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ぼっちを極めた結果、どんな攻撃からもぼっちです。  作者: ウィザード・T
第六章 同級生の恐怖(第一部最終章)
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力の身に着け方

 サンタンセンはシギョナツから、方角で行けば東北東の方角にある。


 そのサンタンセンからリョータイまではやや道のりが遠く、そのために小さな宿が一軒あるらしい。




「しかし不思議な衣装だな、このガクランとか言う物は。とりあえず上質なそれである事はわかる」

「制服と言います」

「我々の中ではサンタンセンで作った物を身にまとうのが王侯貴族のたしなみであり、サンタンセンにあらずんばドレスにあらずとか言った皇女までいたと言う伝説もある……」

「どういう町か簡単にわかりますね」


 しかし鉱山と林業、農業と漁業と来て、その次は縫製かよ。


 ったくずいぶんとわかりやすい第一次産業の連続だね。


「それは植物でありますか、虫でありますか」

「主に虫だが、植物もかなり獲れる。ただ基本的に植物は安値で、高級品は虫からだ」

「虫と言うと、絹糸でありますか」

「絹糸?ああ、虫が吐き出す糸の事か」


 この世界にはもちろん化学繊維なんてもんはない。麻、綿、絹と言った天然繊維だけで衣服はできているだろう。


 トロベの言う虫ってのはおそらくカイコ、そんで植物ってのはおそらく麻や綿、及び桑って訳か。この調子だと染料まで取れそうだね。

 ああ本当に都合がいい並びだ、都合がいい町作りだ。


「それらの衣装はさらに南の国には卸していないのでありますか?」

「南の国か、あそこは自己完結している国でな。まあいろいろと自国だけで間に合っているような状態で、輸出も輸入もほとんどしていない。そしてさらに南の国がさっき言ったような情勢なので、わざわざそこを通り抜ける必要もないだろうと言う事でな」

「自己完結しているがゆえに」

「ある意味平穏であるとも言える。だがその地の風俗と言うのは、正直どうも分かりにくい所が多くてな。いずれは立ち寄ることになるかもしれんが、異なる世界から来たという貴殿らの力を借りたいのだ」

「やれるだけの事はやってみるよ」


 俺のため口に感心したようにトロベは学ランを撫でつけ、丁重に畳みながら俺のカバンに入れる。


 本当、異なる世界の文明の品ってすごいね。俺らからしてみればああそうですかでしかない代物なのに。


「って言うかそれ、セブンスも同じ事やってたな」

「私もやらせてー」


 オユキが触ると、繊維が立つ。冬服の面目躍如のようにオユキの自然な攻撃に抵抗しているんだろう。雑に扱われて奇妙なしわが付いてしまっているが、それでも数少ない元の世界の物品として存在感を保っている。

 ちなみに赤井も市村もこの世界に来た時にはすでに「僧侶」と「パラディン」の衣装になっており、どうやら下着までこの世界に合わせたもんになっていたらしい。


 俺の?ミルミル村にいる間に上下ともボロボロになり、雑巾にリメイクされて今でもセブンスが愛用しておりますが何か?










 さて食事も朝の会話も終わってシギョナツを発った俺たちだが、さっそく山道に当たった。

 まあクチカケ村へ行く時のような険しいのではなく幅も広くダラダラとした坂道だが、それでもあまり感触のいいもんじゃない。ましてや下手にダラダラとしているだけに、やる気が萎えそうになって来る。


「こういう所で飛ばすと後で絶対反動が来る。ゆっくりと進むに限る」

「それは上田君なりの教訓でありますか?それとも柴原先生の」

「ただの経験則だよ。あと視聴者様なりの意識としてな」


 箱根駅伝・2区の難所として権太坂とか言う坂が難関だとして取り沙汰される事は多いが、本当の反動ってのはむしろその後来る。


 残り3キロの名もない坂、そこで権太坂で蓄積したダメージが来るのか、それともその坂の方がきついのかはまだわからないが、いずれにせよ確実なのはちょっとのはずの打撃が確実に積み重なって打撃となると言う事実だけだ。


「トロベはこの坂を下って来たんだよねー」

「ああ、サンタンセンの南側は平野なのだがな。逆に言えばクチカケ村の側の山とこのサンタンセンのなだらかな丘がシギョナツを豊かな土地たらしめていると言う話だが」

「下り坂は楽ですか」

「下り坂は上り坂よりむしろ危険だ。体のポテンシャル以上のスピードが出てしまう。俺だって自分の身体相応の能力ではないチート異能なんて物を持っているせいでそれに振り回されないかどうかで精いっぱいだ」

「ウエダ殿は実に懸命だ。自分で得た訳ではない力に溺れ、それにより身を亡ぼす者は世の中に山といる。

 ただまずいのは、自分で手に入れた力に溺れる者だ……」

「いいじゃないか、自分で努力してつかんだ結果なんだから」

「ウエダ殿!」




 急にトロベが声を荒げながら振り向いて来た。声を上げる事もできないまま立ちすくみそうになった俺だったが、それでも派手に首をひねって見せるとトロベが少しがっかりしたように首を横に振った。


「自分の手に入れた力、努力は決して悪い事ではない。だがこれだけ努力したのだから、と言う甘えがあるとろくな事にならない」

「自分で手に入れた力に溺れるだなんて、まったく未経験で」

「例えば兄上だ。兄上もあれで私以上に槍術の訓練を積んで来た。あれほどまでに修練を重ねたのになぜ勝てないのだと言う思いが膨れ上がってしまったのだろう」

「だったらそっちを言えばいいのに、なぜまたシスコン全開の物言いをしたのやら」

「だからだ!兄上にとっては私のみならず、家族全てが守る対象だ。私はあくまでも数分の一に過ぎず、槍の方がむしろ本題であり、それでウエダ殿に負けた事が恥辱なのだ」

「優先順位ってのは人それぞれだがな。それこそトロベなんて、生まれた時からあの練習棒を持たされていたんだろ?」

「まあ、そうなるな」


 俺は剣をもってひと月、トロベは槍を持って十数年、イツミはおそらくトロベより長い。


 チート異能ってのは、それだけの努力をすべてぶっ壊すシロモノだ。


 それを知らずに立ち向かってあんな結果が出ちまった以上、あるいは逃げとしてあんな事を言ったのかもしれねえ。


「でも最初からトロベに帰れ帰れと」

「オオカワ、それはさー、最初はウエダと戦う事を考えてなかったからじゃない?私だって、あんまりむやみやたらに力を振るうのって好きじゃないし」

「ずいぶんと人のいい解釈だな、まあごもっともだが」


 力を持つってのは、それだけ大変な事だ。苦労もいるし、時間もいる。その両者を簡単に踏みにじられるのは実に腹立たしい。


「努力を積み重ねて来ただけ、それが崩れた時の反動も大きいか……」

「そうなのだ。それこそ得てして真面目な人間が陥りやすい罠だ。時には気を抜く事を覚えねばならない。その点オユキ殿には感謝しているのだぞ」

「ああそう……」




 真顔でこんな事を言える程度には、トロベも面白い女かもしれない。




 そう思うと、少しだけ刺激も生まれる。退屈な山道も短く感じる。




 そして山道を登り切った俺たちの目の前に、ここよりサンタンセンの町と言う看板が立っていた。


「キャーッ!!」

「オユキ!」




 ……こんな刺激は要らねえんだけど!

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