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謎の黒髪女

「本当にすごい魔法ですね、私も覚えたいです!」


 セブンスは実に素直に感心している。本当にいい笑顔だ。


「そうかい、でも私だって師匠から教わったからね」

「師匠?」

「産婆さんだよ、良かったら習ってみるかい?」


 産婆さんが魔法使えるのかよ。

 ああ、って事はあるいは生命探知の魔法ってのは、あるいはこの世界における助産師の資格のようなもんなのかもしれない。だとしたらそれこそ国家資格のようなもんなのかね、それはそれで面白くもあり面倒でもありだけど。


「でも探知の魔法は難しいよ」

「それでもやらないよりはずっといいと思います」

「そうだよ、そういう人間はモテるよ。うんうん。ところで皆さん、きょうだいは何人いるんだい」

「いません」

「同じく」

「私も一人っ子です」

「私は兄がいるであります、現在二一歳の兄が」

「俺にも兄がいる、五つ上の立派な兄が」

「私は七人中の六番目だ、だが三番目の兄は顔も知らんがな…………」



 そんな俺ら七人の異邦人と魔物と現地人の集団を砂浜を踏みしめながら先導するアムダンさんだったが、何気ない質問に対する俺らの素直な返答に目を見開きながら振り向いた。


 そう、トロベが七人きょうだいってとこ、じゃなくて俺も大川もセブンスも一人っ子だってとこで。



「あらそうかい、やっぱりその頭からしてこの辺りの人じゃないってわかってたけど、そこんとこ本当に違うんだね~」

「私もびっくり~、クチカケ村だって一人っ子って希少価値なのに~」

「具体的な数はわからないが、俺たち二十人の中でおよそ半数は一人っ子だぞ」

「そうなの?まったく探知魔法がなければ今頃はただの口うるさババアだとかあの連中は陰口叩いてたけどね……」


 半数が一人っ子だってのはド適当な発言だが、実際兄弟姉妹がたくさんいる家ってのはそんなに多くない。

 強いて言えば日下が三つ上のお姉さんと二つ下の弟を持つ間っ子だが、他に二人以上のきょうだいをもった奴がいるのかいないのかわからない。まあ、俺に兄弟について話してくれるような奴なんてやっぱり一人っ子の河野ぐらいしかいないけど。


(そのお兄さんもトロベが物心付く前に、って言うか下手すりゃ生まれる前に……)


 って言うかこの世界の妊娠と出産は大変だろうな、そんでここもミルミル村みたいに多産する人がもてはやされてるような場所で、その分だけ子供を産めない親の肩身は狭くなるだろう。そして生まれた子どもも……と言う事も多いらしい。トロベの兄って人も……だったんだろうな。


 そんで実際、その師匠だって言う産婆さんも子供ができなくて半ば敬遠されてたんで、必死になって生命探知の魔法を学んで尊敬されるようになったらしい。


「とは言えむやみやたらに土を掘り起こせば土壌が確実に傷つくでありますな……」

「だから言ってるでしょ、出て来てからでも遅くはないって。ほらほら、私らが軽くごちそうしてあげるから……」

「トロベ」

「私はそれが良いと思う。急に出て来る物ではない以上、あわてても始まらん。と言うかあ奴の言う通り種を植えてから一日で大きくなるとするとおそらくは明日朝からが本番だろう」




 あまりにも重い過去をさらりと披露しておきながらどこまでも冷静な騎士様の前に、俺は見事に押し切られた。


「セブンス殿やオユキの魔力も問題であります、取り分けオユキの」

「ちょっとアカイ、なんでセブンスはセブンス殿でオユキは呼び捨てなのー。私は108歳でセブンスは15歳なのにー!」

「それはまあ、言動がなあ……」

「セブンスは実にしっかりしている。オユキは少し浮かれ過ぎだぞ」

「もしかして私の事お子ちゃまだと思ってる~ねえウエダ!」

「悪いけど思ってる」


 噓ついてごまかしてもしょうがないじゃないか。

 下手くそな嘘ついても親や河野にはすぐ見破られるし、そんで他の人たちからは正直でよろしいとか褒められたりそれならしょうがないとかあっさり流されたりするし。


(昔っからそうなんだよな、噓つきは泥棒の始まりとかって言うけどさ、なぜか俺の頭には噓を吐くって発想が出て来ねえんだよ)


 オユキはふくれたけど、赤井も市村も大川も首を縦に振っている。それからアムダンさんって現地人も、かわいいもんを見つめる目をしてる。


「しょうがないでありますな、108歳と言えど人間に直せば16歳、いやもっと下かもしれないであります。何よりおそらくはクチカケ村から出て来ず世間も狭かったと思われるであります以上」

「やれやれ、精霊様も人間も中身だね。この前の子だって本当見た目は可愛いのに目とか中身とか本当に怖くってね……」

「名前は」

「名乗ってくれなかったよ、本当にシッシって追い払いたくてしょうがない感じでね。それであのならず者連中を片付けてくれたのはいいんだけど、お礼を言う暇すら与えない感じでね……ああ、怖い怖い」



 オユキとリダンを比べるまでもなく、アムダンさんは謎の黒髪女の話をしてくれる。


 どんなに立派でも、男女問わずモテる訳じゃねえ。

 俺だってモテる要素はそれなりにあったはずなのに、河野以外の異性からはまったく見向きもされなかった。

 アムダンさんが話してくれたその女性は、たぶん俺と同じくモテない。

 ぼっちと孤高ってのは全然違うって事を、今更ながら思い知らされる。


 まあそれより、まずはその生命探知魔法の使い手とやらだ。

オユキ「生命(せいめい)探知の魔法を使う声明(せいめい)を出しまーす」

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