指輪物語
上田「んな事言ってたのにこのサブタイかよ!」
作者「まあ落ち着いて……」
「それでナイフの方は?」
「残念だけど心当たりなしだってさ、わかったのはせいぜい相当な手練れの奴が作ったって事だけ」
「アカイが魔法を使って治療してくれたし、セブンスも笑顔で献身的に振る舞ってくれたしね。やっぱり私のギャグがウケたのかなー」
宿屋に戻った俺は、回復したミワの手当に当たっている赤井を除く六人で集まっていた。さっきと同じようにテーブルの上にはナイフが置かれ、その横に俺が指輪を転がしておいた。
指輪は全く光っていない。
「キアリアさんが言うには、この指輪は力を与える代わりに持ち主のコンプレックスを強化してしまうらしい」
「コンプレックス?」
「劣等感って所だな。イトウさんのようなコンプレックスのない人はさほどの事はないようだが、それでも正直危険な事に変わりはない」
世の中にコンプレックスがない奴なんかいない。そんな負の側面が一気に強化された上でとんでもない力を得ることになれば、それこそバケモノになっちまうじゃねえか。
「ミワは腕力こそそこそこあるが紛れもなくYランク冒険者であり、それがあんなになっちまうのだからな。いっそ叩き割るか」
「やめろ、宝石の欠片が飛び散ったらどうする」
「捨てに行く旅行でもするか?」
「市村君もジョークが言えるのね」
「市村、大川!」
大川は笑っていたが、俺は笑う気にはなれない。
つまらないとか面白くないとか、不謹慎とか場に合っているとかじゃなく、紛れもなくここは異世界なのだ。
「それなんてギャグ?」
「私たちの世界には危険な指輪を廃棄しに行く物語があってね」
「そういうのはアカイが詳しいって言ってたけど、それでオーカワってアカイとあんまり仲が良くないみたいだけどー、それってウソだよねー」
「……!」
そして俺が止める間もなく大川は地雷を踏んづけてしまった。
オタクの代名詞みたいな赤井とオタク嫌いの体育会系女子の大川は、水と油に近い。市村が間にいるから衝突はしていないが、ひとつ間違えばミーサンカジノの時のように衝突が発生し、最悪パーティ分裂の危機までありうる。
自分が赤井などと同じ扱いかと言う事にショックを受けた大川の顔がきしみ、俺の頭へのチョップをかわす事もできないまま喰らってしまった。
「おい大川!」
「……いやごめん。ついそのね、赤井とは昔から仲が良くなくてね、まあお節介って言うか、どうしてもほっとけなくてつい余計な事を思っちゃってね……」
「好き嫌いは人間誰にでもある。もちろんオユキだってあるだろう」
「金属は嫌いだよ」
「まあそういう事だな」
手を出すのは俺で、おいしい所を持って行くのは市村。この構図は変わらないし変える気はない。市村について羨ましいとか思わなきゃ大ウソつきだろうけど、市村にとっては別に技でも巧みでもなく自然な行いだ。それにわざわざケチを付けに行くメリットなんぞ俺にはない。
「それでさ、エンドウってのはこんなにすごい魔法が使えるの?」
「あいつはただの剣士だ、しかし並外れて力が強い。まあこれはおそらく遠藤もまた第三者から受け取ったんだろう」
「遠藤にこれを与えて得をするのは誰だ?」
「考えたくないけどな……」
「魔王ですか?」
遠藤幸太郎と言うかエンドウコータローは指名手配犯に等しい存在であり、それこそ日の当たる場所を歩くのは難しい。そんなテロリスト同然になっちまった存在を助けると言うか力を与えるのは、遠藤の力を見込んだ上で道具にしようとするような奴でしかない気がする。
「それは理想の答えだよな」
理想の答えって市村の言葉が響く。
魔王。この世界を征服しようとしているらしい魔王。実際にミルミル村やクチカケ村、シギョナツの町などでは被害を出していたが、それでも魔王と言う存在がどんな奴でそんな真似をしようとしているのかは全然わからない。
確かなのはせいぜい、幹部たちに忠誠を誓われてることぐらい。幹部二人とそれに準ずる奴をひとりやっつけたが、それでもその三人からまともな情報は入って来ていない。
(魔王ってのも便利な言葉だよな、とりあえず悪い事をしているやつらの親玉って事にすればいいんだから。何もかも魔王のせいにすればいい、それこそ人間が生み出したずいぶんと傲慢な理屈だよな)
魔王についての最大限の情報は、魔王がシンミ王国ともう一つの国の戦争に付け込んで攻撃をかけ、一つの町を滅ぼしたって事。国ではなく町であり、いささかスケールが小さいと言わざるを得ない。
「理想の答えって」
「セブンス、魔王が何をしたいのかわかるか?」
「えっと、人類を支配して自分たち魔物の世界を、えーっと……」
「そうなんだよ、俺たちは無論この世界の人間さえも魔王の事がよくわかっていないように思うんだが。トロベ、オユキ……」
「……魔王を倒してみんなで華麗に舞おう!」
そのオユキの返事が全てなんだよな。




