意地っ張り
「ダイン……!てめえ許さねえぞ!」
「ったくもう、お前もお前で意地っ張りだな、ケンザキ!」
「了解した、斬り捨ててやるよ!」
俺が怒りをあらわにすると、すかさず剣崎が斬りかかって来た。
迫力に満ちた刃、あるいは虚勢のそれに類するのが乗っかっているだけなのかもしれないが、それでもぼっチート異能と言う名の保証がなければ立てなくなっていたかもしれない。
「お前は今の話を聞いて何とも思わないのか!」
「本当に愛しているならリオンはその女を切り捨てなかっただろ、そういう事だ!」
「リオンさんが何を目指しているのかわかった上で彼女はそんな事を言ったんだよ、お前は一体何を目指しているんだ!答えろ!」
「とりあえず、強い奴とやれればいいんだよ俺は」
「真面目に物を言え!」
「俺は大真面目だっての!」
本当、二の句が継げない。
遠藤が「分かったつもりになっている奴」だとすれば、こいつは何にもわかっていない。
元から頭の出来がこんなだったとは思いたくない。学校ではそれなりにまともな生活を送れていたはずだ、少なくとも悪目立ちするような真似はして来なかったはずだし、俺よりずっとまともな友だちだっていたはずだ。
「と言うかいいのか?俺なんかと遊んでて?今も町の中は大混乱になってるぜ~」
「お前がやったんだろ!」
「いいや、どうせ最初からこの予定だったんだろ?繰り上がったとか、順番が変わったとか言うだけじゃないか?予定通りなんか世の中にはないんだぞ?お前まさか、ここに来るのも予定通りだったわけ?あーすんげえ、本当すんげえやー」
「お前こそすげえよ、その戦法…………」
うまい挑発をして相手を怒らせるのも戦法なら、下手すぎる挑発で敵の戦意を萎えさせるのも戦法かもしれねえ。本人としては煽りまくってるつもりなんだろうけど、聞けば聞くほどテンションが下がりまくる…………。
「お前、本当にウエダたちの仲間だったのか……」
「一応な」
「リオンさんはこんな奴ほっときましょう、どうか町へと!」
しかしどんな状況だろうがこれだけは言える――――これ以上無駄に犠牲を出したくない!
「アビカポさん、セブンスを連れて来てくれ!」
「ええ……」
「それが一番犠牲を抑えられる方法だ!」
セブンスの魔法で俺に全ての耳目を集めさせる、結局はそれしかないだろう。
「ダメだアビカポ!」
「ウエダさん、親分様が……!」
「犠牲を増やしたいんですか!リオンさん!アビカポさん、ラブリさんと共にセブンスを呼んで来て下さい、一刻も早く!!」
止めようとするリオンさんと、ありったけの声で怒鳴りつける俺に挟まれてアビカポさんは身がすくんでいる。
ダメでやんすとか言わない所を見ると、アビカポさんも犠牲を抑えたい気持ちは同じなんだろう。でも、リオンさんはまだ抵抗する気らしい。
「もういい俺が行く!」
「ああちょっと!ちょっと待つでやんす!!」
そうやってアビカポが板挟みになってもじもじしている間に、市村は剣崎に背を向けて走って行った。やっぱり市村も最初からその気だったんだろう。
「リオンさん、もう少し耐えるか、それとも市街戦を止めてください!ってちょっと!」
だが二対三になった途端、リオンさんは逆に突っ込み出した。
グベキの光線と剣崎の剣をかいくぐりながら、薄笑いを浮かべるダインに近付こうとしている。
「何をやってるんですか!」
「俺の舞台だ、俺で決着を付けたいんだよ、俺の手でな……、ダインとな……!!」
「そんな事言ってる場合ですか!」
「お前さんはあくまでもあのケンザキだけを止めてくれればそれでいい!グベキとやらは大したことはねえ、俺一人ならダインにも勝てる!」
自分の失態は自分で拭うと言わんばかりに叫んでいるけど、正直俺が死ぬのとリオンさんが死ぬのではこの町の打撃の差が違い過ぎるはずだ。
