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上田裕一vs河野速美

「じゃ勝負しない?」


 その言葉がどれだけなぐさめになったのかはわからない。


 明日もまた戦いがあるとは言え、俺たちばかりいい思いをしてセブンスを魔法の修行に励ませると言うのはどうにも気分が悪い。

 クチカケ村だって似たようなもんだったが、それでも俺たちには別の役目があった。


 


「とりあえず河野」

「何上田君、速美って言ってよ」

「お互い、遠藤とか剣崎とかのようにならないようにしなくちゃな」

「その二人何かやったの」

「二人とも今やお尋ね者だよ。力に溺れたらダメだぞ、こんな場所で言うのもなんだが」


 海岸で幼馴染二人が肩を組み合うでも海を眺めるでもなく、剣を握り合っている。


 俺は幅広で大柄な剣、河野はその半分から七割ぐらいの背丈の二本の剣。どう考えても俺が力で、河野が速さと技で押す感じだ。


「これって実に異世界的だと思う?」

「じゃれあいに類する物だと思われるであります、それほど特異でもないと愚考する次第であります。まあ私も市村君もそうでありますが、殺さねば殺されると言う場を幾度もくぐって来たのであります。河野さんもおそらくは生死を賭けるような思いを幾度なくして来たのでありましょう、だからこそこうして仲間とそういう軸を離れた戦いができる事は大変な幸運であると思われるであります」



 じゃれあいかよ、簡単に言ってくれるな赤井も。


 ほら赤井だけじゃなく市村も首傾げてるじゃねえか、人殺しの得物持ってする事が子供のケンカ扱いかよ……。


 でも河野がぎこちなくこの世界式のVサインをし、トロベがうなずいたって事が全てなんだろう。


「トロベはこういう事よくあったの~」

「しょっちゅうとは言わんがな。お互いの腕を計りながら言葉を交わし、その上で敵の程度を見る事もある。人間的な程度をな」

「わかるよ、ウエダって自分では情けなさそうにしてるのにいざって時は突っ込んじゃってさ、カッコいいんだけど向こう見ずって言うか、本当に自分を大事にして欲しいなって思っちゃうって言うか」

「まだ出会って四日だとか言うが、さすがに齢を重ねた存在は頭が良い。冗談も面白くなるはずだ」


 最後だけ余計だが、トロベの言葉がこの世界がどういうもんなのか雄弁に語ってやがる。未だに異邦人様である俺の方が、往生際が悪くてみっともない人種なんだろうな、うん。


「裕一、準備はできた?」

「できたよ、まあSランク冒険者の力ってのを見せてくれよ」

「じゃあ行くよ!」


 とにかくこれまでと同じように、丁重に剣を振ればそれでいいんだろ?やるしかねえよな、うん。まあぼっチート異能があるし本当に殺そうなんて思わねえだろうし……




 ギィン!




「うわっと!」


 とか考えてたら、いきなり手がしびれた。なんだよ雷魔法か、と言うか河野はどこだ…………


 っておい、なんでいきなり目の前にいるんだよ!


「どうしたの、そんな顔しちゃって」

「こんな顔にもなるわ!なんてえスピードだよ!」

「こっちも速いからね!」


 速いっつったって、軽く数メートルは離れてたのに目すら追い付かなかったのはおかしいぞ!

 速く動いたと言えばミーサンだ、バイク並みのスピードで俺に向けて突っ込み、俺に抱きついて殺そうとして来た。あの時は口では威張って見せたが、ぼっチート異能がなければ今頃は消し炭になってたかもしれねえ。


 だが河野の速さは次元が違う。移動した事すらわからない、残像と言うか軌跡がどこにあるのかすらわからない。


「ワープでもしてるのかよ!」

「そんな事してないけどー」


 叫びながら剣を押し戻し、距離を空けようとする。とりあえず敵の動きを見極めない事には戦いも何もあったもんじゃない。河野がどうやって速く動いているのか、その秘密を解き明かさない事には無理だ。


 幸い、膂力では勝っているらしい。その力に任せて、強引に押し込む。

 河野の二本の剣がX字状になっている、あるいは叩き折れるかもしれない。


(もし剣が折れたら悪いな、俺だって経験あるし……)


 力を込めて剣を押し出し、体勢を崩しにかかる。そこを思いっきり斬りかかれば!







「ありゃー、決まったと思ったのにー!」







 ……あれ?なんで河野が俺の右側から蹴りを入れて来たんだ?




 って言うかいつの間にか俺は前のめりに倒れ込みそうになり、あわてて右足を砂浜に埋め込みながら体勢を立て直そうとしていた、らしい。

 河野もキックをかわされたので少し不格好だが、俺よりはずっとましな態勢だ。




「おい河野……!!」

「決まったと思ったんだけどなあ、じゃあ改めて行くよ!」

 どういう事だと俺にツッコミをさせる暇もなく、河野は再び二本の剣を振り回す。

 移動速度だけじゃなく、剣を振る速度も速い。細身の二刀流のせいもあるだろうが、目が全く追い付かない。


 そしてツッコミもできなければ、「突っ込む」事もできない。


 ぼっチート異能に任せて真正面から強引に猪突猛進し、攻撃を受けないのをいい事にこっちだけが攻撃して手数任せに押し切る。あるいはその上で仲間たちにとどめを刺させる。


 今回は一騎打ちだから後者は無理だし、前者をやろうとしてもまず追い付けない。




 つまり、俺の戦法が通じないと言う事だ。

オユキ「ウエダユーイチvsコウノハヤミ、次のお話は闇(ハヤミ)の中?」

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