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ぼっちを極めた結果、どんな攻撃からもぼっちです。  作者: ウィザード・T
第六章 同級生の恐怖(第一部最終章)
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たった十日なのに

まもなく第一部最終話です。と言うかこの後4話はほぼプライベートです。

「とは言うものの、かなり難儀だな」

「本当に申し訳ございません……」


 あの戦いの次の日、葬儀の準備に追われている赤井以外の六人に、ギルドから新たなる任務が与えられた。


 内容は町の修繕、簡易ギルドの建築、それから街道の整備————————まあ簡単に言えば三田川の後始末だ。


「まったく、三田川は何を考えてあんな真似を……」

「彼女の事をぶつぶつ言っていても何も始まらないから。ただでさえ人手不足なんだから!」




 あの華美な建物は元々南の国の王様の一族が建てた建築物と言うより美術品に近い代物であり、元々はリゾート施設の一つだったらしい。

 だが建てた人間の一族が不祥事をやらかして王族の身分を追われ、サンタンセンの町の所有物として残されることになったらしい。

「それでも二百年はくだらないらしいんだけどね」

 骨董品とかじゃなく、もはやこの町の生き証人同然だった存在。冒険者ギルド化した末路が幸せだったかはともかく、あそこまであっけなく、かつその価値なんか認める気のない存在に壊されたのははなはだ気の毒でしかない。


「一応見た事はあるけどね、シギョナツとかクチカケとか」

「はっきり言ってただの小屋でした、それからギルドと言うと建物より先に職員や資料とか」

「もちろんそれは一番大事ですが、正直な所ギルドマスターである私一人で回しているようなギルドだったので」

「ああそうですか…………」




 死体の回収(ほとんどが骨と灰だが)が赤井と市村、街道の整備がイトウさん。町の細かい修繕がトロベ、そして俺は大川とキアリアさんとギルドマスターと共にギルドの建築工事だ。


「大工仕事なんてまったくのド素人なんですけどね。それから剣だって」

「素人にしては筋がいい、と言うか心構えがいいんだよね。剣は剣に過ぎない事をよくわかっている」

「剣じゃなくて口でまとめたいんですけどね。口で通じなければしょうがない、で済ませちゃっていいんでしょうか」

「野生の獣って奴はわかりやすいよ。

 サンタンセンではたくさんの虫を飼っている、彼らは実に素直に葉っぱを食べ、糸を吐き、子どもを作る。誠意を見せれば見せるだけわかりやすく答えてくれるし、逆もまたしかりだ。もちろんかけ方を間違ってはいけないけどね、私のように」


 もしミワに少しでも優しくしていれば、あるいは激しく叱りつけて立場をわきまえさせておけば。それはもう繰り言であり、どうにもならない過去なんだろう。


「新しいギルドはこの町らしいものにする」

「この町らしいと言うと、やっぱり派手な」

「サンタンセンはそんな町じゃない。どっちかって言うと荒っぽい町だよ、本当はね」

「赤井もそう言ってましたよ、キアリアさんが代表かと思うとそうかなって言いたくなりますけど」

「そうかなあ?まあ、一応絵図面はあるからさ」

「そうですけどね……」


 ギルドが壊されると共にギルドにあった物資もまるっきり消されたというのにもう絵図面を作ってるだなんて本当用意のいい事だなと思い、ふと眺めてみた俺の目が点になったのはついさっきの事だ。


 プレハブ小屋、としか言いようがない。それこそ数日で出来上がりそうな代物だ。そりゃいくら即席で必要だと言っても、前あったやつと比べるとどうしても見劣りする。


「この町にギルドがあったのは、ほぼ街道の山賊の取り締まりと西側の警備の問題なんだよね。

 シギョナツは元から穏やかな町で冒険者ギルドはいらなかったし、クチカケ村もペルエ市でカバーできてたはずなんだけどあそこの村がやっきになっててね、それでシギョナツもエスタの争乱や魔物の出現でなしくずしにギルド設立となってね。

