三田川恵梨香の恐怖(今回、特に残酷です)
三田川にもチート異能があるのは最初から予想の範囲内だったが、それでもこんなに強大なそれがあるのは予想外だったし、予想したくなかった。
(俺にこんな力があればとかは思わねえ。けどよ、どうしてこんな人間にこんな力を渡すもんかなあ!)
市村や大川のようにできた人間や、平林のような謙虚な人間なら決して乱用などしない。したとしても一度で懲りる。
だが三田川はたぶん、何度やっても懲りない。
「お前な」
「おい、てめえ……」
俺が眉を吊り上げて三田川に一言物申してやろうとすると、先ほど雷魔法の直撃を受けていたギンビがようやく回復したのか、野太い声を上げて割り込んで来た。
「邪魔をしないでもらいたいんですけど」
「あの女か?ミワやイトウに力をやったのは」
「まあ、そうなりますね」
「はん、まったくうっとおしい女だ」
「ただうっとおしいだけだと思っているのならば、まあその方がラッキーですけど」
三田川が何のモーションももしないのに、いきなり壁が透けた。
いや正確にはガラスのように透明になり、その上で手触りはレンガのまんまだ。
ガラスとも、レンガとも違う壁。魔法でレンガをガラスに見せられてるだけなのかもしれないとも思ったが、いずれにせよまともな壁ではない。
「ずいぶんと悠長なのね」
「お前、俺たちに何を見せる気だ?」
「わかんないの?圧倒的な実力差よ。そこの自称Jランク冒険者とか言うお山の大将にね、現実って奴を教えてやりたいのよ」
三田川はギンビなんぞ無視して、俺と話し込んでいる。
正確には自慢していると言うべきかもしれないが、いずれにせよギンビなんてミワと同じように使い捨ての駒、いやその他大勢に過ぎないんだろう。
「てめえ!Jランク冒険者を何だと思ってる!この世界に何人いると思ってるんだ!」
ギンビがそれらしく吠えると共に、三田川はゆっくりと宿屋から飛び降りた。そう、実にゆっくりとしたスピードで。
「おいおいキアリアさん……!」
「あれは口だけではないね!危険だよギンビさん!」
キアリアさんもイトウさんも、口を開けて手を止めてしまっている。
まるで自然の法則を無視したようなゆっくりとした落下振り、まるで羽根が落ちるようなスローぶり、そしてまったくの無音。
言っておくが三田川は声を届かせていたように、ジャンプして飛び降りる音も俺たちに聞かせていた。
「おそらく三田川はあなたたちを、一網打尽にする気かと!」
「何だよこの坊主!」
「三田川にとって他者は蹴落とす敵か、自分の言う事を聞く存在かのどちらかしかないと考えるべきであります!」
「赤井、あと自分のうっぷんを晴らす道具としてのもあるぞ」
赤井勇人と言う数多の作品に触れて来た上でしっかりと消化できるほどのインテリオタクと、市村正樹と言う劇団員志望の男。
人を見抜く目には長けているはずの二人の三田川に対する人物評は、実に容赦ない。
「そーかそーかそういう女なのか……!いい事聞かせてくれたな!礼を言うぜ!」
「ギンビさん、たっぷりやっちまいましょうぜ!」
「そうよね、私も思い知らせてあげなきゃ……フフフフ……!」
それでギンビはと言うと「しつけてやる気」満々だ、って言うか目がいやらしいを通り越して卑しい。
俺は無論童貞だが、それでも何をするか、何をしたいかぐらいはわかる。
正直この世界の性風俗は開けっ広げであり、一夫多妻制もまたまったく当然の事として受け止められている。ミルミル村などではそれこそその行為について嬉々として語る人間が山といた、例えばセブンスがお世話になっていた飲食店のおばさんとか。
まあそんな事を差し引いてもギンビたちが三田川に何をする気なのは見てわかる。
そして、その先の結果も。
「あ」
その母音を言えただけでも、まだ手練れに類するかもしれない。
「そんな」
ここまで言えたのはたぶんそれなりのランクの冒険者だろう。
「おかーちゃーん……!」
そしてここまで言えたのはたぶんこのサンタンセンのギルドの中でもエース級の、LとかMとかのランクの持ち主だろう。
「ひぃーっ!!」
「な…………」
「お前……!」
「いいじゃないの、あのイトウってのの邪魔ができたんだから!」
三田川は笑っている。底なしの笑顔で、笑っている。
ギンビの手先たちのほとんどを一瞬で死体に変え、イトウさんの開いた口を塞がらなくさせ、キアリアさんから言葉を奪い、ギンビを震えさせ、赤と黄色の水たまりを作りながら。




