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ワーマン全滅?

「あのさ、人の事を何だと思ってるの?」

「元よりここまで親密な女がいるのにさらに三人もの女を囲み、その上に我が妹をたぶらかそうとするふざけた輩」

「そういうふざけた人間の方がいいの?悪いの?」

「悪いに決まってるだろうが!」

「じゃあ別にいいじゃない」




 河野は俺のため息に乗っかるように言葉を回す。




 確かに、立派なのとダメなのならば立派な方がいいのは当たり前だ。




 だが自分が憎い、殺したいと思うような相手がそういう立派な奴だったりすると、そんな奴を痛い目に遭わせてどういうつもりだと世間体は悪くなる。

 戦争だってあれやこれやと大義名分を整えまくってようやく開戦となるぐらいだから、ましてや個人的な人斬りなんてなおさらだろう。


 それが通るのは山賊団とか言う「国家公認」の悪人か、エスタのような半ば無秩序状態のどっちかしかねえ。


「もしかしてこのシギョナツって、イツミさんのいる何とかって国の領土な訳?って言うかお父さんやお母さんここにいるの?村長さんは親類か何か?」

「私は兄だ、兄として妹を!」

「妹が何を言ってるのか聞いてなかったの?どう考えても妹は戦いたがってるんだけど?そうして戦いたがっている人から戦いを奪うだなんて、それって横暴って言うと思うんだけど。そんな横暴なお兄さんがいるんじゃ、妹さんどころかお兄さんの他の家族にも迷惑がかかると思うんだけど」

「お前の物差しを振りかざすんじゃない!」


 河野は俺に相対した時のように、いやそれ以上に凄まじい速さで剣を振りながら、舌もすさまじい速さで動かしまくる。

 って言うか言ってる事は紛れもない正論だけど、いちいち刺さりまくる言葉を。


 その正論と剣に対して必死に抵抗するイツミもなかなか大したもんだが、いずれにせよ形勢は明らかだ。


 片手で持てる槍を両手で豪快に振り回しまくるもんだからイツミもかなりの速度、あるいはトロベ以上のそれを、河野は涼しい顔をして弾き返しまくる。


 って言うか河野の攻撃がまったく見えない、まるで異世界に来たようだぜ。

 もちろんイツミの攻撃は当たらない。



「じゃあ俺はワーマン片付けて来る、後はよろしくな」

「おい待て!」

「だーかーら、優先はワーマン、って言うか村人なんだよ、お前は二の次三の次、いーや万の次!」

「なんだと、トロベも万の次だと言うのか!お前絶対に許さんぞ!」


 こんなのに付き合い切れないとばかりにはっきりと背を向け、赤井たちの所へと走った。土を踏みしめる感触が実に心地よく、少しはいらだちも治まる気もした。









「遅いぞ!」

「すまなかった。で、ワーマンは」

「実はだな、いつのまにかワーマンが全滅していた」


 ……と思ったらこれかよ。セブンスもそっぽを向きながら深くため息を吐いている。


「役に立てなくて悪かったな……」

「いいんです、でも本当に全然感知できなくて」

「まだ五十匹以上いたはずなのにゼロって」


「あーちょっと裕一の役に立ちたいなって思ったら、いつのまにか全滅させちゃってたみたい、ごめーん!」


 ワーマンを全滅させた下手人の河野ったら、いたずらでも仕掛けたよう気分で物を言う。


 なるほど、確かに河野がいねえなと思っていたらそういう訳だったのね。本当においしい所を河野に持ってかれたな、あーあ。


「そうか、そうなのか。あの怪物はもういないんだな」

「そういう事みたい」

「ふーん……」

 あの何言っちゃってんですか、ちょっともしもし……

「私は認めない!私より弱い相手がトロベの婿になるなど!」

「いつからそういう話になった!?」

「何を言ってるんですか!ユーイチさんの嫁は私です!」


 おいおいおいおい、セブンス、お前!って言うか抱き付いて来るんじゃない!


「大胆極まる宣言でありますな!」

「セブンスってさ、お酒飲むとおかしくなるって聞いたけどさー、もしかして」

「しらふですよ私は!」


 しらふとか何とか言いながら顔を真っ赤にしてる、ったく本気の本気なんだろうな。




 と言うかこんな風にはっきりと告白されたのに対して、俺は何て言えばいいんだろうか。

 俺はまだ自分の飯さえ自分の金で稼げないからと言うには、今の俺は金に不自由していない。

 エスタの町を発つ時に礼金だからと言ってひとり頭金貨五枚(≒五十万円)ももらった以上、俺は立派な労働者だ。それにこの世界では二十歳は嫁き遅れそのものであり、セブンスのような年齢で結婚している話は全然珍しくない。

 住む世界が違う?バカバカしい、今の俺はセブンスよりずっと野蛮で、ずっとこの世界に適応しているじゃないか、血生臭いこの世界に。


「おいトロベ!ここまで言われておきながら!」

「私はその腕前を認めたのだ!」

「ウエダ!その首叩き落してくれるわ!」

「そういう事言っちゃダメでしょ!」


 言葉ばかり重くなり、ますますトロベが引いてる。

 河野と来たら本当に涼しい顔して槍を受け止めてるのにさ、力の差ってのがわからないのかね……。


「邪魔をするな!」

「私だってね。裕一の首を叩き落すとか言われちゃったらねえ!」


 ますます河野の剣が速くなる。だってのにイツミもよく耐えるよな、あんなとんでもない速度の剣に。


「イツミのスタミナは無尽蔵でありますか……!?」

「ったく、妹のためにそこまでするかなあ……」

「ありがた迷惑そのものだがな!」


 妹からそう言われてもぜんぜん応える様子がない。マジでどうしちまったんだか。




「河野、ここは私にやらせて!」




 俺たちが河野の剣とイツミの執念にあっけに取られていると、いきなり大川が名乗り出た。

オユキ「漫然(マンゼン)と戦ってた結果がワーマン全(マンゼン)滅だよ!」

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