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ぼっちを極めた結果、どんな攻撃からもぼっちです。  作者: ウィザード・T
第六章 同級生の恐怖(第一部最終章)
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トロベって女性

「朝遅いぞトロベ」

「すまん、つい昨日の夜は槍を振っていてな。アカイ殿とイチムラ殿にも協力願ってな」


 三日目の朝珍しく寝坊したトロベは、出迎えに来た俺に深々と頭を下げた。


 夜具なのかどうか知らないが機能性一点張りのドレスを身にまとうそのトロベは、寝坊していたはずなのにきれいだった。


「と言うか昨日の昼間は何をしてた?」

「雑用だな。木を伐り、害獣を狩り、さらに草を牛にやりもしていた」

「そんな事を」

「騎士だからと言って威張っているのでは尊敬されない。騎士と言うのは、一番極端に言えば民百姓に生かされているだけの存在だ。そして民百姓は自然に生かされている。女神様は自然に恵みを与えている、まあそういう事だ」


 騎士ってのは、有り体に言えば軍人だ。そして、軍人であるだけでなく政治家でもある。

 でも軍人ってのは何も戦争がない時と言う、ある意味理想の状態の時はぶっちゃけあまり役に立たない。治安維持?それだって明らかに犯罪者と言う名の存在を想定したある意味非常時ありきの行動じゃないか。


「修行の旅などとか言えるのは、それこそ平和の証かもしれぬ」

「平和なのに魔物が出るのか」

「オユキ殿を見ればわかるであろう、彼女は一〇八歳だ。その彼女がどんな害をもたらした?」

「ロキシー村長には相当な害毒だったらしいけどな」


 ロキシーと言う名前を知らないはずのトロベが、鎧をまといながら頭を下げてくれた。オユキから聞いたのか聞いてないのかは知らないが、それだけでだいたいは把握したのだろう。


 一応アスリートのはずの俺よりもたくましそうな腕をして、俺のより重いかもしれない鎧を淡々と着込む姿はいちいちカッコいい。

 そのドレスの下には大川のように筋肉を隠しているのかもしれないと思うと、ついついわずかな手足の隙間に目が行ってしまう。


「ウエダ殿!」

「ああごめんなさい、つい!」

「こういう生活をしているとさほど羞恥心もなくなってしまうがな、それでも見せる相手にはウエダ殿のようなのを選びたいのだ」


 この世界の貞操ってのがどれほど重いのか、あるいは軽いのかはわからない。だが少なくともトロベは貴族であり、俺のような庶民がおいそれと言う間柄でもないはずだ。


「いや、その、えーと、それで…………」

「露骨に下がるな!私が寝過ごしたのがまずいのだ、それだけのお話だ」

「ああ、ちゃんと準備を整えてくれよ…………」


 とりあえず後ずさりながらドアを閉めた俺の心臓は、めちゃくちゃ不自然に鳴っていた。




(中学に入って、いや小四になってからはもう男女別だったしな着替えって……この世界に来てからもセブンスは、って何考えてるんだバカ!だいたいあいつはいつも正々堂々としてたじゃねえかよ、中学生になっても!)


 女子の露出を最後に見たのは、母親を含めても小学三年生————————と言う事はなかった。河野は中学生になっても平気で俺の前で脱ぎ、そして一緒に風呂に入ろうとしたがった。

(「なーんだ、もう毛が生えちゃったんだー、こんなにおちんちん小さかったのにー」)

 中一にもなって俺の陰茎を眺めながら残念そうに言いやがって、ちなみに河野は小学六年の二月には生えてたよとかのほほんとした顔で抜かしやがった。


 幼馴染って奴はどんだけえらいのか、俺にはわからない。赤井だって市村だって大川だって、もちろんトロベだってその類の存在はいるだろう。でも俺にはそんな話をする相手はいなかったから「幼馴染」の基準ってのを学ぶ事はできなかった。

 我ながらずいぶんと損をしているもんだ。



 とにかくほどなくして着替え終えたトロベから目をそらしながら俺は食堂へと向かう。

 そこにはすでに俺とトロベ以外が座っていて、食事を待っていた。


「セブンスが運んできてくれたのであります」

「あいさつを欠かしちゃダメだよね~、って言うかこれセブンスが焼いたって」

 配膳は例によって例のごとくセブンスであり、ついでに調理もしているらしい。


「やっぱりユーイチさんたちにおいしい物を食べてもらいたいんです!」

「って言うかずいぶんと似合っているけどそれ」

「エプロンドレスって言うんですか、やっぱりサンタンセンってすごいですよねこんな物まで生産してて。ああこのまま食べてます、昨日もおとといも」


 宿屋の従業員の制服とでも言うべきエプロンドレスを着たセブンスは、いつもより一段と身のこなしが軽い。汚していいのかよと思っていると、汚れるの前提で作っているから問題ないらしい。


