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ぼっちを極めた結果、どんな攻撃からもぼっちです。  作者: ウィザード・T
第六章 同級生の恐怖(第一部最終章)
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オユキは案外怖い

「はいウエダ」


 次の日、昨日と同じように大工仕事に勤しんでいるとオユキが俺に冷たい水が入ったコップを持って来てくれた。


 冷蔵庫などないこの世界では、実にありがたいお土産だ。




 ……ひとつである事を除けば、だが。


「私にはないの」

「ごめんオーカワ、なんかオーカワってあんまりアカイと仲良くないみたいだからさ、これも実はアカイのアイディアだからさー」

「ごめんね、ついその、どうも……」

「オーカワってさ、やっぱり自分が強いって思ってるタイプ?」

「……うん」

「いいじゃない。アカイにもあげてないんだから」

「おいオユキ」

「だってオーカワってアカイのアイディアでいい気持ちになりたくないんでしょ?」



 亀の甲より年の劫でもあるまいが、オユキもまた二人の溝と大川の悩みを理解していたらしい。

(って言うか、キアリアさんも戸惑ってるじゃねえか……オユキ、お前の気持ちはともかくこういう時は配慮ってもんがあってしかるべきだろ……)

 でもその上で俺だけに水を渡して大川にそういう処置をしない辺り、実年齢はともかくオユキも案外大人げない女性なのかもしれない。


「オユキ、お前俺たち四人の事をどう思ってる?」

「アカイはいろいろと興味津々って感じで聞いて来るから面白いよ、イチムラは素直にカッコイイし。ウエダはその二人からリーダーって呼ばれてる意味、分かる気がする。まあそういう事」

「大川は」

「私、もしオーカワが最悪の事態になったらえーんどう(エンドウ)しようって泣いちゃうよ」

 

 その程度には可愛げがあったと思った所に、オユキは雪玉よりずっと怖い一撃をぶつけて来た。


 ダジャレ込みではあるが、それだけにむしろ怖い。


 キアリアさんさえも氷魔法を使われていないはずなのに体がわずかに震え出し、赤井と俺も思わずオユキの顔をまじまじと見てしまった。


 目が笑っていない――――なんてことはなく、自分で自分のギャグに笑っているだけって感じの無邪気な笑顔。

 少なくとも悪意はなく、どこまでも真っ正直な忠告。ダジャレ混じりなのはもはや彼女の個性であり、それこそ息をするように出てしまっているだけなんだろう。


「赤井と大川にも氷水を頼む」

「はいはーい」

「はいはあいって事なんだね、いやあいい返事だ!」


 キアリアさんがオユキに乗っかりに行く程度には、オユキも魔物なのかもしれない。











「で、オユキは昨日から何をやってるんだ」

「どうしても水がたくさん必要みたいでね、冷たい水をたくさん出してるよ。ああそれからこのレースいいね」


 そんなこんなで昨日に比べ早めに仕事を終えた俺はオユキの「仕事場」へと向かった。


 染色作業中の繊維工場の片隅にたまっている冷水は氷こそ浮いていないが、別の意味で浮いていた。

「お前よく平気だな」

「暑いのは耐えられるから、固いのがダメなだけで」

「氷水を飲ませたのか」

「ダメだって、集中できなくなるって」



 とにかく、この繊維工場自体が暑いのだ。


 染色には沸騰したお湯が必要不可欠であるらしく、比較的涼しいはずのサンタンセンの中でもここはかなりサウナ染みている場所だ。

 作業してる人もみんな薄着だし、汗が肌ににじんでいる。


「まあな、あまり水飲んでるとションベン行きたくなっちまうからさ!」

「うちの人が塩辛いもんばっかり喰ってるのってさ、ほぼこのせいだからね!」

「そうですか……塩分の補給は大事ですからね」

「クチカケ村でもね、鉱山夫や木こりの皆さんはたくさん塩分えんぶん取ってたよ。人が足りなくなって援軍えんぶんを要求する事もできないからね」

「アハハ……」


 ダジャレについては相変わらずだが、それでも職人さんは笑ってくれている。


「でも冷や水、って言うか氷でいいんですか?」

「ありがたいよ、水は普段こんなに手に入るもんじゃなくてな」

「水は結局必要不可欠なんだよ。って言うか水がマズいのって本当最低!」

「このサンタンセンはお嬢さんがいたって言うクチカケみたいな雪山でもないし、小高い丘にあるから川もそれほど水が多くないのよ。シギョナツのように作物が実らないのもそれが原因かしらね」

