまだ恋とまでは思っておらんが、わが父母が聞かせてくれた話だ。もちろん兄姉からの話もあるぞ」


 ぼっチート異能があった所で、回避できるもんとできないもんがある。まったくあり得ない所からの連続奇襲攻撃に俺は思わず気が遠くなった。


 三田川がトロベの言う所の歪んだ恋愛感情、そんな類の代物を抱いているとはとても思えない。愛の反対は憎しみでなく無関心とか言うけど、三田川はトロベが思っているほど複雑な人間には思えない。


「俺は、三田川は単にこの世界の本当の頂点に立ちたいだけだと思っている。そのためにはあいつはきっと魔王をも倒すだろう」

「魔王、か……」




 ――――魔王。




 魔物たちの頂点であり、あるいはこの世界の全てを手に入れようとしているかもしれない存在。

 と言うのは、あまりにも一般的なお話であり、トロベやオユキですらそれ以上の知識を持っていない。

(と言うか何なんだよ本当、ビジュアルさえも赤井に言わせれば「一般的」らしいしさ、って言うか一般的な魔王って何だよ)


 本当の魔王が何を企んでいるのか。そしてなぜ俺たちがこんな世界に呼び出されたのか。


 その答えを俺たちは知らない。


「もし魔王ってのが本当にいたら、どんな姿をしてどんな力を持っているのか……もちろんトロベの事を信用していない訳じゃないんだけどさ、あくまでも魔王は魔王に過ぎない」


 魔王がひとつの国とひとつの町を滅ぼしたのは間違いないとは言え、その原因は魔王を呼び出した国と魔王を巡って勝手に争った二つの国にあり、俺たちがどこまで責任を負うべきなのかはわからない。


「ユーイチさんは、私たちの世界のために来たわけじゃないんですよね」

「ああ」

「たまたま、本当にたまたまどうしてかわからない理由で!そんな人にもしこの世界を救えとか言うのならば、私はユーイチさんにヘイト・マジックをかけてその存在と戦います!」

「俺が戦うのかよ!」

「トロベさん、稽古を付けてください!」


 もしそんな事になったとしても、俺は目の前のセブンスを含む仲間たちのために戦うだけだ。




(三田川……俺が言うのも何だがこんな事ができる奴がお前にいるのか?)




 俺は今、全く俺らしくもない空間に囲まれている。四人の女子と、二人の男子にそれなりに慕われている。


 俺は今目の前にいるみんなの事を思いながら、強く拳を握った。

次回更新は6月2日ごろまでお待ちください。その後はいったん外伝やそれ以外の作品を公開いたします。


上田「その前に登場人物などの紹介があるだろ!」

作者「それは次の日までお待ちください……それをもって本当に第一部完とさせていただきます!」

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