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ぼっちを極めた結果、どんな攻撃からもぼっちです。  作者: ウィザード・T
第六章 同級生の恐怖(第一部最終章)
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三田川恵梨香の暴走

「お前、しょせんはこの程度か!」

「じゃあさっきのそれでまた避けてみればいいじゃない」




 圧倒的な力の差。ぼっチート異能がなければとても勝てそうにないはずの存在を、あまりにも軽々とやっつけようとしている。


「これが……これが風魔法の行きつく先なんですかい!」

「あれは、魔法に呑まれた人間だよ。力を求め、力に溺れ、力を行使することが手段ではなく目的になり下がってしまった人間の……」


 風魔法使いとして、それなりに力を求めただろうイトウさん。

 でもそれはあくまでも、自分の平穏かつ豊かな暮らしのため、あるいはこの町のための力であり、決してこんな恐ろしい力ではなかったはずだ。


「残念ながら、ミタガワは元からこういう人間です……」


 市村のため息が真っ赤な装束のキアリアさんの顔色を青くし、何の反論もしない俺たちがさらに青くする。




「覚悟しやがれ!」

「往生際をわきまえなさい!」


 この状況でなお立ち向かうギンビに今更同情する気もない。ただ、あの指輪もないのにあそこまで力におぼれてしまっている三田川の事を思うとやるせないばかりだ。


(って言うか三田川が作った指輪なら、ああいう性能になるのもお説ごもっともだってか……!)


 ギンビは、自分なりの最高速をもって三田川を狙おうとしている。

 だが三田川はまるで表情を変えていない。ギンビの姿さえも追い切れない俺たちとは、まったく桁が違う所をナチュラルに見せつけている。


「この!」

「確か、上田ってWランクよね?不当だと思わない?」

「るさい、とっととくたばりやがれ!」

「Jランクってのはあんたじゃなくて上田じゃないの?」

「あんな小僧の何が俺に勝ってるって言うんだ!」

「私だって知らないけど、でもあんたがザコキャラだって事はわかるから。あんたがJランクなら、あの空気男の上田ぐらいでもJランクにはなれるんじゃないの?」




 縮地突進を使い十歩離れ、十二歩突き進み、そしてさらに一歩離れて剣を打つ。


 三段構えのフェイント攻撃を、三田川は涼しい顔をして受け止めている。魔力を使っているのかいないのかはわからない。


「あのギルドにいた冒険者たちはな、山賊団狩りの精鋭部隊だったんだぞ!」

「精鋭って言葉の意味がこの世界では違うのかしら」

「てめえはそれを殺しただけでも重罪人だ、山賊団の一員も同然だぞ!」

「山賊団がそんなに怖いの?」

「このサンタンセンの衣類を欲しがってる連中にとってはそれこそ悪魔と同じだよ、そいつらを好き勝手させたいだなんてお前は頭が悪いのか!?」


(まずい!)


 ギンビから出た、意外なほどにいい意味での貴族らしい理屈から出された、本人からしてみればお説ごもっともな「頭が悪い」って言葉を聞いた俺は、一気にキアリアさんと同じ顔色になった。




 誰にだって言われたくない言葉、禁句ってのはある。


 その禁句ってのが三田川にとっては「バカ」である事が、一年五組の中ではもはや共通認識になっていた。







 四月半ば、その地雷を踏んづけた四組の生徒が小テストのたびにいつもクラス一位を通り越して学年一位を取る三田川にブツブツ嫌味をぶつけられ、逃げるように学業に励んだ結果体を壊して二週間休み、そのまま転校に追い込まれた。

 もちろんその生徒の両親は三田川をいじめの犯人だと学校に訴えたが、三田川は知らぬ存ぜぬを決め込んだ上に元よりその生徒の素行がよくなかった事が災いして何のお咎めもなしに終わったらしい。




(本来ならば学業に学業を積み、徹底的にバカと言われるような要素をなくそうとするだろう!でもこの世界においてはおそらく……!!)




 三田川は殺すだろう。それももっとも残酷なやり方で。




「消えなさい」




 そう思った途端、三田川はそう小声でつぶやいた。




 小声で、わざと聞かせているはずなのに小声で。


 俺たちが背筋を寒くしていると、ギンビの体が空へと上がっていく。


「高い山は酸素がなくなって行く!」

「平たく言えば息が詰まって死んでしまうであります!」

「いやこの様子からするとそのまま一気には殺しそうにない……!!」


 ギンビは必死に足を動かし、そしておそらくは魔力をも放出して地上へと戻ろうとしている。でも全くの無駄、いやむしろ逆に上る速度が上がって行っている。



「これが、これが魔法の力なのかよ!」

「もしこの世界に大気圏があれば、いやあるいは高い所から叩き落してそのまま肉体を粉砕するとか……」


 残忍極まるやり口だ、とても人間のする事じゃない!同じ殺すにしても、先ほどの風の刃の方がまだましなレベルのそれだ!




「おいやめろ!」

「聞こえないんだけど」


 無駄だとわかりながら叫んでみる。


 そして無駄だとわかった上で突撃してやろうと目の前の壁をぶん殴ってやるが、ひたすらに硬い。


「お前、こんな事をしたら人間に戻れなくなるぞ!」

「あーあ空気がまずいわねー」

「眉一つ動いてない……」

「恐ろしい人だよ!」


 ギンビはどんどん上空へと昇っていく。おそらくは顔は膨れ、呼吸困難に陥っているだろう。あるいはこの辺りでいったん降ろして空気を吸わせ、その上でまた上げるかもしれない。


 って、それこそ水に顔を付ける拷問とまったく同じじゃないか!それこそまともな理性を持った人間のする事じゃない!


 市村もオユキもただ口を手に当てて震え、赤井と大川とトロベ、イトウさんとキアリアさんは必死に壁を動かそうとしている。

「しかし何なんだこれは!」

「壊せないし倒れない、ただのレンガにしては!」

「三田川お前、人の心を!」







 三田川を止めなければ!


 その一念で俺が壁を押すのに参加しようと思い、走り込んでやろうと思ったその瞬間。







「あっ……!!」




 いきなり何かが腰に当たった。




「お前……!!」




 いつの間にかなくなっていた、三田川が作った緑色の宝石の指輪。




 それがセブンスの右手の中指で輝き、その右手から真っ赤な弾が打ち出されていた。







 そう、指輪で強化されたヘイト・マジックの弾が。

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