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ぼっちを極めた結果、どんな攻撃からもぼっちです。  作者: ウィザード・T
第六章 同級生の恐怖(第一部最終章)
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ギンビの不運?

 グミナ=シコって言う名の魔導士が、いきなりこのギルドで一番耳目を集める存在になっていた。


 彼女は口元をマスクって言うかイスラム教徒が使うチャドルっぽいそれで覆い、覗かせているはずの目は前髪でほとんど見えない。首から下は赤紫色のローブを身にまとい、決して下を見せようとしていない。

 でも背丈が俺とそんなに変わらない事はわかる。




「ギンビ、まさかあんたほどの実力者が女日照りかい?」

「何を言ってんだかグミナ、俺はただ少しだけ生意気な新入りを教育してやろうと、俺の善意がわからねえのか?」

「二度も攻撃を避けた時点でそういうレベルだと思うべきじゃないのか?と言うかWランクってのがインチキだってのだけは賛成だけどね、もちろんVランク、いやそれ以上がふさわしいって訳だろ?」

「だからよ、見るからのこの新米冒険者ちゃんにこの俺がさ、正しい所に収まるべきだっつってるのにさ、この頭カチカチなよぉ……」


 グミナに迫られながらもギンビは全く引く気がない。


 って言うかどうもこの顔からするとどうも本気で俺を正しい道のりで導いてやろうとしているらしい。

 俺の言葉の真贋を見抜く能力はないが、とりあえずこのギンビって人間は嘘を吐くのは下手くそだろう事はわかる。


「ったく、Rランクのくせにお前も生意気だな。まずお前から教育してやろうか?」

「どうしてもって言うんなら決闘の手続きを踏む事だね。それをやらないんならあんたはミワと同じだよ」

 

 ミワと同じって言われた途端、冒険者連中が一気に縮こまった。

 本当、彼女がどう扱われてたか丸わかりだね。確かに白魔導士ってのは回復役かもしれねえけど、戦いで傷ついたら誰が回復するんだろうか。無傷で終わる戦いなんてチート異能でもない限り存在しねえっつーのに。



「グミナ殿」

「ああトロベさん、つい熱くなってしまいまして申し訳ありません。個人的には彼女、ミワに期待していたんですけどね」

「おいおいおいおいグミナ、そいつは何かのギャグか?あんなへっぽこへなちょこでお人形さん遊びをしているのがお似合いの、声ばっかり高くて口ばっかりの万年Yランク白魔導士にぃ?」

「サンタンセンでシギョナツみたいな食物が取れる訳?あんたらのように隙あらば殴りに来るような奴に囲まれてれば焦りもするよ。その点ではキアリアさんもやっちまった気もするけどね。と言うか南のリョータイにまで行けばよかったのにさ、誰かさんの口が軽いからね」


 嫌っている人間の言葉をまともに聞くのが大人だとすれば、確かにミワはお子ちゃまかもしれない。だがここまでボロクソに言っておきながら反論するのがグミナ一人である辺り、このギルドの連中は明らかにおかしい。




「おいあんた、どこの貴族様だ?」

「ほぉ、ウエダとか言ったな、頭がいいなお前、褒めてやろう」

「…………すみません水一杯ください…………」

「んだとぉ、ギンビさんに褒められるのがそんなにイヤか、このヘンタイ」

「ヘンタイ、ヘンタイ!」

「ヘンタイ、ヘンタイ!」


 そんでちょっと言ってやった上で褒め言葉に対し拒絶反応を示してやったら、ギルド中からヘンタイ、ヘンタイの大合唱。

 まるでギンビ様の祝福を受けねえだなんて頭おかしいって扱いかよ、ったく神様仏様ギンビ様じゃねえか。

 キアリアさんもイトウさんもミワも、本当に気苦労が知れるね。サラリーマンってのはこんなもんなんだろうけど、だとすればイトウさんって人は尊敬に値するよ。


「貴族ってのはトロベの事だろ?」


 まあ俺はサラリーマンでも何でもないただの十五歳、ただの高校一年生だから言いたい事も言ってやるけど。




 その結果、俺の頭の上を水が通過し、ギルドの中に水たまりができた。




「こういう事ですから!」

「…………人の好意をどうしても素直に受けられねえ野郎って事だけはよーくわかったよ、このインチキ小僧」

「本当に頭を冷やしたいって誠意があったんならこんなマヌケな話にはならなかっただろ、三度も失敗すればわかるだろ?」

「あーあ、トロベが色仕掛けを覚えてただなんて予想外だったぜ。じゃあウエダ、お前は今度俺らの華麗なる山賊退治には加えてやらん事にするからな!後で功績をよこせとか言っても銅貨一枚やらねえからな、ハハハハハ!」


 昨日と何にも変わらない。グミナ=シコと言う存在が味方になっても、俺が二度チート異能を見せつけても。










「絶望……したでしょ?」

「まあな……」

「人は人にすぎぬ事を知るは天恵を得るの第一条件であり、虫や草でさえも己が身を知るがゆえに信仰を得て生きていると言うであります……」



 グミナ=シコの言葉に赤井は聖書の一節を唱えながら頭を抱え、市村と大川は深くため息を吐いている。トロベも赤井と同じ調子で天を仰いだ。


「僧は僧衣をまとうがゆえに尊きにあらず、神に忠実なるゆえに尊きにあり。王は血故に尊きにあらず、王は行いゆえに尊き物なり。これこそ信仰の第一文とも言うべき児童でも教えられるはずの決まり事なのだが……」

「なあグミナ=シコ、あれは本当に貴族なのか?」

「残念だけど、トロベさん」

「ああそうだ。一応王族の一族で、家そのものも間違いなく爵位を持つ。王の第二王妃の叔母上の次女の嫁いだ家の生まれでな、あまり粗略にはできんのだよ。

 まあ私と同じく三男であり、家を継ぐ見込みなんぞもともとないのだがな……」


 ギンビは、間違いなく貴族、と言うか王族だった。

 と言っても王様の側室の従兄弟の義兄弟の子って、ほとんど他人同然じゃないか。元々の家そのものも確かに貴族らしいが、あの振る舞いは完璧なチンピラでしかない。


「それで強いのでありますか」

「Jランクに自力で上がる程度には強いわよ、しかもランクアップの際には真っ正直に依頼を受けていてね。最初はZランク級の依頼でもきちんと物を聞いてきちんと受けててね、そうでしょ」

「それは南のリョータイにいた時分の話だ、このサンタンセンに移ってからだろうグミナ殿が知り合ったのは」

「でもトロベさん話してくれたよね、その時のギンビの事」


「彼はな、ツイていない男だ」


 ツイていない男と言うトロベの言葉が身に染みる。




 その後トロベが話してくれたギンビの武勇伝は、なるほどここまで上がるはずだわと納得するに値するもんばっかりだった。

 間違いなくギンビはJランク相応の実力を持ち、コネではなく実力で成り上がった男だ。だがそれ故にかえって浮かれ上がってしまい、あんな風に他人を顧みなくなっちまった。


「天恵を天恵と割り切る者に天は、えーと……」

「まあだいたいそんな所で良い。ウエダ殿は」


 下手に自分の手でつかんだ栄光だけに、手放す事ができなくなっちまうんだろう。


 本当に栄光ってのは厄介なもんだ。


 しかしこのグミナ=シコって女性、どっかで見たことがあるんだが……。

「しかし、あまりにも派手にケンカを売り過ぎたかもしれないな」

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