快速チート
作者「今回かなり短めでオユキ「そんな短めなのは短め!」
「えーと、先ほどは大きく後退し、そして右側に回り込んで上田君を蹴飛ばそうとして…………」
「なにそれ、オユキ正直意味わかんなーい」
赤井もオユキも、めちゃくちゃ混乱している。村人さんたちも大口を開けながら見ている。
「お前さ、もういい加減ネタバラシした方がよくないか」
いっぺんに手づまりになったからでもねえが、この尋常じゃねえ動きはどう考えてもあれだ。俺が、と言うか俺らが持ってるのと同じ奴だ。
「ネタバラシ!?それってどういう意味!?」
「遠藤はとんでもない力持ちだったし、剣崎はものすごい長い剣を平気で扱っていた。そして市村はパラディン様で、赤井は聖職者様だ。学校でそんな力を見せる素振りあったか?ああ、たぶんだけど神林たちも同じ能力を持ってるだろう」
河野の口は俺の二の矢に対応できなかった。それでも勝手に言ってろと言わんばかりに剣を動かす、まったく男らしいやり方だ。
と言うか、あまりにもぼっちなもんでコミュ障の口下手を自覚するほどだったはずの俺が、なぜ河野にここまで言い返せたのかわからない。
「コウノ殿、ウエダ殿はさように女神より与えられた力におごる事はなく研鑽を積んでいる。もし貴殿がその力を恥じるのであれば私が守ろう」
「そうであります、遠藤君や剣崎君のようになってしまってからでは遅いであります!」
今更チート異能うんぬんを持っている事を恥じるつもりもないが、あまり隠すのも問題だ。
俺のぼっチート異能をカミングアウトしたのはセブンスと大川だけだが赤井はほぼ気付いているだろうし、市村はそんなのを知った所で軽蔑などしないだろう。オユキもまあある程度は気付いているはずだ。
「言っとくけどさ、お前俺を傷つけようとしてないか?」
「何言ってるの、そんなに追い詰めた覚えはないけど!」
「でもさ、勝負ってのはそんなもんだぞ。俺ははっきり言って、この剣でお前の剣を叩き折ろうと思ってたんだぞ」
「まあそれはね!」
「陸上だってな、負ければ傷つく。勝ったとしても傷は付く。
今の俺はな、俺を傷つけようとする攻撃は当たらないようになっているんだ。まったくどんな理由かわからないけどな!」
「じゃあ私の剣は何?」
「剣は俺じゃないからな」
剣は俺じゃないだなんて、全くおかしな日本語だ。
でもそうとしか言いようがない、もし俺の剣にも同じチート異能があるんなら剣崎と斬り合う事なんかできなかった、剣を傷つける事はできないはずだから。
あくまでも試合だからこそ、河野は俺の剣を狙っている。狙えている。
「じゃあ言うけどね、私は普段よりものすごく速く動けるようになったの!」
「そうか、疲れないのか?」
「疲れないよ、制御が大変だけど」
「滑って転んで大けがしそうなのはお前だな」
なるほど、とんでもない超スピードか。
でもまあ100メートルを9秒80で走れば世界の大スターになれるし、1キロ3分で走り続ければフルマラソンはだいたい2時間7分少々、日本代表ぐらいならばあっと言う間だ。俺にとっては喉から手が出るほど欲しい力である事に間違いはない。
「私は大丈夫だよ、それより裕一こそさ、このスピードに付いて来られるの!」
「当たらなきゃ同じだ!」
河野はまた俺に斬りかかる。でも当たらない。
「さっきわかっただろ、お前の足は俺に当たらなかったんだよ、まったく態勢を崩していた。それが俺の力だ」
「でもさ、それはこっちだって同じだよ。裕一ってさっきからずっと防戦一方でしょ」
確かに超快速と言うのはものすごい力だが、こうして戦いに使う分にはただ不意打ちのためにしかならない。そんでいくら攻撃をした所で、ぼっチート異能のある俺には当たらない。
そして、こっちの攻撃もする暇がない。したとしても、間違いなく当たらない。
「この戦いはもう先が見えているんだ、やめよう」
 




