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リダンをやったのは誰だ?

 背中から生やしている羽以外すっぽんぽんの坊やが、縮こまって震えている。




「もしかしてこいつがお前の力を」

「5、2割ぐらいは……」


 布くずと化したローブを拾ってみるが、ぱっと見にはただの布だ。でもまあ、何らかの力があるんだろう、うん。

 こいつが5割って言ったのを2割に直したのか、それとも5分の1を2割と言い換えたのかはわからねえけど、それでも逃げるぐらいならばできそうなもんだってのに、逃げようとしない。


「あのさ……本当なら帰った方がいいよって言うよ?でも、あまりにも調子に乗り過ぎたよなお前」

「こんな恥ずかしい思いをする事になったのもお前らのせいだからな!」


 ため息を吐きながら、俺たちはこの乳首も尻も丸出しの坊やを囲む。


 で、あわてて魔法を使って隠してる……一番大事な部分だけ、大きな葉っぱで。


 葉っぱ一枚あればいいって、そんな簡単なお話あるかい。

 雪山のはずのクチカケ村からそんなに離れてないのに、まあシギョナツはクチカケ村から比べれば寒くはないけど、少なくとも横浜の夏休みとは全然桁が違う。



「お前らのせいだからな……!」

「いやまあ、否定はしねえけど……」

「お前らを倒して、お前らとの戦いで全部やられたことにするからな…………!」


 結構真面目な言い草だが、さっき笑い転げていたトロベよりも説得力がない。


 と言うか、もう見てらんない。




「とりあえずさ、オユキ、頼む」

「りょーかーい!」


 オユキが筒状の吹雪を起こし、この裸の坊やを包む。少なくとも防寒対策にはなっていたあの服のない坊やに取っちゃ、文字通りの冷凍地獄だろう。


 上から下まですっぽりと包まれた坊やは震え出し、真っ裸同然の体から緑色の粒に力を与えようとする。


「ここここここ、この、この種ががががが」

「はい」


 残っていた、と言うか出しきったワーマンの種を全部育ててやろうってつもりらしいけど、俺らがそんな事を許すわきゃない。

 あまりにも平板な「はい」って二文字と共に、氷の柱がリダンを取り囲む。四方、いや上も含めれば八方から。


 っつーかさっきまで全然寒がってなかったのに、この布ってそんなに厚いのかね、それとも魔力でも込められているのかね。


「きれいでもあり、恐ろしくもあり……」

「しょうがないよ、兵器だからね」

「大川」

「本当、敵じゃなくて良かったわね。と言うかこの氷、大丈夫?」

「大丈夫だって、氷は水だから。ゆっくりと溶かしてこの村のための水にしてもいいんだしー。ああ、その厄介な種は潰しちゃったよ、凍らせて粉々にしてー」



 氷の柱。傍から見ている分には実にきれいで、俺の汚い顔もカッコよく見える。


 でも、それこそ植物の種をあっという間に粉砕しちまう程度には恐ろしく、ハンマーで殴ってもハンマーの方だけが壊れそうなぐらい固そうなのもわかる。って言うかなんなんだこの透明度は。




 そして氷の中では局所的な吹雪が止まず、俺らが氷の内側で八方を囲んでいるため逃げる隙間もない。


「ざぶい……ざぶいよぉ…………」

「悪いな、って言うか最後に聞かせろ。お前一体どんな奴にやられたんだ?」

「言うわげあるがぁぁぁ……っでいうがわがらん、ものずごく、ばやい……ハクション!」


 歯を鳴らしながら震えている。自慢の回避性能も俺らの眼よりも早く動くってからくりがわかっちまった以上もう発揮しようがない。って言うか逃げ場所なんかねえ。


 ったく、この服やっぱり相当な力がかかってたんじゃないのか?そいつをあんな簡単にボロ布にするような奴が、あそこまでの回避性能の持ち主をたやすく仕留めるような奴が、こんなのに認識されるわけはねえか……