「私は豪奢な衣装は好かん。どうにも虚飾の臭いがしてたまらなくてな」

「でも豪華な武具は好きでしょ?」

「値段の事ではなく実用性の点でな」

「と言うかそんな少食で大丈夫か?」


 セブンスはやけに盛りが多い一方で、トロベは少食だ。運動量からすれば逆でもおかしくないはずなのに、まったく不思議なもんだ。


「赤井も市村も昼間からいろいろあったんだけどな」

「それについてはついな、どうしても怠惰に負けたくないと言う意識があってな」

「怠惰だなんて、トロベからもっとも遠そうな言葉に見えるんだけど」

「イチムラ殿は打ち合いではウエダ殿に勝てるそうだな」

「…………」

「ああそうだ、食事の前の礼を忘れてはならないのだな。女神の恵みをいただきます……」

「女神の恵みをいただきます」


 トロベらしいかもしれない口上の追加された食事前の挨拶と共に、俺たちは朝飯を口に運ぶ。

 サンタンセンは肉料理だけでなく魚や野菜もシギョナツの隣のためか豊富で、今日は干し魚がメインだった。


「塩気が強いでありますな」

「仕方がない、シギョナツからここまで持って来るにはどうしても保存しなければならない。保存するとなるとどうしてもそうなる」

「私がいる訳じゃないもんね」

 古来より食糧の保存は永遠のテーマだ。俺たちの時代こそ冷凍・冷蔵技術の発展が著しいが、そんな技術などこの世界にはない。オユキならできそうな気がするが、そんな雪女があっちこっちにいてたまるもんかい。

「で今日の予定は」

「昨日と同じだ」

「昨日と同じって、また夜やるのか?昨日のように大工仕事が終わってからでは正直こっちも」

「戦とはいつも万全な体制で始まる物ばかりではない。それに私自身、少しばかり不遜な思いも抱いている物でな」

「不遜?」

「女神の恵みを受けている事を承知の上で、その存在であるウエダ殿に勝ちたいのだ」


 俺に勝ちたいか……しかもチート異能がある事を承知で戦おうとするだなんて、しかも実にいい笑顔をしている。


「勝つってどうやってです」

「練習棒により、相手の棒を弾き飛ばす。これは私も含めて行って来た模擬的な戦いの作法だ」

「でも練習棒は剣しかないんじゃ」

「槍状のも存在する。もっとも、王宮でも数本しかないが」

「我々の世界には竹刀と言う木製の剣が存在するのであります。その上で全身に防具を付け、特定の位置を攻撃すれば勝利であると言う戦いが存在するのであります」


 赤井の話を聞くトロベの顔は本当に生き生きとしている。彼女もまた俺ら異世界人のお話に興味津々な少女であり、同時に戦う事を好む騎士だ。


 赤井が言う所の戦い――――剣道の勝負でトロベに勝つ見込みは俺にはない。俺の強さはあくまでもチート異能ありきであり、チート異能なしではまずかなわない。


 と言うか食事の時でさえも隙を感じられねえ。丁重にナイフとフォークを使いながら、ゆっくりと口に運んでいる。

 ラブリさんがそうしたみたいに小石でも投げ付けてみたい。


「しかしのどごしが良いなこの水は」

「どうもありがとトロベ!」


 水を飲む姿もいちいち決まっている。


 赤井が俺らの世界との差について述べ市村とセブンスがそれに素直にうなずき大川が無言で飲む中、トロベはコップをしっかりと握りながら口に運んでいる。


「ウエダ殿とオオカワ殿は今日もギルドの修繕か。それでアカイ殿がその側で回復魔法により補助を行い、イチムラ殿は」

「俺もまたそちらに回る。それでセブンスはここで仕事か」

「はい」

「それでオユキは今日も染物工場か」

「そうだよ、あちこちの人にたくさん水を配らなきゃ……」


 それぞれがそれぞれの予定を言い合う中でも、トロベはきちっと背筋を伸ばしている。


 まったく、生まれが違う人間ってのはいるんだなって改めて実感できるよ。


「しかし染物工場か」

「本当染物工場って暑くってさ、暑いのは平気だとわかっていても疲れちゃうんだよね、おまけに狭いし。

 それで疲れちゃったんで隅っこで休もうにも染料せんりょう占領せんりょうされてるんだよね本当……」

「ハハハハハ……!」




 ……これもまたトロベなんだよな。うん、そうなんだよ。

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