ダインの狙い
第四章ラストスパートです。
「剣崎!」
剣崎に向けて剣を振る。鋭い音にも慣れたが、それでも相変わらず剣崎の顔を見ていると戦意が萎える。
どうしてこんな汚い顔ができるんだろってぐらい汚い。
「お前何をしたいんだよ」
「何をしたいも何も、お前たち全員を俺が連れて帰るんだよ!」
「ここには四人しかいねえじゃねえか、他の奴らはどうした!」
「神林と木村と日下は三人で元気にやってるよ、後の奴はわからねえ」
「どうして別れたんだ~?」
「とりあえず無事を確認できたから安心したんだよ」
「ったく、その減らねえ舌を動かすなっつーんだよ!」
減らねえ舌だとか、よく言えたもんだ。
いくら目鼻立ちが整っていても、剣が強くても、口がまるっきり台無しにする。
ついでに剣もひどい。俺さえ斬れれば後はどうなってもいいやと言わんばかりの、乱暴で力任せの剣。
「俺らの目的はこうして殺し合いをする事じゃねえだろ!」
「知ってるぜ、遠藤に逃げられた事!」
「それが何なんだよ!」
「遠藤と戦って負かそうとして、あと一歩で逃げられたって、必死こいて戦ったのにまったくの無駄骨だね~笑っちゃうねえ~!」
「遠藤はな、ミーサンに騙されたんだよ、大きなもんを倒すのが正義だって思わされてな!」
遠藤の事は今でも気になっているし、分かり合えないままなのも残念だ。
とは言え、小学校時代は一クラス三十三人、現在は一クラス二十人。
小学校から一番遠い家が徒歩二十分だったのが、高校じゃ徒歩一時間二十分(実際には電車を使うから三十分)。
と言うか、俺の通っていた小学校と同じクラスで俺と同じ高校に行ったのは河野しかいない。
死ぬまで全員一緒に同じ方向を歩ければどんなに楽だろうか。
「ダイン!」
「お前のような甘ちゃんにこの町はやれねえよ!」
「やるとやらないとかの問題じゃねえだろ!」
「所詮町は住む人ありき、その人間をわざわざ減らすなど愚の骨頂であります!」
ダインもリオンさんと戦っている。同じ孤児同士だった時からの仲だったはずなのに、手下を引き連れて殺し合いをしている。
「しょうがないだろ別れは!でもさ、それを少しでも後味をよくするべきだろ!」
「後味のよさ!?ったく何を言い出すかと思えば、本当甘ちゃんだったんだな上田!」
「そうよね、甘いのよ!」
そしてグベキは、次々と光線を放ちまくっている。
俺を狙ったり、リオンさんを狙ったり、セブンスや赤井を狙ったり。まったく読めない。と言うか、身のこなしがあまりにも軽すぎる。
「この一撃!」
「甘い甘~い!」
ラブリさんの水魔法、面となって押し寄せる水を投げ付ける攻撃もさらりとかわす。ったく、攻撃力はともかく後は全部高いって事か!
「市街戦は!」
「ようやくこちらも立ち直りつつありますが、すでにかなりの乱戦でどう転ぶかわかりません!」
「チキショウ、お前ら……!」
「わかったら降伏しろ!」
「誰がするでやんす!」
「お前には」
「アビカポの言う通りだよ!」
アビカポの意見をリオンさんが飲み込み、そのままダインへと斬りかかる。
ダインが体勢を崩し、石畳がまくれ上がりそうになる。
「今だ!」
「やらせないっての!」
だってのに、この隙さえもグベキは許さない。アビカポの炎魔法とラブリさんの水魔法をまとめて受け止めるバリアを貼り、さらに突っ込んで来たリオンさんにビームを直撃させる。
「くっ!」
「親分!」
「かすり傷だ、ためらってる場合じゃねえ!」
やはり威力はないようだが、それでも相手をひるませるには十分らしい。ただでさえこっちが隅っこに追いやられてるのに、リオンさんとラブリさん、それからアビカポでもダメな中残っているのが戦闘能力の基本高くない赤井だけでは厳しい。
「私が出ます!」
「セブンス!お前はそれより!」
「フン、あれがお前の彼女か!その女をやっちまえば!」
セブンスが剣を抜いたのに反応するかのように、剣崎が剣を引っ込めた。ここぞとばかりに押しにかかると、セブンスの方へと剣崎は体を動かして行く。
こいつ、セブンスまでやる気か!
「右側ががら空きだってんだよ!」
剣崎に、俺はこれまでの人生で鍛え上げた肉体をぶつけてやった。
あまりにもきれいに決まったショルダータックルは剣崎の肉体を五メートルほど弾き飛ばし、尻餅を突かせた。
「てめえ!なぜセブンスに!」
「その女だってお前の、と言うかリオンの仲間なんだろ!」
「敵を全部斬ってたら剣が持たねえだろうが!」
「そんな事はねえ、この剣は、いや俺は力を受けた男だ!並の事じゃ俺は絶対に砕けやしねえ!」
「威勢のいい事ばっかり言うんじゃねえよ!ずっと俺はぼっちだったが、今じゃお前のがぼっちじゃねえか!」
懐に飛び込み、ふらついている剣崎の手首に向けて剣を振る。
あくまでも狙いは右手首だ、この馬鹿長い剣さえ叩き落せばそれでいい。なんだかよくわからない事を言っているがとりあえずこの剣を止めなければならない。
「その剣を捨てろ!」
「誰がやるか!」
「やるったらやるんだよ!」
「バーカ、お前は包囲されてるんだぞ!」
「先刻承知だ!」
もちろん単騎突撃だから包囲されているが、それでも囲まれた上での同士討ちの誘発と言う、絶好の機会に持ち込めた。
俺はナナナカジノでも、こうやって戦って来た。
ダインの魔法も剣崎の剣も、グベキの光線も同士討ちには絶好の素材だ。
「ったく、こんな財宝を取り逃す手はねえよなあ……」
ダインは集団の中に飛び込んだ俺を舌なめずりしながらこっちを向いている。
しめた、これで同士討ちが始まる!
「キャア!」
そんな俺の耳に、大地魔法の音とセブンスの悲鳴が鳴り響いた。
地面が割れた。俺の周りでも剣崎の周りでもない。
一直線に伸びたひびは、一点に向かっていた。
「セブンス!」
地割れはセブンスへとたどり着き、セブンスの後ろの地面が割り、ついで前を盛り上がらせた。
セブンスの姿が見えない!