「私だってそんなに純な水を出せてる自信ないけど、それでも喜んでくれるのはいい事だよね」


 オユキは俺らと同じ物を呑み、そして食べている。あと一〇八歳って年齢に任せてお酒を飲む事もあるけど、それでも酔っぱらうまで行く事はない。


「って言うかお兄さん、あんな大きな建物を作り直すだなんて大変だな。南の国だったらそういう時のためにコークを飼ってるんだろうけどさ」

「コークって」

「村にもいたんだけどなコーク、山賊との戦いにやられちまってよ。ギンビと今頃女神様のとこで再会してるんじゃねえかな」

「しかしギンビってのも言っちゃ悪いけど思ったよりまともな性格だったんだな」


 コークってのは召喚魔法で呼び出されるオークの事を指す。


 まあこの世界の普通のオークってのがどんなもんなのかよく知らないが、少なくとも俺はそのコークと戦って勝てた記憶がない。ミルミル村で戦って倒した事はあるけど、それはあくまでもぼっチート異能頼みのインチキめいた戦いの結果でしかない。

 そんな存在がこんな平和そうな村にいたのかと思うと実にシュールだし、ましてやそうしてまっとうに活躍しているという話を聞くと改めて感心できる。


 そして、あのギンビが可愛がってたと言うのはもっと意外な一面だった。


「自分が何とかしたかったんでしょ、自分で」

「責任感は間違いなくあったんだよ、でも使い方が違ったんだよな……それだからあんなに背伸びして背負いこんじまってさ……」


 みんながこうして嘆く程度には、ギンビも支持を得ていたのかもしれねえ。まあ、街道の整備の最中にパンを持って来てくれるイトウさんには敵わなかったみたいだけど。







「それで仮ギルドの目途は立ったの?」

「まあ一応な。あさってかしあさってまでにはなんとか屋根ぐらいはね。資材だけはあったし」

「そうなの、それは良かったわ。でも実際、慣れない作業で痛くはないの」

「ミルミル村にいる間に慣れちまったよいろいろ、って言うかこれもある意味冒険者らしい仕事だからな」


 何も魔物を狩るのだけが冒険者じゃねえことはもうわかっている。

 イトウさんのように街道を修繕したり、風魔法で害虫を追い払ったり布を乾かしたり、それから手紙を届けたりするのも立派なお役目のはずだ。


「じゃ私も冒険者のお役目をしているのかな」

「まあそうなるな」

「私も魔物でしょ」

「そうだな」

「なのに冒険者ランクまでくれてさ、しかもWランクだなんて」

「人間でも魔物でも、村や町、と言うかギルドに役立つか否かが全てだからね。動物でさえもライセンスを渡すのがギルドだってトロベは言ってたけどな」

「もしかして私、コークのせいで信用されてるのかな……」

「俺にはよくわからないけどな」


 コークにまで冒険者ランクが与えられ、チームの一員として活動していたというお話もトロベから聞いた。

 コークはあくまでも自発的ではなく主人である存在の付帯的存在ではあるが、だとしてもランクを与えられるのはそれ相応の実力と心構えありきのはずであり、コークがひとたび冒険者ランクにふさわしからぬ事を起こした時の責任まで背負っているとすると、召喚魔法使いってのは実に難儀なお仕事だ。


「まあ、こう多く(コーオーク)のコークが活動しているんだから、魔物にも偏見がないのかなってのは嬉しいけどね!」

「あ、ああ……」




 それでこうなるも、またオユキらしくていいじゃねえか。

オユキ「第一部終了まであと4話なんだから、頑張ってお行き(オユキ)なさい!」

上田「もういいよ……」

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