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ぼっちを極めた結果、どんな攻撃からもぼっちです。  作者: ウィザード・T
第六章 同級生の恐怖(第一部最終章)
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ぼっちだったセブンス

やっぱり最後は彼女って事で。

「セブンスの仕事ぶりはどうなんです」

「本当にまじめな子だよ。文句ひとつ言わずに朝から晩までさ、その分食事は盛ってやってるんだけどね」


 朝からトロベの着替える姿と大笑いを見た後の俺の一日は、サンタンセンの大工の皆様の手伝いもあって、ギルドがいよいよ建物の形になって来た所で終わった。




 市村と大川は最初から俺と一緒、トロベも午後から俺たちの所に加わり、赤井は相変わらず俺たちに回復魔法をかける役。オユキはと言うとミワと共に、麻やカイコの面倒を見る役目をしていた。


 そしてセブンスは、おとといも昨日も今日も宿屋に籠って一日中掃除やら洗濯やらしていたという訳だ。


「しかしあれだね、冒険者ってのもけっこうもうかってるんだね」

「はあ?」

「いや何、トランプって奴だよ。昨日の夜なんかみんなではしゃいでいたそうじゃないか」

「まあ任務のお代としてもらったんですんで」


 雪女や黒髪たちより注目を集める程度には、トランプってのも特異な存在なんだろう。王家御用達品の払い下げのそのまた払い下げだが、それでも紛れもない高級品だ。


「しかしイトウさんも大変だね。お前さんたちいずれここから南へ行くんだろ?」

「そうですね、宿泊代としてキアリアさんの懐を痛めつけてる訳ですから。泊まるにしても自腹を切りたいですよ」

「そういう所がカッコいいんですよ!」


 セブンスはモップを持ちながら笑っている。ミルミル村の次に滞在期間のながくなっちまった宿屋の床はきれいに輝き、従業員の人たちも笑顔にあふれている。

 セブンスの仕事ぶりがよくわかる。


「まったく、俺とは全然ケタが違いますね」

「ユーイチさんは決して威張ったりしないでできない事はできないって言うし、どんなに活躍してもみんなのおかげだって!それから他にも私たちの知らない事をいろいろ知っていますし、自分では大したことないと言ってますけど剣の腕もすごいですから!」

「本当にいい子なんだけどね……ああ頼むよ夕飯の下ごしらえを」

「はーい!」


 それでもこんな風になって、従業員の皆さんを苦笑いもさせたりもする。


 普段のセブンスは、決してこんなに多弁じゃない。どっちかというと赤井やオユキがやたらしゃべるのに相槌を打つタイプで、大声を出すのも戦闘中の時だけ。一応Wランク冒険者ではあるけど、それらしい戦闘能力を見せた所は一度もない。白狼ですらない野生の狼を一匹斬ったのが最大の戦果だ。


「やれやれ、本当に強い女性だ」

「トロベ、またこの後訓練か」

「アカイ殿のおかげでずいぶんと作業が速く進んだからな。もちろんオオカワ殿やイチムラ殿、そしてウエダ殿にも感謝しているぞ」


 トロベが帰って来るや、営業スマイルとは別物の笑顔をセブンスは振りまく。


 笑顔と共に口を閉じてモップを動かし、床をさらに清めて行く。


 赤井たちが戻って来るまでの間、ずっとそのまま拭き続けていた。


「しかしえらく丈夫だな」

「私は普通に暮らしていただけなんですけどね」

「我々の世界の普通とは違うのであります、それで具体的にはどのような」

「はいハヤトさん」



 セブンスはゆっくりと、俺が来るまでの平凡な一日の生活を話してくれた。


 朝起きて、取っておいた食材を切り刻み、薪で火を熾し、その前に水を小川から汲んできて鍋に入れ、調味料を突っ込んで煮る。

 そうして食事を終えると家を出て職場である食堂へと向かい、半日中料理の受け渡しや後ろでの煮炊き、さらに食堂その物の清掃をも行い、時には商店街へと買い出しにも向かう。

