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ぼっちを極めた結果、どんな攻撃からもぼっちです。  作者: ウィザード・T
第六章 同級生の恐怖(第一部最終章)
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ある役者志望のパラディンの一言

今回は市村視点です。

 元から三田川恵梨香と言う存在を、俺は良く思っていなかった。




 自分がいかに優れているかをアピールする事に余念がない人間の事を意識高い系って言うらしいけど、彼女はその典型に思えた。




(そりゃ少しでも何かミスがあると思えばすぐさまそれを補いに行き、そしてさらに努力を重ねてのし上がろうとする姿勢はいいよ。俺だって俺の夢のために、ドラマを何度も見て芝居の巧拙を必死に見極めようとしている。

 でもその努力が、果たして何のためにあるのか。その答えを誰も聞いてないんだよ)


 少なくとも今の彼女は、ただ気に入らない奴をぶん殴る道具として使うためだけに学問を行っている女でしかなかった。

 赤井のようなただのガリベンオタク、恋愛感情がなければ別に絡む必要のない存在をぶん殴るために「ニート予備軍」だの「犯罪者」だのわめき倒して三人の彼女をも巻き込んでわざわざ一対四の状況を作り、学内での地位の一つである成績の優位まで奪おうとした。

 結果は現在の所一進一退のようだが、それでも一点でも勝てばむやみやたらにはしゃぎ一点でも負ければ身命を賭して「ふくしゅう」に乗り出す姿は、正直気持ち悪いを通り越しておぞましい。

 と言うかその努力は学問のみならず運動や芸術にも及んでいるかもしれない。藤井の絵を見てそんなの私でも描けると言わんばかりに道具を買い、その上でそれ以上の絵を持って来るかもしれない。




 ————悪役。


 ライバルではなく、悪役。それが俺の三田川恵梨香に対する見立てだ。




 そこまでの事を思っていながら俺が攻撃を受けていないのは、単に無害な存在だからと思われているに過ぎない。

 少しでも目に留まれば、すぐさま彼女は演技を磨いて俺を殴りに来るだろう。


「パラディンが聖騎士だって言うんなら、三田川の心の闇を払いたいよ」

「あれは闇ではなく光であります、自分はもっともっと輝けるはずだと言う光であります。しかしあれ以上に光られたら見る者の目が潰れる光であります」


 強すぎる光。

 そんな言い回しがとっさにできる赤井は紛れもなく、モテるに値する要素を持っているだろう。弁護士志望だとか言うが、赤井ならばできる気がする。

 この世界にやって来て俺がパラディン、赤井が僧侶を言う役目を得て共に戦うようになってから、その確信はますます強まった。


 だが赤井が気に入らない人間は、その彼の丁重な理屈に耳を貸す事はない。ただ非難したい、正当化したいがために耳を閉じる。


「大川、あまり赤井を毛嫌いするんじゃない」

「そう……でも私遠藤の事もあってね……」

「理由もなく嫌い続けた先にあるのは遠藤だ、あいつはもう自分の中の正義に凝り固まってしまっている。今の遠藤を救えるのはその刃を叩き折り、その上でゆっくりと時間をかけさせられる存在だけだ」


 大川はこの世界に来てなお、赤井にやたら突っかかる。


 その手の趣味嗜好が世間的にどうとか以前に、ただ気に入らないだけ。そんな理屈で力を振るえば不利になるのは振るった方ばかりだ。

(どんなに正義があろうと残虐な存在は世論を集めない。正義の味方はあくまでも正当なる手段を取ってこそ正義の味方だ)

 演劇に善悪二元論もないだろうが、それでもヒーローはカッコよくなければならないし、悪役には悪役なりに悪辣な行動も求められる。悪役が汚ければ汚いほど、主人公がそれを倒す喜びは増す。自分自身2.5次元ミュージカルにも興味はあるし、わかりやすい悪役についても学びたかった。


 そしてそうして学んでいくだけ、三田川恵梨香と言う人間が見えて来た。







「私はね、どこまでも往生際の悪い男におしおきをしただけなの!だのにいくらやっても聞かないから……!」




 三田川は、本気で泣いている。上田を殺すつもりで出した大岩によりギンビを殺し、その上でなお泣いている。


「あ、あの人は、本当に皆さんと同じ世界の……」

「俺たちがそう思っているだけで、彼女はそう思ってないんでしょう、おそらくは」


 三田川の言ってる事は、はっきり言って遠藤と何にも変わらない。




 自分が正してやる。自分こそがこの世界をあるべき姿にできる。その力があるのになぜ使おうとしないのか。使って何が悪い。




(ああ、英雄のつもりなんだな。英雄になるために戦ってるんだな)




