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vsトロベ

「コマのような回りっぷりに(コマ)ったなあ」


 トロベの槍が、鋭く唸りを上げる。


 なんという速度だ。槍と言えば突きかと思いきや、あわててかわした上での振り回しもかなり速い。



「槍と言うのは普通全身金属にしないものでありますが」

「全身の金属の槍を振り回せる程度の膂力があればこそだ。受けてもらおう」



 並の槍ならば根本か腕でも狙いたいが、トロベの速さはまったく隙がない。



 必死に剣で弾き返そうにも、叩きつけるのも斬り上げるのも難しい。


「この程度ではあるまい!」

「えいやっ!」



 声だけ張り上げて、必死に叩きつけたり斬り上げたりしてみせる。


 実際それで何度か当たるのだが、トロベの言う通り膂力が違う。

 強く叩き付けて隙を作ろうにも、その倍の速度と力で押し上げられる。突いた隙を狙おうにも、すぐさま横振りで薙ぎ払いに来る。


「ちなみに冒険者ランクは」

「一応Sランクだが」

「やっぱりそうですか!」


 Sランク。俺より四つも上のランクだ。

 そういうふうに位で押されるのは気にならないが、単純にその肩書を裏切っていなさそうなその振る舞いを見ると自分が行かなければならないだろう道のりが遠く思えて来る。




 エスタにいる間に市村とも練習棒で打ち合い、俺は二十戦で五勝十五敗した。

 ひとつ上のVランクですらこうなのだからそれ以上ともなればますますとんでもない腕前になるのだろうとか軽く考えていたが、俺は今そのはるか上の腕前を見せつけられてわずかに震えている。




「どうした!」

「はぁ…………」

「まさかまだ、女神から受け取った力を出していないと!」

「まあ……そうですね…………」


 日本人らしいお茶濁しに徹した物言いを繰り返しながら上がりかけの息を整えるが、向こうはこんな閑談をしながらも平然と槍を振るっている。


 また、チート異能に頼るしかない。



「わかりました!やってみせましょう!」

「楽しみだ、その力を見せよ!」



 一段と楽しそうに笑うトロベに向けて、俺は突進を開始した。


(でももしトロベに俺を傷つけるつもりがなかったら……ああ考えても始まらないか!)



 エスタで市村に勝てなかったのは市村が俺に「勝つため」に棒を振っていたのが理由であり、もし「殺すため」「傷つけるため」だったら俺は二十戦二十勝してたかもしれない。


 このトロベ、見た所俺に勝つ気はあっても俺を殺す気はない。それにより失敗したのならばそれまでだ、俺はそう割り切った。




「猪突猛進!?されどそれを許す何かがあると言う事か!なれば!」

「飛び退いた!?」


 だが俺のこの挙動に対し、トロベは猛攻から一挙に後退し距離を開けて足を踏ん張った。


 読まれているのかもしれないが、それでも何でも俺には他に勝つ道が見つからない。




「うわあああああ!!」




 虚勢を張りながら突進する。




「隙間があるかぁぁ!!」

「上田!」


 市村の叫び声と共に俺は改めて目を見開く。


 トロベはまるでどこかのゲームのように、回転しながら攻撃を放っている、槍の先っぽがすさまじい速さで動き、まるで面のようになっている。

 後ろを向いている時に攻撃すればいいとかってレベルじゃない、こっちの本気に対し向こうも本気を出して来たって事なんだろう。


 そしてそれに対する俺の返事こうげきは、やっぱりこうしてぼっチート異能にかけて猪突猛進する事しかない。



「それが女神からもらい受けた力か!」

「その通り!!」


 素人の剣振りが、速すぎる槍に向けて振り下ろされる。速度の違いも当たる可能性も無視して、ただ当てずっぽうの攻撃。おそらく、手甲を付けてなければ手首を持ってかれるだろう。



「やるな!」


 運良く、トロベの槍に俺の剣は当たった。


 だがあまりにも固い。腕がしびれ、反動で俺の顔に向けて剣が跳ね返って来そうになる。力を込めて受け止めるが、どうにもこうにもならない。



 そして、止まらない。



「逃げるしかない!」


「逃げるのか!」


 これほどまでに回転しながら、平然と言葉を放っている。


 と言うか、回転したまま追って来るとは思わなかった!


