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友との一時の別れ、永遠の別れ

「お前……」

「何だよ」




 赤井が死者たちに祈りをささげ、俺たちがラブリさんたちと共に死体や壊れた建物を片付ける中、リオンさんは寂しそうに後ろ手に縛られている男と向き合ってる。


 元々低い背丈をなおさら屈めて、地べたにお尻を付けて。




「ダイン、俺とお前は昔からダチだったよな」

「ああ、でもやり方が違った。お前は昔っからええかっこしいでさ、それでそのええかっこしいを貫き通す姿に何度やきもきしたかわかりゃしねえ」

「ああ、自覚はあったし大親分にも言われたよ、お前さんはどこか甘いってな」

「だからこそお前だけには負けたくなかった。エスタのありのままを受け入れ、東のシギョナツや西のクチカケのような所からはみ出した奴らの町にしたかった」

「その理屈はわかるよ、確かにここはならず者の場所かもしれねえ。クチカケ村のような鉱山と林業、シギョナツのような豊富な畑や漁場があるわけでもねえ。でもな、そんでも俺はさ、普通に暮らせるような、まともな町にしてえんだよ。

 俺らのようなただの力自慢がそのまんま威張りくされるような町は、弱者の住めねえ町になる。俺らだっていつ弱者になるかわからねえからな」

「お前こそ意地張って無駄に犠牲出しやがって、ったく本当に堂に入った甘さっぷりだったな……」




 はっきりと立場の別れちまった数年、いや十数年来の仲間。それぞれがそれぞれの思いをぶつけあっている。




 結局、俺にはできない経験なんだろうか。




 遠藤に引き続き、剣崎にも逃げられた。


 いや逃げると言うにはあまりにも不自然な消え方だったが、やっぱり剣崎を守ろうとしたあのグベキと言う女の力なんだろうか。

 あの光線が直撃した市村がほんの少しひるんだだけでまともな外傷もなかった事から大した事はないかと思ったが、あるいは俺らの考え違いなのかもしれない。




 いずれにせよ剣崎も、俺や赤井、市村、大川の誰とも分かり合う事はなかった。


(まだ遠藤より救いがあるのは……とか言っちまったらダメだよな。俺だって相当にひどい事を言っちまった。俺の欠点だな、どうしてここまで沸点が下がっちまったんだろう……)




 自分だって人の事を言えねえじゃねえか、何が「ただの人殺し」だ。


 俺だってんな事言われれば傷つく。今の剣崎は確かに戦いを楽しんでたけど、あいつがそうなるまでにどんな思いをして来たかなんて全然考えて来なかった。

 ぼっちぼっちと言うけど、俺自身その事を苦痛に思っていなかった。そのせいで人の心が読めなくなり、あんなことを言っちまったのかもしれねえ。



「なあ赤井……剣崎は俺の事どう思っているのかな」

「上田君は剣崎君を別に侮辱したかったわけではないでありましょう。

 マジカルガール・サークルズルート、略称マガサルもまたしかりでありますが」

「厄介なもんだな」


 マガサルってのが何なのかはわからないが、意味はすぐ分かる。


 赤井はあの三人以外にはこういう話をあまりしない、振られれば答えるが振られなければしないだけだ。その赤井がそんな風に振って来たのはそういう事なんだろう。そのマガサルとやらになんか似たもんを感じたのかもしれねえ。


「それで上田君、剣崎君の指輪を見たでありますか?」

「ああ、何だあれは」

「あれはただの指輪ではないであります。持ち主に力を与える指輪であります」

「わかるのか」

「王宮で宝石にそういう魔法をかけているのに立ち会った事があるであります。見た目はただのきれいな宝石でありますが、付けているだけで身を守る事の出来る文字通りのお守りとなるのであります」


