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トロベの弱点

オユキ「ソヤって声を出してても戦いぶりは粗野(ソヤ)じゃないよね~」

「うりゃああ!」


 わざとらしいぐらい粗野な叫び声を上げながら、トロベは槍を振るう。

 その攻撃に応えるかのように魔物花はつるを伸ばし、ムチのように叩き付ける。




「植物の魔物と言ったら」

「見ての通りつる及び茎による打撃攻撃、それから花粉によるかく乱や目鼻への打撃」

「やめなさい……」

「大川って花粉症だったのか」

「ああそうよ……」


 大川と赤井はいつもこうだ。赤井が真剣に神様の教えを説いていても、大川は眠そうな目ばかりしている。

 あるいは本来の人間関係ってのはこんなもんかもしれない。


「よくケンカできるもんだよな」

「ユーイチさんはケンカした事ないんですか?」

「俺はさ、いつも出会う奴出会う奴同じ調子でさ。たまに悪意を持って来る奴がいてもぜんぜん通らなくって、それでいつのまにか親切になっちまうか離れちまうかでさ。そうやって何度も何度も突っかかって来るのって三田川ぐらいのもんだよ」

「あれはもう趣味なんだろう。わざわざ全方面にケンカを売りまくり、そして敵を増やして自分を追い込みますます自分を高めようとする」

「…………頭おかしいんですか?」


 俺がほんの少しばかりうらやましながら嘆いてみたが、市村もセブンスもまったく容赦がない。

 と言うか市村も目一杯オブラートに包んだつもりだろうけど、全然包めてない。ああいう風に四方八方に敵を作るような真似をするような人間を、市村は理解できないんだろう。


(でも演劇にはそういう存在も必要だろ……俺はそんな人生歩みたくないが)

 

 そういう人間がどういう末路をたどるか、答えは目に見えている。


 だからそうならないようにするために、遅ればせながら俺はこうして仲間を作っている。

 トロベの戦いぶりもよく観察する。



 口ばかり粗野を気取っていても、やっぱり技のこなしは違う。


 トロベの槍————剣と違って斬るより突くのに向いているはずの得物が、正確に振り上げられたツタを斬っている。

 そしてその斬った反動をつけて高く斬り上げ、花びらをも斬っていた。


 バサリ、ではなくザクっと言う音を出すような花びらを。



「確かに見事な技でありますが、花弁はともかく茎は無制限かもしれないであります」

「それを確かめるのも私の役目だ、危なくなったら来てくれ」


 あの花の魔物がこれまで戦って来たのと比べてどれほどまで強いのか、それはまだわからない。わかるのは、トロベが強いって事だけ。


 あれほどの切れ味を、俺の剣は出せるだろうか。

 市村だって、聖なる力を蓄えて初めて本気の刃を振るう事ができるはずだ。


「しかしあまり早くやり過ぎると効果を見尽くせない可能性がある」

「大丈夫だ、おそらくはこれの近似種がたくさんいるんだろう。そうであろう地主殿」

「そうです、色が違うのがいくつか出てまして」

「色が違えば特性も違う可能性があるであります、あまりその種に深入りするのはどうかと」

「そうだな」


 赤井と農民のおじさんの言う通り、他にもこんなヤバい花がたくさんある以上、その中の二本を見て決めつけるのはよくない。


「これ以上耐える必要もないか、さっさと残りも鎮めてしまおう」



 さっきの一撃によって花びらを半分近く失った一匹はそのまま消え去り、そしてもう一匹は相棒と同じようにツタを振りまくって、やはりトロベの槍にそのツタをぶった斬られた。

「ん!」

 そしてこちらは、中央のがくから黄色い花粉を吐き出して来た。赤井は状態異常回復の魔法を構えながらじっとトロベを見つめ、そして顔面から受けながらもひるまず突っ込んで中央のがくに槍を突き刺した。


「消えないじゃん」

「どうやら花びらの方が重要らしいな」


 がくから引き抜くまでのほんのわずかな隙を生かして背中を叩きまくるツタに構う事なく、トロベはキモい花に向けて槍を振り下ろした。

 花が真っ二つになり、分かれて消えて行く。




「まあ、特にどうと言う事もない……魔法は感謝するがな……」

「そうでありますか、でも目鼻は」

「大丈夫だ、どうやらあの個体は花びらが弱点であり、それから花粉はどさくさ紛れに相手をひるませるだけのそれらしい」

「恩に着ます」


 赤井の魔法を身に受けながら、トロベはあくまでもクールだった。

 生まれだけじゃなく、育ちまで俺らと違うように思えてならない。


「しかしこんな花がなぜ急に生えて来たの、絶対誰か裏で糸引いてるやついるよねー」

「うむ、おそらくは魔物……」

「魔物の幹部と三度目の戦いか……」

「何だと、魔物の幹部?なるほど、本当にそなたら強いな!」


 エノ将軍にオワット。


 どっちも口ばかりではなかった。それと同じかそれ以上のレベルの相手が待っているのだと思うと、否応なく背を伸ばすしかなくなってしまった。


 と言うか、そんな事しなくてもトロベは背筋伸ばしっぱなしなんですが。




「それでね、やっぱり事が済んだらこの町のおいしい物食べたいよね」

「お前は能天気だな」

「……そうよ、ちゃんと全てを片付けてからじゃないと!」


 なのにオユキも大川もこれかよ、まあ大川の場合悲願だったみたいだからな。


 都合ひと月も食わなきゃいい加減飢えるだろう、心理的に。なぜかわかんないけど同じ飯に飽きる事のなくなった俺でさえも食いたいと思っちまってるしよ!


「やっぱり新鮮なお魚食べたいよね!もちろん貝もね」

「あのな雪女、そういうのはすべてが終わってからだ!」

「おいオユキ!」

「オーカワ、かいも食べたいか~い?」

「あのなぁ、そういうのはもういいから!」


 ったくもう、こんな状況で、こんなきれいな顔でオユキはこんなダジャレを飛ばすんだから、正直寒いっつー「フッ……」


 へ?




「クックックック……ハハハハハ、ハッハッハッハ……!」




 何だ、これ………………




 ドヤ顔のオユキといきなりくずおれて笑い転げ出したトロベ以外、ここにいる全員がお口あんぐり。




 あんなかっこよかった顔が派手に崩れてるじゃねえか、しかも隙だらけ。



「そうやって大笑いしてすきを見せちゃうところも好き(すき)~」

「や、やめてくれ、ハッハハ、すまない、昔からどうも……ハハハハハハ……!」




 俺はオユキに重たい顔をして歩み寄り、口を無言でふさいだ。って言うか本当に雪女らしく冷たい唇だ。ってのはどうでもいいけど、なんだよこれ……



「赤井………………笑いの作用が収まる回復魔法ってないか?」

「あれば使っているであります…………」


 ったく、こんなカッコイイ女騎士様の弱点がこんなくだらないギャグだとはよ……って言うか笑い声もうるさきゃ鎧が地面とこすれる音もうるさい。




 ……あれ?エクセルに負けたのってこのせいじゃね?

オユキ「(さかな)が食べられないオオカワの神経を逆撫(さかな)でしちゃったかな~?」

上田「やめろ、トロベが死にかかってるぞ」

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