 そして何よりエスタだよ。あそこは三つの町の中で一番大きいけどマフィアたちが抗争を繰り広げててね、とてもギルドなど開ける存在じゃなかった。

 どうやらそのエスタもようやく落ち着きを見せた様子でね、ああ隠さなくてもいいよ、キミらが何かしたんだろ?」

「リオンさんに俺たちの名前を出してください」


 ギルドはハローワークでもあり、ある種の金庫でもある。セキュリティがしっかりしていなければ置けるもんじゃない、それにまたその冒険者たちにとっての仕事場ってのも必要不可欠だ。

 俺たちのような第三者が平然と歩く事すらできなかったエスタにはとても無理な施設だった。


(しばらくはリオンさんが仕切るんだろうな、それでもリオンさんならば公平に裁定もしてくれるはずだ。まあもしかするとギルドマスターに別の意味での圧力をかけて高いランクを配りそうな気もするけど)


 リオンさんのいたずらっぽくも頼もしそうな顔を思いながら、俺は木材を運んでいる。


「重いですね」

「まあとりあえず今日は土台を組むだけで十分だよ。報酬は出すから、しばらくこの町にいてくれないか?」

「ありがとうございます、今回いろいろありすぎてしばらく考えごともしたいので……」

「報酬はあなたたち七人全員の宿代と言う事で、とりあえずは七日ほど」

「後で相談してみますんで」



 いずれにせよ、一か月もミルミル村に引きこもり、そこを飛び出してから十日も経たないと言うのに、いろいろな事があり過ぎた。


 二人連れは七人連れになり、三人の同級生と再会して旅の仲間となり、また別の四人の同級生とも顔を合わせ、やはり三人の同級生と敵対した。


 俺自身、三ケタにも達しそうなほどの魔物と人を斬った、と言うか殺した。


 俺はこの辺りでしばらくゆっくりするのも悪くはないとか思いながら木材を運び、先ほどまでの戦いで疲れた手を振りながらとりあえず今日の仕事を終えた。







「本職じゃなかったんですか?」

「あくまでもこの世界に来てから手に入れた力だ、俺もアカイもな」


 夜には葬儀も行われた。三田川により殺された冒険者は二十名あまり、くしくも俺たち一年五組と同じ数だ。


 大半の冒険者は既に骨すらも焼かれて灰だけしか残っておらず、ギンビの死体も原型をとどめていない。そのギンビもキアリアさんとギルドマスターがあらかじめ火を点けて燃やしており、残っているのは骨だけだった。


「すべての魂魄は女神様の元へ……」


 この世界での葬儀を実に丁重に執り行う赤井、この町の神父に負けず劣らずの貫禄を持ったその同級生の姿は、実に輝いている。

 ミワやイトウさんも感嘆しながら手を合わせ、そしてゆっくりと頭を下げる。二十個の墓に入れられた遺骨とその魂が安らかに眠ってくれることを、俺たちはただひたすらに祈った。







「いろいろこれまであり過ぎた事もあるし、しばらくはこのサンタンセンに留まりたいと思っている。あのギルドの復興とかもあるしな」


 そして葬儀の終わった夜の宿屋で、当分はこのサンタンセンに滞在する旨を述べてみた。


「まったく、悪いのはミタガワであってウエダ殿は関係ないだろうに……まあそれがウエダ殿の本質なのだろうな」

「聖職者の名に懸けてとか言う気もありませんが、上田君の頼みを無下にする理由はもっと存在しないのであります」

「私だってね、恩を仇で返すのやだから目一杯手伝う!」

「負けてられないわよ!」

「パラディンってのはこんな時に働いてこそなんだろうな」

「もちろん頑張って、なるべく早く仕上げます!」



 その結果、すがすがしいほどの満場一致だ。誰か一人や二人ぐらい反論するかと思ったが、ここまで見事に対応されると本当に気持ちがいい。

(ぼっちだった俺がここまで変われるのかよ……)

 自分なりに感動もしている。


 涙は出なかったけど、代わりにありがとうと言う五文字を口にしながら首を下げた。


 ああ、飯がうまい。

第二部更新は、外伝を挟んで6月半ば予定です。

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