「ならばこっちにだって考えがあります!」
俺は剣崎から飛び退いて距離を取ると、市村の後を追った。
「逃げるのか~?」
「おいちょっと待て!」
「これが答えですよ!」
もうこれ以上、この場所では戦えない。
地元の人間には地元の人間なりのこだわりがあるんだろうけど、やはり俺はどうしても犠牲を抑えたい。
「お前さんは決して臆病じゃねえ、その事はよくわかる。本当に自分のやり方、と言うかそれをやらせてくれる女を信じているんだな!」
「まあそうなります!セブンスの魔法のおかげです、ゴーレムを倒せたのは!」
「おいお前狙われてるぞ!」
「大丈夫ですから!」
俺に向かってグベキの光線が飛ぶ。だが、やはり俺をぼっちにするように二股に分かれ、そのまま消えた。
この力によって、なんとか全てを抑え込むしかない。
「今のを見たでしょう!リオンさんは市街戦へ向かってください!総大将がいるといないとでは大違いのはずです!」
「お前さんこそ仲間たちを!」
「三人を頼みます!」
「親分、やはりここは……!」
「るせえよ!」
リオンさんは俺からまったく離れようとしない。俺に必死で付き従い、あくまでも俺と自分だけで戦いに決着を着ける気らしい。あんなに復讐に燃えていたはずのアビカポさんが必死に止めているのに、まったく聞いていない。
「ユーイチさん!」
「セブンス!」
そしてそんないたちごっこを繰り返したあげく、町の北東の角、少し塀が壊れた所で市村に引きずられるようにしてやって来たセブンスと出会った。
「まったく、本当に乱暴な子たちなんだから……」
「乱暴って何ですか!好きな人の役に立つ事の何が悪いんですか!」
「そうですよ、あなただってリオンさんの事を思っているのでしょう!」
「あんた!」
「大変申し訳ございませんでありますリオンさん、彼女どうしてもセブンスを離さないものでありまして、わたくし僧侶でありながらつい手を上げてしまいましたであります……」
「先にやったのは俺だ、気にするな!」
追いかけて来たラブリさんが右手を振っているのは、どうやら市村と赤井に殴られたかららしい。
本当に、どうしてもセブンスを前線に出したくなかったらしい。
「なぜですか!」
「だからよそ様に必要以上に迷惑をかける趣味は!」
「ったくもう……本当に似た者同士だね、二人とも!すまなかったね、つい熱くなっちまってさ」
ラブリさんもまた、泣き出した。赤井がセブンスとの間に立っているのに構う事なく、赤井の先にいるセブンスを見つめている。
「セブンスちゃん……」
「ラブリさん……」
「男ってのは、意地っ張りなんだよ。妥協するところは妥協できる男だとしても、妥協できないとこは絶対に退きゃしない……そう、例えば大事な何かのためとかね」
リオンさんにとっては、ダインを自ら倒してこの町を統一する事は悲願なんだろう。
だからこそ、自分の手でどうしてもけりを付け、全てを自分と言う存在の功績にして大きく見せたかった。まったく自然なお話だ。
「だから、俺らにどうしても頼りたくなかったと……」
「そうだね、って言うかリオン、本当にお互い強情だね!」
「それでこそ俺の女房だよ……!」
「でももう、これ以上は無理かもしれない!頼む、甘えさせてくれ!」
「わかりました!」
俺は南側へと向き直った。
このある種の袋小路に、正面から剣崎が突っ込んで来る。
ダインとグベキもいる。
「追い詰めたぞ、もう逃がさんぞ!」
「逃げる気などない!!」
ダインは許せない。グベキだって許せない。そして剣崎を止めなければならない。
何より、仲間たちを殺される訳には行かない!
この町での決戦の場がやって来た!この好機を逃す理由は、どこにもない!!




