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ぼっちを極めた結果、どんな攻撃からもぼっちです。  作者: ウィザード・T
第六章 同級生の恐怖(第一部最終章)
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大川博美のどうしてもと思う事

 そういう訳で次の日は早速朝から仕事だ。

「ずいぶん変わったのね」

「ああ、変わりもするさ、って言うか変わらなきゃやってられねえだろ……あーあ本当に面倒極まるお話だけどさぁ……」

「今の方が素敵かもしれないけどね」

「俺はとにもかくにもよ、たった三人になっちまったこの町のギルドのためにも今まで以上に張り切らなきゃならねえ訳だよ。応援してくれとは言わねえけどさ、頼むぜ本当」

 イトウさんは女の人に渡された水を飲み、肩を動かしながら街道へと向かっている。



 本人が職人なのかそれとも職人の妻なのかはわからないにせよ、いずれにせよ背筋をピンと伸ばした強そうな女性。この町に二日もいながら牧場とシギョナツへの街道と宿屋とギルドしか行き来していなかったせいか、俺はこの町の事を何も知らなかった。


(幸い、お金ならまだそれなりの量がある。俺はともかく、女性陣にはそれなりの物を贈ってやらなければならないな)


 女性への贈り物と言えば何だろうか。


 宝石、美食、リゾート、そして衣類。


 そんなベタベタな発想しかぼっち男には思いつけないが、それでもここでは一番いい回答のはずである。

 市村は元から無関心だから俺と同レベルとしても、赤井がそれこそ三人の女性に四六時中贈っているような「プレゼント」はここにはない。もちろん赤井はTPOのわからないような人間ではないが、少なくともいつもあの三人に渡していたような手駒は持ってないだろう。



「ちゃんとギルドを作り直さなきゃね」

「一応土台だけは残ってるよ、三田川をして崩せなかった土台がな」


 幸い施工図は既にある。俺たちはその予定に付き従い淡々と組み立てて行くだけの肉体労働者だ。

 木材は昨日以上に重い。この世界に来てから疲れは一晩寝れば吹っ飛ぶようになったとは言え、それでも量を見ると正直うんざりしたくもなる。


「大川、とりあえずギルドの建て直しが終わったらさ」

「………………」

「重いならば素直に言えよ」

「………………」


 昨日もやっていたはずなのに改めて現実逃避したくなって大川に話を振るが、大川はただ無言で木材と戦っている。


 昨日置いた床板の横に柱を立てる大川の力に、俺は感心するより先に嘆息した。



 大川博美と言う女子生徒は、決して見る者すべてを圧倒するような空気を放つ存在じゃなかった。それ以上の空気を放つ三田川と言う存在の前で埋もれていただけなのかもしれないが、いずれにせよ正直大川に近寄りにくい。


「どうしたのよ」

「いやその、大川がそっちをやってるんなら俺はこっちをやろうと思ってな、まあそういう事だよ」

「ああそう」


 大川と旅をして一週間近くになる。言うまでもなく同じ屋根の下に寝続けているが、その間俺に話しかけてくる事はほとんどない。



 ナナナカジノの後の初日にお互いの弱味を吐き出した時。この前七並べをやった時。



 その二つがほぼすべてだった。


 そして戦い続きの昼間にかけて来たセリフと言えば、「あっちの敵を頼む」だの「俺が囮になってみせる」だのとても高校生らしからぬそればっかりだ。

 ましてやいわゆる協力プレイを必須とするようなゲームならともかく、リアルな殺し合いの最中に出したそれである。


(って言うかこんな経験をした日本の高校生なんて俺らぐらいだろうな……)


 人殺しだけじゃなく、大工仕事からさえも遠い世界から生きて来た俺たち。木材の感触にも未だ今一つ慣れないままだ。


 そんな中赤井はミワと共に俺らの側に立ち、じっと作業を見守っている。一応木くずの片づけや道具の持ち運びなどの雑用はやっているが、後は口も手も出さない。


「キアリアさんの依頼を果たすんだよ」

「そうね」


 結局俺たちはそれ以上特に何の会話もないまま、木材を運んでは組み立てるを繰り返した。あまりに腹が減ったのでこの世界に来て初めて昼食を取り、その上にキアリアさんの計らいで回復魔法もかけてもらった。