 芝刈り機か、それともコマか。いずれにせよまともに打ち合う事もできない以上逃げ回るしかできない。



「逃げ回って疲弊を待つのも戦いだと思いますが!」

「悪い心掛けではない、だが!」


 セブンスたちが息を殺して見守る中、俺は目を離さないようにしながらトロベから逃げ続ける。

 開き直るような声を出してみせるが、それでもトロベからさげすみの四文字を込めた言葉は出て来ない。




「赤井、打撃を受けた時は治癒を頼む!」

「わかりましたであります!」

「感謝するぞ!」


 ぼっちのくせに仲間に甘え、同時にぼっチート異能に頼って突っ込む。あまりにも図々しい戦い方だが、目の前の存在を鎮める方法は他に思いつかなかった。


「かくごぉぉぉ!」

「ユーイチさん!」


 まったく張りのない甲高い声を上げながら、再び突っ込む。


 ぼっチート異能と赤井と防具、そしてセブンスの声援を借りて。




 ――――果たして。その声に集中を乱されたのか、それともただ単に速度が鈍っていたからか、さもなくばぼっチート異能のおかげか。

 

 トロベの槍の動きが急に鈍り、俺の体をかすめないまま俺の前を通過した、そこしかないとばかりに振り下ろした俺の剣は、トロベの後頭部を殴り付けるハンマーになっていた。


「ううっ…………!」




 剣は金属の塊だ。トロベの槍だって金属の塊だが、いずれにせよ頭に叩き付ければ斬れなくとも相当な打撃にはなる。


 頭に金属を落とされたトロベは大きくふらつきながら走り、また大きく間合いを開けた。


 そしてすぐさま槍を構え、ここぞとばかりに迫ったつもりだった俺の剣を受け止めた。


「あれほど打撃を受けたのにまだ平気なんですか!?」

「いいや、平気ではない!だがあくまでも騎士としてすべき事はせねばならぬと思うたまでよ!」

「さっきあんなにまで苦労して金属を頭にぶつけたのに!」

「何を言うか!女神様の力、とくと見せてもらった!だがその上で、私はまだもう少しだけその力を見せてもらいたい!」

「そんな無茶な!」

 

 俺はまだやる気を失わないこの女性の攻撃を受け止めながら、さらに距離を詰めにかかる。

 さっきと同じようにぼっチート異能を頼りに、強引に猪突する。


 傷つけようとしていないはずなのにトロベの槍は届かず、俺の攻撃を受け止めるので精一杯になって行く。


 形勢が逆転した。狙いは一つ、手首だけ。得物さえ握れなくさせれば十分だ。それが試合って奴だ。


「はぁ!」

「くっ!」

「このこのこの!」

「なんの……!」


 しかしトロベもよく粘る。

 こっちに攻撃を仕掛けることこそできないが、それでもこっちの攻撃を実に正確に受け止めている。避けることはできても当てることはできない以上、こうなるともう手づまりだ。




「もう、いいんじゃないですかね……」

「まだだ、まだ……」

「大川!」

「公平に見て先ほどの一撃でかなり上田が優勢だとなる。まあその前に逃げ回っていたのはマイナスだけど、それでも打撃の方が大きい」


 技あり1、警告1って訳かい。警告と技ありのどっちが重たいのかわからないけど、それでもこっちの逃げっぷりを相手が非難しなかった以上こっちのが有利だよな、たぶん。


「確かにそうだな……そなたの勝ちだ。ユーイチ、実に楽しかったぞ」

「ありがとうございます」


 そして今の大川の言葉でトロベも納得したのか、槍をゆっくりと引いて頭を下げた。


 俺がやや出遅れて剣をさやにしまい、トロベの右手を握りしめた。


「女の子の手を握るだなんて三人目だ」

「女の子だと?いや三人目だと?」

「そう言えば私まだなんだよねー」



 一人目は河野で、二人目はセブンス。そして大川やオユキとはまだやっていない。



「これほどの腕を持つ人間がいるなど…………女神様もずいぶんと疎漏があったものよ」

「俺たちの世界には騎士もいないし魔法もないんです」

「ふーん、実に面白そうだ。私も付いて行こう」



 っておいおい、ずいぶんとあっさり味方になっちまったよ……。

オユキ「コマのような回りっぷりに(コマ)ったなあ」

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