戦いの終わり
「上田!」
「いきなり敵が崩れたから何事かと思ったら、本当にすごい魔法だね!」
「魔法の力がここまでとは……!」
当然の如く、大川とエクセル、そしてオユキもやって来た。
「なぜだ、なぜ俺の剣は!」
「お前の剣は絶対に当たらない、俺を殺そうとしている限り!」
「何を威張りくさっている!調子に乗りやがって!」
必殺技の失敗を認めた剣崎は口からよだれを出しながら斬りかかって来る。速さも範囲もエクセルのそれを上回り、その上に石畳をも平気で斬る切れ味だ。
でも当たらねえから意味はない。
「俺は遠藤とは違うんだよ~!遠藤のようにちっぽけな正義なんかにこだわったりはしねえ、単に、強くて斬りがいのある奴とやれればそれで十分なんだよ~!」
「お前まさかとは思うけど」
「まさかとは?お前だってもう何十人も斬ったんだろ?なあグベキ~」
「そうよ。あのミーサン山賊団を壊滅させた主犯なんだから」
剣崎の顔はますます歪む。
元々市村ほどではないけどイケメンの部類に入った男が、こんな顔になっちまうなんて、ったく恐ろしい事この上ねえ。
「ほれ見ろ、お前だってもう十分に人を殺してるじゃねえか!」
「俺は単に罪もねえ人間の店を勝手に荒らすのが気に食わなかっただけだよ、だからお前はなぜこうして戦う?」
「逃げ回ってねえで剣を動かせよ」
「やだね」
「やだね!?お前こんだけ打ち合っといてやだね!?」
間抜け極まる三文字だが、実際もう嫌だった。二人っきりで打ち合おうとしている間にも、また別の人間がやって来て無駄に犠牲を作っている。
「俺にかかった魔法ってのはこんなんなんだよ。とっとと停戦を命じればこんな事にはならなかったんだよ」
「きたねえ野郎だ!」
「もう決着は付いたんだよ、見てわからねえのか?」
俺たちが馬鹿をやってる間に市街戦から戻って来た大川によって投げ飛ばされたダインは縄で縛られ、ダインの部下たちや剣崎が連れて来たチンピラ、そして元クチカケ村の連中も討ち死にか捕獲された。
残るダイン軍の戦力は、もうグベキと剣崎しかいない。
「リオンさん、もう帰趨は見えたでしょう」
「ああそうだな。ケンザキ、もういいだろ」
「クラスメイトの誼もある。ここはどうか、リオンさんにすがってみないか?」
「やだね、そんな甘ったるい男なんかに!」
にべもなく俺の手を跳ねのけた剣崎に見せつけるように、リオンさんは関節剣を軽く振った。
縛られていた男の首がひとつ転がり、血が流れ出す。
「リオン殿!」
「アカイ、こいつはさっき率先して仲間を巻き込んだんだよ。そういうことだ」
ダインがさっき大地魔法で俺を倒そうとした時、その男はダインの命令で仲間たちに一斉攻撃をかけさせた。確かに俺を仕留めるためとは言え、まったく無駄な犠牲を出したもんだ。
まだヘイト・マジックも使ってなかったってのに、まったく俺が張本人のようなもんとは言え……だ。
「わかるだろ剣崎、これ以上無駄な犠牲を出す意味はないんだ」
「坊や、あんな生ぬるいやり方じゃすぐさま壊れるわよ。この町は混乱の中にずっとあったの。それをはいそうですかとお行儀のいいやり方には戻れないのよ」
「グベキとか言ったな、今見ればわかる通り俺は堂々と手を血に染めた。そういう奴なんだよ俺は、確かにまだこの町を和やかな場所にするのにはもうちょい時間がかかるだろう。でもな、もういい加減やめたいんだよ」
いい加減やめたい。さっきにもまして雑な言い草だ。でも、その通りだ。
リオンさんが子供の時から、いやずっと昔からこの町は抗争と言う名の内戦に明け暮れて来たんだろう。で、それを押さえつけるような確固たる権力はそこにはない。
「この町には確固たる権力が必要だ。リオンさんのような」
「別にダインでも良かっただろ」
「魔法もかかってないのに俺一人のためにあそこまで他人を平気で犠牲にできるような奴にこの町を治めてもらいたくない」
もしリオンさんがダインのような人だったら、俺は速攻で見捨てていた――その事を言外に含ませた俺に不満でもあったのか、ダインの頭をアフロヘアにしたアビカポは頬を膨らませている。
