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ぼっちを極めた結果、どんな攻撃からもぼっちです。  作者: ウィザード・T
第六章 同級生の恐怖(第一部最終章)
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白魔導士ミワ

「なんで避けるかなぁ!」

「なんでって言うのがなんでだよ!」




 あたりめーだろと言い返す俺に反応するかのように、やけにデカい三角帽子を被った小さな女が伸びた草の横から出て来た。





「お前、牧場の人に何をする気だ!」

「牧場の人?ごめんなさい謝ります、でも私はこのウエダって男を倒さなきゃならないんです!」


 ぱっと見では可愛くていたいけな女の子って感じだけど、なんだろむやみやたらに緊張して肩ひじ張っちまってる。

 競走でも、いやそれ以前の運動会でも、やたら肩ひじ張ってわざとかってぐらい緊張してるやつってのがたくさんいた。そしてそいつらはたいていろくな成績を残せない。

 そんで俺自身はいつも緊張と言う単語から遠い位置にいて、淡々といつものように走っていつもように結果を残して来ただけ。負けたのは、俺が単に遅かったから。それだけで全部済んだ。




「とにかくです、私はですね、どうしても名を挙げなければいけないんです!」

「決闘もいいが、一般人を巻き込んだら名は挙がらんどころか下がるぞ。ああ悪名なら挙がるが」

「悪名だなんて、この人は西のクチカケ村ってとこから大勢の人間を追い払ったような人ですよ!」


 じいさんは目と口を半開きにしながら俺の顔を見て来る。


 ほんのついさっきまでと別人を見るような眼を……したとは言い切れない中途半端な感じで俺を、と言うか俺たちを眺めている。


「牛を増やし過ぎて牛が草を食べ尽くしたら自滅って奴だと思いますけどね」

「自滅!」

「とは言えそのせいで何十人単位の人間が仕事場を失い、エスタって所に流れてマフィアになって殺し合いをしたんでしょ!しかもその何人かを殺したって!」

「それはそうかもしれねえな」



 俺の口から出たとは思えないほど、平板な返事だった。


 心が痛まない訳じゃない。

 だがその連中は紛れもなく俺たちの命を狙って来た以上、催涙弾とか持ってないこっちとしては他に手の取りようもなかった。

(「異世界に来ておいて来世を信じないも何もないでありますが……我々はまた今回も多くの人間の人生を終わらせてしまったでありますな……」)

 って事件解決後に言ったのは赤井だが、人殺しだのなんだのって俺たちがわめかれるのは、俺たちが生きているからだ。死んだ死んだで閻魔様やら鬼やらに言われるかもしれねえけど、少なくとも生きている人間に言われる事はない。言われたとしても届く可能性はないだろう、例えばこの世界から俺たちのいる世界ぐらいの差があるんだから。


「ウエダ殿はこんな風に殺し合いをする事のない世界から来た。それでもここまでの覚悟ができている。そなたはなぜまた他者をも巻き込んでこんな暗殺じみた真似を」

「って言うかまったく、植物を操る魔法で一体何をしようと言うのか」

「これは白魔法ですよ!」

「白魔法!?」


 俺らより先にじいさんがおののいてるよ。

 白魔法って言えばあれだろ、回復とか防御とか、赤井が得意な魔法、傷を癒し恵みを与える魔法だろ?


「こんな恐ろしい白魔法はどこにもないであります!」

「いえ、白魔法を植物に使い急速に成長させ、その力で敵を討つと言う使い方です!って何なんですかその顔は、冒険者だってのに!」

「ああ赤井……」


 ああなるほどとなってしかるべきお話かもしれねえけど、それより先に赤井の目の方がヤバそうだ。


 狼に吠えられた俺みたいになってるじゃねえか、教室とかで三田川から責められても平然としていたはずの奴が。


「あなたも僧侶、つまり白魔法の使い手ならばわかるでしょ、ああこんなとんでもない人に味方する辺りわかってなかったんですね、本当に程度が低いですね!」


 その目を捕らえてすかさず嚙みついて来るこの女と来たら、顔と口調こそ可愛いが、やってる事は餓えた獣だ。

 俺はペットなんぞ飼った事がないが、ブルドッグだろうがチワワだろうが吠え掛かって来る分には怖いもんに変わりはねえ。犬である以上犬歯はあるし、舌だって胃袋だってある。そうさせないためにしつけってのはあるもんだろうし、誰かが面倒を見てやらなきゃいけなくもなる。


「ちょっとお前さん、少し頭を冷やした方が……」

「わかりました、冷やします、冷やせばいいんでしょ、ああああああああ!」

「おじいさん、無理難題を押し付けるのをやめましょうよ」


 大川らしからぬ毒舌も耳に入らないかのように、牧草を踏みまくりながらわめいている。デカい帽子を被ってなかったら頭を掻きむしっていただろうぐらいの暴れぶりで、完全に頭に血が上っている。


「このトロベの名に懸けて、乱暴狼藉は許さん。それと貴公の名をうかがいたいが」

「ああそうですかぁ、名前を覚えてないとあの世へ行った時に困りますからねー!私の名前は白魔導士のミワです!ミワの名前を憶えておきなさい!」

「街中でわめくなよ、迷惑だぞ」

「さっきの一撃でやられない方が迷惑ですよーだ!」

「……これが戦術だったら感心するな!」




 大川に続く市村の呆れ声に構う事なく、わかりましたよとばかりに決闘場に行ってやろうとするミワ、やたらに鼻息の荒い白魔導士のミワ。

 伸びきった牧草をまったく顧みる事なく目を血走らせる彼女は、俺とそんなに背丈も変わらないくせにやたら子どもっぽくって言うかガキっぽく、口を両手で広げながら悪態を付いて来た。

 帽子が激しく揺れ、ミワの髪の毛をもてあそんでいる。


「パラディンや騎士様、僧侶様にそこまで言われているって事の意味が分かってもいいと思うんだけど」

「大きいからって威張りくさって、私はどうしても名を挙げたいのです!知ってますよ、Xランク冒険者さん!」

「ふーん、じゃあ俺はランク何だか知ってるか?」

「Wですよね、格上を倒せば名は挙がるんです!」


 吠える事をやめないままのミワを引き連れて、決闘場と言う名のただの坂道まで戻って来た俺たち。




 そう、オユキが攻撃を受けたあの坂道。




「そう言えばさっきここで、俺たちの仲間がいきなり奇襲攻撃を受けたんだが」

「そんなの知らないです!」

「だろうな、だがああして村人を巻き込むようなケンカを売って来たからには、それ相応の対応をしなければならない」


 俺がナイフを懐にしまうと、ミワは杖を構えた。

 赤井のとも違う、ありふれた木の杖。特に魔力がかかっているようにも思えないありふれた杖。


「殺す気ですか!ならばウエダユーイチ、あなたのような恐ろしい存在を討伐するまでです!」

「頭を冷やせと言ってるだけだ!」

 

 こっちの忠告なんか聞く気などないとばかりに、ミワは突っ込んで来る。


 ぼっチート異能に任せて軽く受け流し、その上でその杖を叩き斬れば力の差を思い知るだろう。




 俺が覚めた頭でミワの動きをにらんでいると、ミワの薬指に何かが光っているのを見つけた。




「指輪!?」

「覚悟しなさい!」








 っておいなんだよ、この杖の速さは、って言うか本人の速さは!!







 ドゴォ!!

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