 夕飯は食堂の上がりの際に取る事が多く、そうでない場合はパンを支給されていた。

 家に帰って来た時には夕日が落ちていて、あまり明るくないランプを点けながら着替え、そして寝る。

 水浴や洗濯は毎日という訳には行かず、それもほぼ自力で水を汲んで行くだけでひと手間ふた手間であり、新しい物を買うような事はほとんどなかった。


 一応貯金はしていたが、それもあくまでも凶作や道具の破損ありきのそれであり、余分な金は銅貨一枚もない。

 実際ミルミル村を出る時も大半の道具は寿命に近くなっており、路銀があったのもタイミングが良かったからだった。




「それが日常生活か、ずいぶんと…………」

「結局はそんなに大差はないと思います。皆さんには皆さんの苦労があり、そして喜びもあると思います。お父さんとお母さんが死んでから二年近く同じ事ばかりでしたけど、それでも別につらくはなかったですから」


 確かに今十四歳、つまり十二歳で両親を亡くした一人暮らしの少女と言うだけでも大変な人生かもしれないってのに、今のどを潤した彼女からそんな苦労の影は感じ取れない。


(ったく、ぼっちぼっちとか言うけどセブンスこそ本当のぼっちじゃねえか……俺なんてインチキなぼっちだな)


 親もきょうだいもいない、それこそ文字通りの天涯孤独。


「あれまあ、そんな事があっただなんて、ご両親も今頃女神様の下で喜んでるでしょうね」

「別にそんなたいそうな事してませんから」

「似た者同士じゃない、セブンスちゃんの言葉からするとそうなるでしょ?」

「俺とはケタが違いますよ」


 他に言いようがない。宿屋の女将さんの心底からの笑顔に少しだけうなずきながら、俺はセブンスが作ってくれたと言う飯を口に運ぶ。


 味は、初めて作ってくれた時とあまり変わらない。さすがに右も左もわからなくて混乱していた俺に生の感触を与えたと言うほどではないが、間違いなく「いつも」の味だ。


「私今すごく幸せです。こうしてユーイチさんにおいしそうに食べてもらえるだけで!」

「本当にもう、本当に幸せそうだよね。アカイも三人恋人がいるって聞いたけど」

「そんな、私はまだ誰ともこのような関係には」

「アカイさんにはアカイさんのやり方があるんですよねー」


 セブンスは両頬に手を当てながら口を大きく開けて笑っている。


 あくまでも情報のやり取りしかしていなさそうな赤井はまだやっていないだろう体験。もちろん市村もないだろうし、大川もオユキもトロベもそんな事はないだろう。


 こんな勝ち誇りたい気持ちになったのは生まれて初めてだった。




「いやー、本当においしいなー!」

「そうですか、ありがとうございまーす!」

「……え゛……?」




 と思っていたらいきなり顔が赤くなったセブンスが宿屋の外に向かって駆け出して行った。

 何事があったんだとばかりに席を立ちセブンスに迫ろうとした俺の背中に市村と大川から凄い圧がかかり、オユキが赤井に迫られていた。


「……オユキ?セブンスに何をしたであります!?僧侶として正させていただかねばならぬでありますが」

「は……?」

「だってさ、お酒ってこんなにおいしいのにウエダもアカイもみーんなダメダメダメばっかりでー、つまんないからさー」

「……バカヤロー…………」

 

 オユキの頭を無言で引っぱたいた俺は、すぐさまその手で頭を抱えた。




「アーッハッハッハッハ!イエイイエーイ!」


 宿の裏から聞こえて来る、たぶんセブンスの陽気な声。


 ギリギリまで理性を保って裏へ回った所で、スイッチが入っちまったんだろう。


「そう言えば神林たちが言ってたよな……」

「ああ、セブンスであるとは断定できなかったでありますが……」


 この世界に二十歳になるまで飲酒厳禁なんて法はない。でも理屈としてアルコールの消化が追っつかないからダメって事を知ってるからこそ、俺は人殺しをしても飲酒はしなかった。


「俺らのダブルスタンダードに嫌気が差したのか?」

「そんな事ないんだけどさー、だっておいしいんだもん!」

「オユキ!」

「もうおさけで失敗するのって本当情け(なさけ)ないなあ!」


 そんでせっかくビシッと言うつもりだったトロベはオユキのギャグで笑っちまうし、セブンスははしゃぎまくってるし、宿屋の人たちの笑顔は苦笑いになっちまうし……あーあ、いちいち締まらないよな本当。







 ちなみに翌朝、一晩踊り通したまま宿屋の裏で寝込んだセブンスは平身低頭して今後もどうかお願いしますと必死に頼み込み、宿屋の人も笑って許してくれた。

 そんでイトウさんはセブンスの飲酒量をコップ一杯って聞いて愕然とした顔になり、今後は酒を控えようとつぶやいていた。

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