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ぼっちを極めた結果、どんな攻撃からもぼっちです。  作者: ウィザード・T
第六章 同級生の恐怖(第一部最終章)
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盗賊の意味

「ったく旅の方たち、本当に災難だったね」

「いえその……」

「最近さ、西のクチカケやエスタで騒がしい事ばっかり起きててね、ましてやこのサンタンセンの南はまた別の連中が騒いでてさ。本当ならばおとなしく優しく、そしてきれいな織物を作ってるのが似合ってるのに、今じゃ自慢の織物も赤く染まってばかりでね!」

「ああ……」


 とりあえず傷の手当てを済ませ手近な宿屋に入ったものの、オユキと町の人の顔色・どっちも思わしくない。


 そりゃ織物って言えば優雅で、美しく、きらびやかで、そうでないとしても柔らかくてきれいなもんのはずだ。




「でも織物の作り手もまた職人であります。職人気質ゆえに物言いが荒々しくなる事も考えられるであります」

「何悠長に食べてるんだよ!」

「我々の世界ではサンドイッチと言う食べ物に大変酷似しているでありますが、まあ職人街と言うのはかような物であります」

「そうなのか、アカイ殿たちの世界にもかような物が……ああ手ごろで食べやすい上に中身次第でいろいろ味も変えられるので私も好きだ。ほらウエダ殿も」

 

 って言うか赤井とトロベはオユキを宿屋に連れ込んで寝かせるや悠長にサンドイッチに似た物を食ってるし、セブンスも俺に差し出して来るし……正直まだ、朝飯食ってから一時間半しか経ってねえのにさ、二人ともよく腹が減るもんだ。


「まだお腹が空いてないから今は要らない」

「今はなんですね、持ち帰りとかできますか」


 そんでセブンスはいつの間にかこの宿屋の下働きの仕事を見つけて入り込んだらしくて、宿屋の店主さんにサンドイッチを包んでもらえるようにお願い事をしている。本当に機敏だ。


「と言うか宿代安いな」

「最近めったに使われないからね。シギョナツからだと往復一日だし、南のリョータイ市はその街道に最近盗賊がはびこってててね、それで正直経営が傾いててね」

「盗賊?」


 ったく、ペルエ市とシンミ王国の間の街道にも山賊がいたけどさ、それだけじゃなくこことリョータイとかって場所の間にもいんのかよ……ったくこの世界の街道整備どうなってるんだ!








「でだよ、さっき町の人が言ってた通りこの町の南でもかなり騒ぎがあるらしい。オユキを狙ったやつがそいつらと関係してるのか否か、まずはそれを突き止めなければ」


 まあとにもかくにもまずはオユキを襲ったやつについて考えなきゃならねえって訳で、横になっているオユキの世話をセブンスに任せて俺たちは宿屋のロビーに集まった訳だ。

 テーブルに置かれたのは、さっきまでオユキに刺さっていたナイフ。


 見た目も怖いが、柄の部分に付いている顔も実にまがまがしい。なんていうか、悪魔ってのはこういう顔なんだろうなってのを彫り込んでみましたって感じの、実に悪趣味な武器。


「…………」

「このナイフはかなり強力な武器だ。トロベならどの辺りで作られているかわかりそうなもんだが、心当たりはないか」

「…………」

「そうかないか、と言うかトロベ、お前南から来たんだろ?その盗賊ってのは。おい何とか言え、話がわかりそうなのはお前しかいないんだが」

「……ああすまない、まだ口の中に残っていたものでな」


 と言うかトロベも妙な所でお貴族様らしく、丁重に噛んで飲み込むまで何一つ言わず盗賊の所で首を横に振っただけ。


「……はぁ。ずいぶんとウエダ殿もせっかちだな。まだ口の中に残っていたのに」

「…………すいません…………」


 で、あとのメンバーはこの先の世界なんか何にも知らない人間ばかりである事が見えてる以上そこは自分が何とかする所じゃないんですかって言いたかったけど、そうさらりと言われると何にも言い返せませんよ本当……。


「すまんな、普段は余裕がない物でな、戦いの最中だとどうしても早食いになってしまう」

「褒め言葉だと受け取っておきますよ、それで」

「その盗賊たちの噂は聞き付けている。もちろん退治しようと思った、だが不思議な事に、私を含む大勢の冒険者がパーティを組んで討伐にかかろうとするとどんなに必死に探そうとしてもいなくなる。雑兵の一人すら捕らえられない」

「なんだそりゃ気味が悪いな」

「そのくせ商人や旅人など弱い存在だと見ると襲い掛かって来る。実にこざかしい話だが敵を見極める技術には優れているようでな」

「逃げるのは悪だとは思わないが、それにしても程度が良すぎるな。同族嫌悪なのかもしれないがな、正直腹立たしいな」


 間の悪さと盗賊って言葉の心地悪さ、そして自分のやって来たことをごまかすかのように俺は水に口を付ける。ぬるくて喉の渇きはいやされない。


「トロベ……俺は今まで、逃げるような戦い方しかして来なかった」

「何を言っている、ウエダ殿はもう少し自信を持つべきだ。評価されてしかるべきだろう、決しておごらぬその姿勢は」

「褒めてくれるのは、昔から親と河野だけ、何をやっても褒めてくれる人間から褒められた所で、達成感はなかった。怒鳴られる事もなかったけどさ」

「ずいぶんと苦労して来たのだな。たしかにめったに褒めてくれなかった師匠のよくやったなと言う言葉は実に甘美であり、逆にめったに怒鳴らなかった母上の叱責は今でも頭に残っている」


 その心地悪さを癒してくれるトロベってのは、やっぱり正しくお貴族様なんだろう。

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