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ぼっちを極めた結果、どんな攻撃からもぼっちです。  作者: ウィザード・T
第六章 同級生の恐怖(第一部最終章)
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指輪

「覚悟しなさい!」




 俺が指輪————ミワの薬指に付いている指輪に気付いて視線を反らした所に、ミワが木の杖を叩き付けて来た。




 もちろん当たらなかったが、地面がものすごい音を立ててえぐれ、杖状の穴が開いた。




 そして飛び散った土が俺に襲い掛かり、思わず態勢を崩した俺にミワの第二の矢が飛んで来た。杖を横なぎにして俺の胴を狙って来る。とんでもない速さだ。




 って言うか何だこれ、白魔導士じゃなくて武闘家じゃないか!


「剣を抜きなさい、いや抜かなくていいです、手を抜くような油断をして負けた方がいいのですから!」

「自分が何を言ってるのかわかってるのか!」

「覚悟しなさいと言っているだけです!」


 支離滅裂な言葉を叫びまくるミワから飛び退きつつ俺は剣を抜いたが、その間にミワはもう二発撃ちかかって来る。


 顔を真っ赤にしながら杖を振りまくるミワと来たら、その体型からは連想できないほどの超高速な戦いぶりだ。河野よりはましだけど、それでもかなり速い。



「その指輪を外せ!」

「人様の物を盗ろうだなんて、やっぱりウエダユーイチは悪なのです!」

「そいつによって膨れ上がった力に頼っていてはいずれ死ぬぞ!」



 口から出まかせだが、あの指輪がとんでもない力を与えているのは間違いない。俺だってこの上げ底の力に頼り切っているといつか自分を滅ぼしそうな気がしてくるが、今はそれより生き残る事が優先だから我慢しているだけだ。

(「剣崎に続きこの少女もかよ……ったくパワーアップアイテムと言えば体裁はいいが実に危ない代物だな!と言うか根拠もねえ妄想だけど、もし妄想でないとすればそれこそ一大事じゃねえか!一体誰だこんなのを配った奴は!」)

 自家製だとすればまだともかく、誰かから与えられたもんだとすると性質が悪い。

 白魔導士ってのは赤井を見るまでもなく、荒事には向かない。いつも俺たちが身体を張って突撃する中、それを後方で支えるのがメインの仕事だ。


 元より赤井は自他共に認めるインドア派のオタクで、それ系のイベントにもあまり出向かないらしい。インターネットで情報をかき集めてそれを物にしていくタイプで、その正か知らないがこの世界でも基本的に鈍足の部類に入る。さっきこの坂道を登った時も、一番後ろをゆっくりと歩いていた。

 もちろん赤井とミワは白魔法が使えること以外何もかも違うが、だからと言ってこんな動きは明らかに不自然だ。


「その指輪、誰からもらった!」

「教えてやらないです!」

「教えろ、お前が死ぬぞ!」

「人間いつかは死ぬのです!」


 目いっぱい、背伸びしたような甲高い声。ひどく気を張り詰めている。ここで断ち切ったら二度と立ち直れなくなるかもしれねえような危うすぎる声。



「トロベ!」

「わかった……!」


 決闘だの何だの言ってる場合じゃない、こいつを止めなければならない。


 トロベはミワの後ろへとゆっくりと歩み寄る。

 槍を逆手に持った、柄で背中を殴るつもりだ。

 ヘイト・マジックでもかかっていればより確実だが、今の状態では十分有効だろう。そして昏倒した所で指から指輪を抜き取り、踏み潰すなり叩き壊すなりすればいい。



「ごめん!」



 トロベが槍を構え、振り下ろそうとしている。安堵のため息を吐き出す準備はできていた。





「キャー!」

「うわわっ!」


 だがいきなり砂塵が舞い上がり、トロベが体勢を崩してミワの背中に乗っかる格好になってしまった。

 あまりにも不自然な風、不自然な砂塵、そして不自然な態勢。


「これは何事でありますか!」

「重いです……どうして騎士様がそんな真似を……」

「そなたが無茶をするからだ、とりあえずその指輪を外し」

「嫌です!」


 そんでミワは鎧姿のトロベにのしかかられながら、どこにそんな力があるんだと言わんばかりに背を伸ばしてトロベを振り払った。

「ったくなんてえ執念深さだ……」

 俺が安堵から嘆息に変わったため息を吐くと共に、金髪ロングヘアーに青と白のローブを着た男が頭を掻きながら近寄って来た。あごには無精ひげを生やし、あくびをしながらやけに高速で歩いて来る。