「ああ……」

「どうしたオユキ」

「きたないなあ……」


 あ、葉っぱの裏からなんか液体が落ちてる……。


 ってどう考えてもこれって…………って言うか周りが白いせいかはっきり見えるぜ、めっちゃ黄色い。




「おおおおおお前らだっでぇ、ざぶいど、じだぐなるだろ……」

「これはもう、武士の情けってのが必要な段階じゃねえか?」

「賛成であります」

「それは何だ?」

「これ以上相手にみっともない真似をさせない、敗者の名誉を守ると言う事でありますな。まあ詳しくはわからないでありますが」


 もう十二分過ぎるほどに名誉なんぞぶち壊しになっている気もするが、それでも俺らなりに何とかしてやりたい気持ちもあった。



「あまりにもおいたが過ぎたな。オユキ、氷のかたまりで押し潰してくれ」

「うん」



 氷の柱の中、逃げ場のない牢獄の真ん中が開き、大きな氷のかたまりが浮かぶ。

 やっぱり見ている分には実にきれいな、氷のかたまり。剣がきれいなのと同じ理屈かもしれねえ。


 まるで俺の目を引き付けるかのように漂っていた氷のかたまりは、ゆっくりとリダンに近付いて行く。




「お前らがごんなごどじでぼ、あらがじめぼぐがだぐざんの……!」

「はいはいわかったよ、短小坊や……」




 最後の最後にまたあそこをもろ出しにしながらリダンは氷に押しつぶされ、光となって消えた。


 後には血の一滴も、ワーマンの種も残らない。




 そして氷さえも、水蒸気になって消えた。




「オユキ、お前すごいんだな」

「だってさ、私の氷は兵器だったんだもん。そんなのは消しちゃった方がいいでしょ」

「だってあんなもんどうやって」

「あれだけの柱ってのは一種の召喚魔法でね、あらかじめ別の空間にしまって置く訳。まあ、半ば無理矢理に私が作ったから、力込めないと溶けるってのもあるけど」


 自然の氷と、冷蔵庫の氷は全然違う。オユキは自然のそれのような氷を強引に作っているが、それでもどうしても不自然さってのは出ちまうんだろう。その不自然さをオユキは保持に使ってたわけか。


「参考になったわオユキ」

「ええヒロミって魔法使えるの?」

「どうしても全力が入り過ぎる事が多くてね、必要でない所は手を抜けと言う事ね」

「まあねえ」


 オユキと大川がハイタッチしていた。

 まったく、本当に縁ってのは不思議なもんだ。雪女と柔道娘がハイタッチするだなんて、ったくどんなシナリオだよマジで……。









※※※※※※※※※










「ありがとうございます!これで堂々と大地を耕せます!」

「まだ戦いは終わっていないのであります……」

「とは言え、ワーマンを増やせるのはこのオユキが倒したリダンだけだろう」

「そうである事を願うでありますが、とは言えあのリダンはかなりの数の種子を撒いた可能性があり」

「しらみつぶしにやるしかないと言う事か……」


 まあとにかく、俺たちはとりあえず村人さんに報告した。

 喜んではくれたけど、まだおそらく全滅はしていない以上、顔を緩める事はできない。まあワーマンには花びらはあっても、おしべやめしべはなかった。と言うかどう考えても虫が寄り付かない花なのにどうやって受粉するんだ?あるいは魔物だから俺らが思ってるのと違う増え方をするのかもしれねえけど、とりあえず種を狩り取っておかねえと安心はできねえ。


「そうだよね、早くワーマンを全滅させてわー」

「やめい」


 俺はオユキの頭に手のひらを叩き付けた。


 戦いが終わってない以上、「ワーマンを全滅させてわー満(ワーマン)足」とか言うダジャレはなしにしてもらいたい。またトロベが行動不能になったらどうする気だ、すぐ残党軍が生えて来ないとは限らないのに。




「それでも親玉を倒した事には変わりないし、疲れてるんだろ?」

「とは言え、数がわからない以上……」

「八十五だね」

「は?」

「そうか八十五匹か、相当いるな……」


 農夫のおじさんが勝手に数を言い出して満足している。八十五匹、どうしてそんな具体的な数がパッと出て来るんだろう。


「って言うかアムダンさん!」

「ああ、甥っ子から聞いたんだよ、あなたたちがあの魔物の親玉をやっつけてくれたってさ」

「俺たちじゃないですけど、なぜまたわかるんですか?」

「私だってね、魔法の一つぐらい使えるんだよ、生命探知魔法ってのがさ」


 と思ったらアムダンさんだった、ったくいつの間にここに来てたんだか。


 生命探知の魔法とやらで数を当てたらしいけど、ニツーさんと言いアムダンさんと言い、この世界の中年男女は生命探知魔法を使える法則でもあるのか?


 ったく、田舎のおばさんだと思ってたらこれかよ、本当に異世界は大変だね。

オユキ「ワーマン倒してわー」

上田「言わせねえよ」

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