「お前は、元の世界に戻りたいか?」
「まだ俺は満足してねえ」
「じゃあ言い方を変えるよ。こういう殺し合いの要らない世界に戻りたいか?」
「まだだって言ってるだろ」
あくまでも戦う気満々の敵に自分なりの精いっぱいの速度で斬りかかる。もちろん受け止められるが、それでも構いはしない。
いつも通りのぼっチート異能とヘイト・マジックに任せ、ひたすらに突っ込む。
「お前はただの人殺しだよ!」
「お前に言われる筋合いはねえよ」
「俺はこれまで、生きるために人殺しをして来た。お前は、人殺しのために人殺しをしている!」
「何のつもりだ!」
「これまでの戦いぶりを見てればわかるよ!」
もし本当に戦う事が大事ならば、ダインを止めるかあんなことをやった時点で怒鳴るか見捨てるかしているはずだ。それを傍観する時点でこいつは戦いに酔っている、ましてや後押しするだなんて論外だ。
「大川もリオンさんも、それから柴原コーチも!戦いとは相手を打ち負かすだけじゃダメだって事を教えてくれた!お前はただ単に打ち負かすために戦ってたのか!」
「ああそうだよ、一本の言葉が上がるたびに俺は心が軽くなった。どこまでも自分が幸せになり、そして歓声を上げたい気分に駆られた。そんな事をしたら負けだからしないだけでな、ずっと我慢してたんだよ!」
「……そうかよ」
相手の事も考えられねえような奴だったとは思わなかった。そんな奴が剣道で段位を持ってたとか、これこそ大問題じゃねえか。
道場とは道場であり、あくまでも道を究めるもんのはずだ。それを自分が気持ちよくなるためだけに使おうだなんて、こいつはこいつで遠藤と別の意味でだめだ。
俺は剣を振りまくる。狙いは剣崎の右手首、すなわち小手。そこを斬れば剣は持てなくなるはずだ。そうなればさすがに抵抗する術を失うだろう。
「逃げねえのか?」
「お前こそ逃げろ!と言うか邪魔くさいな!」
「ああもうなんで当たらないのよ!」
グベキはと言うと、相変わらず逃げ回りながら光線を乱発している。
火災が起きないか心配だが、どうやら攻撃力はあってもその手の力はないらしい。こけおどしって訳でもなさそうだけど、まったく奇妙な光線だ。だがうかつに近寄れるようなもんでもねえ。攻撃力こそねえけど赤井のバリアでも軽減できないほど貫通力のあるあの光線、一体どんな原理なんだか。
「刀の錆にしてやる!」
「できねえ事をするなって言ってるんだよ!」
「できねえ事か否か、やってやろうじゃねえか!」
剣崎は横なぎに刃を振るう。
一見逃げ場なんかなさそうなのに、それでも俺は刃からぼっちにされた。
俺の肉体が瞬間的に後退して間合いを開け、そして一挙に突っ込む。そんな神業としか思えない事を、俺は平然かつ無意識にやってのけていた。
そして次に飛びかかった時の刃で、俺は狙い通り剣崎の右手首を斬った。
剣崎の長い剣が手元からこぼれ落ち、石畳の上に転がった。
「やるじゃねえかよ」
「やるじゃねえかよじゃねえ、もう勝負は付いたんだ。リオンさんに頼んで助命嘆願してやるから、おとなしく」
俺は未だに戦意を失っていない剣崎の剣を軽く蹴飛ばしながら左手で胸ぐらをつかみ、引きずってやろうとした。軽くないはずの剣崎を引きずれることに勝手に感心し、同時に安心もしていた。
「ダメよ!」
その安心の隙を突くかのように、俺以上の力で剣崎を背中から引っ張る手の力があった。
一体どこの誰かわからないが、あまりにも力が違い過ぎる。手がすっぽ抜け、後ろにつまずいて倒れそうになった。
そしてあわてて体勢を立て直した俺の視界からいつの間にか剣崎とグベキの姿は消え、残ったのは目を抑えていたリオンさんと赤井たちだけだった。
「目くらましの魔法か……」
「そのどさくさ紛れに剣崎君を奪われたと……ええいグベキ!許し難い女であります!」
俺の目に入らなかったのは、それが俺への害意を持ったもんだからだろうか。とにかくグベキが剣崎を連れ去り、どこかへ逃げ去った事だけは間違いないようだ。
――――俺に勝利の感触はなかった。