 話を切り替えた俺に付き合うように赤井は剣崎の指についていた指輪の話に切り替えてくれた。何でも宝石一つでもただの財宝じゃなく、身を守る物となるらしい。


 赤井に言わせればRPGじゃありがちな事らしいけど、本当に大変な世界だね。



「ほらあんたら、お客人様でさえ働いているんだから、もっとテキパキやんな。まもなくこの区域もあんたらの町になるんだからね!」


 そんでラブリさんの声に釣られるように俺らもてきぱきと動く。

 結局は人が動かなきゃどうにもならないのが世界だから、こうして誰かが何とかしなきゃならねえ。


 それでも俺が俺の手で殺した人間から逃げるように建物ばかりに集中する中、大川は赤井により祈りを受けた死体を荷車に運んでいた。




「お前さんがオーカワって女か。本当、強くてたくましそうな女だな」

「正直な所を聞かせてくれ」

「……ダメだ、体型とか以前に好きになれねえ。俺は、俺の背に隠れてくれる女、俺の力に縋って来てくれる女が良かったらしい」

「だからラブリさんも気に入らなかったと?」

「ああ、本当はよ、リオンがあの女を嫁に取るって言った時から、俺らの道は分かれる事になっちまったかもしれねえ」


 セブンスは後ろで働いている連中のための料理を作り、大川は現場作業に徹し、オユキはけが人の治療をしている。適材適所って奴なのかもしれねえけど、三人の女たちはみんなまったく違う。

 その女性たちが今後俺の運命をどう変えるのか、俺が二人のようにならないためにはどうすべきか。


 そんな事を考えながら木材を並べ終わった俺が汗をぬぐっていると、決戦場となった広間の真ん中で拘束を解かれたダインが立ち上がってリオンさんから何かを受け取っている。




「最後の情けだよ」

「毒入りか……」

「ああ。本当、あの世ではもう少しましな酒を酌み交わそうじゃねえか」



 リオンさんからもらった毒入りのお酒を自ら飲み干し、ダインは地に倒れ込んだ。




 口からは血が流れ出ている。




 リオンさんは泣き、ラブリさんも泣き、みんな泣いた。

 ただ一人アビカポだけは唇を噛んでいた。泣きたかったのか、あるいはついに仇が討てたぞと笑いたかったのかはわからない。







 そしてダインを含むこの戦いの葬儀を終えた俺たちは、リオンさんの屋敷に招かれた。


「おーしお前ら!エスタの町を一つにしてくれた恩人様を全力でもてなしやがれ!」


「大親分様」らしい豪華な掛け声と共に、様々な料理が運ばれてくる。

 お酒も来たけど、セブンスは酒乱で俺たちは酒が飲めないので、オユキばかりが飲んでいる。


「こんなおいしいお酒飲んだの七十年ぶりだよ!」

「ずいぶんとデカい話だな」

「私百八歳だから~」


 オユキは氷をたくさん作ってみんなに貢献しているからか、ずいぶんとリオンさんの側にいる。

 ラブリさんがその代わりのように俺にすり寄って来てるけど、本当やめてもらいたい。


「私、前にお酒飲んで酔ってやらかして酒場を一日でクビになりまして……」

「その事えらく気にしてるんですから」

「本当にまじめな子ね」

「つーかよ、しばらくゆっくりしてていいぞ。ほとんど三日連続で大戦やらせちまったようだからな!大事なお客人様を放っておく趣味はねえからな、ハッハッハッハ!」


 で、よく見れば赤井も市村も大川もひどく疲れたような顔をしてる。





 確かに、本当にたった三日の出来事とは思えないぐらいいろんな事があった。その全てを過去の思い出にするかのように三人とも喰いまくっている。


 俺はやっぱりその輪には入り切れない。


 一人冷静に、ただただ目の前の料理を口に運ぶ。よく噛んで含めて、飲み込む。




「なあウエダ。今回の一件は、本当お前さんたちのおかげだよ。それで実はさ、俺の子分がな」

「子分さんが何か」

「シギョナツの町の外れ、俺ら側のとこに小屋がある。そこでケンザキって奴と、もう一人黒髪の奴を見たらしいんだよ」

「ええ!」

「たぶん女だってな、悪いけどこれ以上はわからねえ」




 黒髪の女性。あの三人組でないとすれば、考えうる名前は六人いる。その六人の内誰なのか。

 いずれにせよ、会ってみるに越した事はない。




「まあ落ち着け、さっきも言ったようにお前さんたちは戦い詰めだったようだからな。三日ほどここで寝泊まりしてていいぞ。それがお前さんたちには必要だ」

「ありがとうございます……」


 そのリオンさんのくれた調味料が俺の舌と胃袋を動かしたのか、俺の食器も早く動き出した。


 セブンスには悪いけど、今日の飯はこの世界にやって来て一番うまかった。

ここで第四章は終わりとなります。一日お休みをいただき次からは第五章です。

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