 ノーベル賞、総理大臣、いや世界征服。




 わりと本気でそこまでのレベルの夢を抱えているんじゃないだろうか。




「彼女は今さっき赤井が言った通りの人間です。彼女の夢は本気で世界の頂点を取る事にあります。ああこの世界とは言っていませんが」

「このヒトカズ大陸の王者、いやキミたちの世界の王者になる気かい!?」

「その力は、誰か大事な人のために振るわれるべきじゃないんですか!今ミタガワさんがやってる事は自分のためだけです!ミタガワさんは誰かを好きになり、その人のために何かをしてあげたいと思った事がないんでしょうか!私にもっと力があれば、ユーイチさんのためにもっと尽くしたいのに!ああ、東です、東に行っています!」


 これまでのペルエ市とシンミ王国との間の山道の山賊との戦い、それに続くナナナカジノ襲撃戦、エスタでの抗争。

 それらとの犠牲者の多寡はさておき、この戦いはどれよりも血生臭く、そしてやるせない。


 そんな中でも上田のために戦う女性であるセブンスの叫び声は、不思議なほどきれいだった。

 戦う力のないなりにヘイト・マジック、続いて生命探知の魔法を使い、俺たちに戦いの動向を伝えている。


「三田川は何を狙っている?」

「ミタガワさんをののしった者が守りたい物……!」

「ヘイト・マジックが負けたのか!」

「そうは思いたくありませんが!あるいはまだギリギリのところで抗っているのかもしれませんが!いずれにせよ、私はウエダさんを守りたいんです!」

「あっちょっと!」


 だがそのヘイト・マジック、しかも指輪で強化したそれすら打ち破ろうとするほどに強大な魔力を持つ存在になってしまった三田川の存在に俺たちは絶望を感じ、それでもセブンスはあきらめる様子がない。トロベをも置き去りにして走り出しながら、再び魔法を構えようとしている。


「あんな口の悪い男、徹底的に矯正してやるべきよ!」

「口ほどには性格も悪くなかったと思うけど!」

「死ねば神様仏様だって、あああの勝ち逃げ男本当にムカつく!!あんたの次ぐらいに腹立たしい、消えなさいよ!」

「もう死んだだろ!」



 三田川の怒声が聞こえて来る。

「まずい!」

 トロベが叫んだとおり、ヘイト・マジックが効いていない。効いていたとしても弱っているかもしれない。




「まずいまずいと言わないでまず良い(まずいい)所を探さないと!」

「れ、礼を言う、アハハハ……!」


 オユキのおかげでトロベまで猪突する事は免れたが、それでもこのままではこの町が全滅する。かと言って下手に動けば上田をぼっちにした攻撃のとばっちりを受けなければならない。


(ひとりぼっちを七人ぼっち、いや町ぼっちにはできない……)


 確かに上田の能力は最強の能力だが、それでも限界はある。あくまでも安全なのは上田だけであって、その上田をハブった攻撃は上田のすぐそばに大打撃を与える。

 上田の能力はこの世界を破滅させる能力にもなりうる、今の三田川のように手を出す事を死んでも諦めないような奴が相手なら!




「ああうっとおしい!!」




 だがそんなためらいこそ、三田川にとってはつけ入る隙だった。




 光の柱が、ギルドに落ちた。




 焼ける事もないまま、ギルドが一瞬にして消えた。崩壊じゃない、消滅だ。




「あんたなんかにずいぶんと手間をかけさせてくれちゃって……!」


「ギルドマスターだけは無事みたいだけどねぇ」


 キアリアさんの空元気が、虚しく響く。この先の演劇人生で俺は三田川ほどの悪役に出会えるのか、その自信がなくなった事だけは間違いなかった。




「ハイパー・ヘイト・マジック!!」


 そして、この状況で上田の背中に飛び込み、魔法を放ったセブンスほどのヒロインに出会えるのかの自信も。

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