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まあ、そうなるな

「この戦いはもう先が見えているんだ、やめよう」

「やめろって!」

「と言うかさ、勝敗の判定ってどう決めるんだよ!具体的に説明してみろ!」


 どっちも当たらない以上、結果は目に見えている。


 勝ちも負けもない剣による打ち合いが続き、どっちかの剣が壊れる。全くの無駄じゃないか。




「勝敗の判定?んー、どっちかが負けましたって言うまで!」

「ふざけるなよおい!」


 河野のふざけた言葉に目一杯太い声を出して剣を押し込むが、やはり体勢を崩して倒れ込みそうになる。


 先刻承知とばかりに体勢を立て直すと、河野はオユキの側にいた。空と海の青と砂ばかりの中でほんの少しだけ存在感の薄れたはずの彼女の側に寄り添い、青いローブをはためかせながら俺に投げキッスをして来た。


「お前何がしたいんだ」

「こんな事できないでしょ、負けを認めなよ」

「お前さ、俺に勝って何か得な事ある訳?」

「上田君こそさあ、私に勝って何かいい事あるの!」

「WランクでSランクに勝ったとなれば名前に箔がつくだろ!と言うか俺は六人がかりとは言えOランクの剣崎を負かしたんだぞ!OってSの4つ上だろ、そういう事だぞ!」


 出まかせを並べてみたが、俺がこんな事をしているのに深い理由はない。


 単に、セブンスが必死になって魔法を覚えているのに自分だけグダグダしていていいのかと言う罪悪感から逃れるためだ。つまり勝敗などどうでもいい。


「じゃあ言うけど、私が勝ったら私を裕一君の仲間にしてよね、と言うか私がリーダーになって」

「リーダーは俺じゃなきゃ市村だよ、市村のが人徳あるから!」


 市村がなんとなく立ててくれているから俺がリーダーになってるだけで、はっきり言って市村の方がふさわしいと思っている。

 市村は現在進行形で首を横に振るが、赤井だって市村と二人だった時はほとんど市村に付き従う存在だったらしい。


「俺が強く見えるとすればそれはチート異能のせいだ、地の力はしょせんこれまでと変わらない。こんなカッコいいもんを握って仰々しい装備を付けた所で、俺はただの俺なんだよ!」

「河野さんとてお話は同じ、私たちとて同じであります!むろん私たちには積めぬ経験を積んで来たやもしれませぬが、どうあがいても私たちはあくまでも物騒な得物を持っただけのただの子どもであります!」


 俺の力の限りの訴えや赤井の忠告なんぞ無視して、河野は剣を振り続ける。


 いくら細いとは言え、二本の剣をでたらめなほどの速さで振り続け、手数で俺を圧倒する。市村だったらこの間にも剣に力を込めていられるのかもしれないが、俺にはそんなパラディンの力はない。


「だからもう負けを認めればいいのに」

「お前の攻撃でも俺には当たらないよ!」

「じゃあ試してみるから!」



 河野は数メートル飛びのいて剣をしまい、俺が同じように剣をしまうのを確認すると共に右手でVサインを作った。



「何と言う風!」


 砂浜がえぐれることはないがそれでも砂が巻き起こり、俺の頭にかかる。


 そして同じような風が何度も吹き荒れ、その度に波がわずかに強くなり、そして砂浜がほんの少しだけ変形する。




 おそらくは河野だ。


 河野がとんでもない速度で動き、何が何でも俺に一発でも入れようとしているんだろう。




「何これ、こんなに必死に戦ってるのに!」

「だから、俺のチート異能のせいだよ!」


 だがその風から聞こえて来る弱音の通り、河野の攻撃は俺に当たらない。そして俺だって河野の存在を、風としてしか認識できない。強風どころか突風とでも言うべき河野の動きを捕らえる事など人間にはムリだ。




 ったく、リダンと言い河野と言い、本当に自分が相手して来た連中の気持ちがよくわかる日だよ今日は!




「上下左右がダメなら!」




 そして河野は、高く飛び込んで来た。砂浜だって事を忘れさせるかのようなとんでもない跳躍力と速度で、俺の視界に入り込む。

 ったくなんて跳躍力だよ!


 それで攻撃がキックってのはまだともかく、両側の手を構えてのビンタ狙いじゃなきゃ恐怖の対象でしかねえ。

 っていうか我ながらよく見えたもんだよ。



「だから当たらないんだよ!」




 もちろん、結果は同じだ。俺が一歩も動くまでもなくジャンプキックは外れ、速攻で突っ込んだ上でのビンタ攻撃も空を切った。




 しかしこれで俺も、河野も、完璧に息が上がった。


「もういい。この戦いはパラディンの名に懸けて引き分けとする!」


 二人とも息を切らしながら肩を落とし、市村と言う名の審判の声により引き分けがコールされた。


「ったくよ、本当に意地っ張りなんだから!って言うかなんでまだWランクなの……?」

「単に上げる機会を逃しているだけだよ……」

「まあこれぐらい強ければ安心だよね、ちょっと心配しちゃったけど……」


 そのちょっとがちょっとじゃねえ事を、俺は一番よく知っている。


 小学校三年の時学校の階段でうっかり一段踏み外したと聞いた後、河野は十日連続で俺の手を引いて登下校した。

 だらしない男だと後ろ指を指されても全然言い返せないお話だが、河野はそれぐらいの事をする女だ。


「お前のちょっとはさ、世間のだいぶなんだよ、その事をわきまえてくれ」

「でもさ、私は裕一が心配で」

「心配か、でも大丈夫だって。俺だったさっきは弱音吐いたけどさ、もう十五歳だぞ。さすがにこれだけ仲間がいれば何とかなるって




 河野も強いが、赤井たちもみんな強いし、セブンスは俺のチート異能と最高の相性の魔法を持つ。はっきり言ってかなり完成されたパーティーだ。




「とりあえずさ、みんなと仲良くしようじゃないか」

「わかった……と言うか魔物花ってのについて話も聞きたいし、裕一君の仲間の子たちと一緒にね……」




 河野が頭を下げると共に、オユキとトロベも頭を下げた。




「しかしさ、オユキさんって魔物なんでしょ」

「まーそーなるかなー」

「魔物でも人間と仲良くなれるなんてねー」

「お嬢さん、魔物って言うけどね、東の国じゃ魔物を召喚して料理人にしてる所もあるらしいんだよ、あとお給仕さんとかね」


 コーク何かと一緒にするなとオユキは少し膨れたが、この世界では魔物はとりあえずの敵ではあっても絶対的な悪ではないと言う事だ。本当、何事も使いようだよな。




「でもさ、仲良く(なかよく)する事だけでいいだなんて、人間っていいなあ寡欲(なあかよく)で」







 あの、最後の最後に何をぶちまけてくれちゃってんだよ……。




「あのーすいません、この騎士様ちょっと支えてくれます……?」



 おかげで笑い転げるトロベを抱えて行く羽目になっちまったんですから、ったく……。

オユキ「ああ今回は本編で私のギャグが決まったから、後書きではなしって事で」

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