「本当に疲れって取れるんですね」

「白魔導士用の依頼として鉱山に行って現場作業員に回復魔法をかけるってのもあるからね」

 栄養ドリンクみたいなもんらしい。

 神様の力を何だと思ってるんだよって話だが、これもまた現実だろう。赤井とミワに回復してもらっている間、大川はずっと仏頂面だった。


 ああ、僧侶も白魔導士も回復魔法を女神様の力を借りて使うのは同じらしく、両者の差は


1:神の洗礼を受けたか

2:一定以上の魔法が使えるか

3:聖書の教えに忠実であるかの三点しかないらしい。


 三番目はともかく一・二番目の条件を満たしているはずがない赤井が僧侶なのは、それこそチート異能って奴なんだろう。










「ずいぶんと不愉快だったみたいだけど」

「そう見えた?」


 日の沈むと共に作業を終えた俺たちは宿屋に戻り、お互いの成果を報告し終わった。

 市村もセブンスもオユキもトロベも元気にはっきりと言ってくれたのに、大川だけは終始不機嫌そうだった。

 良くなかったのと四人から聞かれ、その度に首を横に振りまくっていた。赤井の方は見ようともしない。


 その大川、俺の寝る部屋に入って来た大川に対して当然の疑問をぶつけると、横に振られていた首が斜めに動き口が可愛らしく開いた。


「どうしたんだよ」

「わかってるんだけどね」

「何がだ」

「…………私、どうしても赤井の事がね」

「ボーっと突っ立ってていざとなると美味しい所を占めに来るような?」

「わかってるのよ、わかってるんだけど…………」


 傍観者として振る舞い、いざという時にカッコイイ所を持って行く。

 それはまさしくRPGをプレイする人間の有様かもしれないだろう、なるほど大川の顔をゆがめさせるには十分な力だ。


「大川、お前ずいぶんと最近背筋が伸びたな」

「普段の意識のおかげかしらね、こんな所でもと言うかだからこそしっかりしてないと上田君たちにも申し訳が立たないでしょ。私がしゃんとしてなくて迷惑かけちゃったら」

「だからか?だから赤井と張り合っていたいのか?」


 既に一晩寝れば体力全快は常識になっている。


 大川は小中学校の頃には激しい練習で筋肉痛を起こして翌日まともに動けなかった事もあり、それがほぼない今の環境はある種の理想郷のはずだってのに、顔は浮かない。


「あのね裕一。私は、強い私でいたいの」

「赤井に見せてどうする気だ?」

「それはその、どうしても、ね……」

「柔よく剛を制すってのが柔道だろ?お前の方が今は剛だな」


 理屈で押す事しか、俺にはできない。何でも言う事を聞いてくれる、って言うか先回りする河野以外の女との付き合いがないせいか、どうしても俺はこうなってしまう。


「俺にはよくわかんねえけどさ、ガンガン突っ込んで来るような存在をいなして投げ飛ばすのが柔道だろ?」

「まあね、確かにその通りかも」

「でもさ、俺はそう言うのもありだと思う。俺みたいなチート異能もねえのにさ」


 挑んでも挑んでも敗れて砕ける。そんな経験もまた後には糧になる。


 セブンスだってあんな年齢で両親を亡くし、トロベだって相当な修行も積んだはずだ。オユキだってまあ、百年以上生きてれば何かあるだろ。

 もちろん俺だってと言うにはあまり失敗してねえけどなあ、俺の人生。いつもいつも何かに救われているような俺の人生じゃ、あまり参考にもならないかってのはさておく事にしたい。



「正直、私には武器がないから、強かったはずの自分がね」

「今はできる事をするしかないんだよ、お互いさ」

「ありがとう、少し気が晴れたわ」


 もっとも力強いつもりだった自分が、今や一番力弱くなっている。


 内心見下していたガリベンオタクの赤井よりも。


「理想と現実の折り合い、俺も元の世界に戻ったら苦労するかな……」

「また、お互いの弱みを握る事になっちゃったね」

「まったく、奇妙な関係だよな本当」




 クラス一の剛の者のはずの存在と弱みの握り合いとは……ったく本当、この世界ってのはいろいろ面白い事が起きるもんだ。

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