「おうおう、あんたがとんでもない冒険者のウエダって野郎か!」

「ああイトウ!やっと来てくれたのですか!いつにもまして適当なんですから!」

「あんたも魔導士か?」


 イトウって言う妙に日本人めいた名前のおっさん魔導士は軽く首を縦に振って俺の返事に応えながら、ミワを守るようにトロベの方を向いた。


「あのさ、あんた保護者なら彼女を止めてやってくれねえか?」

「誰が保護者ですか!」

「いいや、どっからどう見ても保護者であります(だな)(ね)。本来ならばだらしないイトウの世話をミワが見ているとか言うのもありでありますが今回はミワがあまりにも幼すぎて」

「誰が幼いですって!」


 赤井も市村も大川も同時にツッコミを入れたように、この二人のビジュアルと来たら完璧に娘と保護者でしかない。

 バカって言う方がバカでもないが、ミワの反応からしてビジュアルだけじゃなく力関係も見た目通りなんだろう。



「ああご覧なさい上田君あの指を!」

「おいおいあんたもかよ……」


 右手の薬指の指輪、ミワと違って全然似合ってない指輪。宝石の色はやっぱり見えないが、付いているのは間違いないだろう。


「完璧にペアリングであります」

「でしょう?これがあれば私たち、無敵ですから!」

「あのさミワ、ウエダってのはとんでもない奴なんだぞ……お前がどうしてもどうしてもって言うからさ」

「イトウはやる気がなさすぎなのです!こんな好機を逃すわけには行かないのです!」

「あのさ、お前ウエダが何をやったか知ってるのか?」

「知ってます、クチカケとエスタでとんでもない事をやらかして!」

「それだけじゃないんだぞ、こいつはな……」


 イトウは「俺の噂」を事細かにしゃべり出した。


 何でも俺は、五十人の山賊相手に一人で斬り込んでめった切りにして、山賊の頭であった女魔導士をももてあそんで殺し、ゴーレムの攻撃からも逃げ回ってクチカケ村の村長をぶち壊し、エスタではマフィアの一派であるダイン一党を壊滅させた男————らしい。




 うーん、何も間違ってない。




「否定しない所を見ると事実らしいな」

「否定してどうなるんだよ」

「まあ俺だって正直名を挙げたいのは本音だし」

「なら俺の負けでいいよ、正直面倒くさいし。まあその指輪だけはどうかと思うけど」


 こちとらこんな勝負どうだっていい。どうでも良くないのは、その指輪だけだ。


「逃げるのですか!」

「別にいいよ、その指輪は危ないんだから、その指輪を渡してくれたら」

「うーんそいつはちょっと無理だなぁ、これのおかげで俺の風魔法もうまく使えてるしなー、うだつの上がらなかった俺の魔法も」

「あんたはまだともかくこのミワを見る限りまともなシロモノには見えないんだが」

「ああ、って言うか俺こう見えても義理堅くてなー、俺らを負かした方にもらったこれをたやすく手渡す事なんてできねえんだわ。

 ああ、やっぱりダメか?じゃあしょうがねえか……」




 ミワは動きこそしていないが依然として血の気が引いていない。緑色の宝石、エメラルドかもしれない宝石、危ないかもしれない宝石が輝き、俺の目をさいなむ。




「って言うかあのお方って誰だよ!」

「それは言えないのです!」

「おいミワ、言えないも何ももう遅いぞ」

「えっ……」


 まあとりあえず宝石を叩き割るついでにこの二人を負かした奴を探ろうとでも思っていると、イトウと向き合っていたトロベがいきなり端っこに寄り、赤井たちもイトウを斜めから包囲し出した。



「かなりの気配……」

「そうです、この人がいる限り私たちは負けないのです!」


 トロベをひるまさせ、ミワに自信を与える何者か。仮面と頭巾をつけて剣を持ったその男はイトウとミワの前に立ち、俺に向けて仮面を投げ付けた。







「なっ!?」


 反射的に仮面を斬り落とした俺が見たのは、紛れもなく、あの男だった。




「遠藤!?」

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