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エスタの町の戦い

「俺たちはナナナカジノで大量の山賊を狩った事もある。お前たちでは相手にならない!」

「やらずにわかるのかよ!」


 市村の刃一振りで、三人の男が倒れ込む。

「ユーイチの仲間にばかりいい格好はさせられないんでな!」

 エクセルもまた、一振りで三人の敵を斬る。

「隙だらけよ!」

 大川も向かって来た男をつかんで投げ飛ばし、他の二人の男にぶつける。




 あまりにも圧倒的な力の差だ。




「これが現実だ!何をすべきかわかるな!?」

「市村てめえ……!」

「お前は頭を冷やせ!」

「冷えてるよ、お前と違ってな!」

「逃げろっつってんだよこちとら、なあ市村!」


 リオンさんの仲間三人を斬ったとは言え、こっちだって遠藤のようにクラスメイトを敵に回す趣味はない。

 市村のうなずきを確認した俺が逃げろと言わんばかりに東に剣を向けたが、剣崎は唾を飛ばしてにじり寄って来た。


「てめえのような軟弱者がでかい顔してると、この町が腐るんだよ」

「この町はそれこそ荒れ放題に荒れた町だ。それを何とかするのがリオンさんの夢だ、その夢がダインとやらにあるのかよ!」

「そんなもん知るかよ!」

「じゃあ俺の答えはこれだよ!」




 結局、こうするしかない。

「話せばわかる」「問答無用」って言うのは歴史の教科書でも見たやり取りだが、向こうがその気満々になっている以上どうしようもない。


 俺自ら飛び込み、剣を振り下ろす。剣崎も口をだらしなく開きながら剣を上げる。



「リオンさんたちは今の内に!」

「おまえさんたちすまねえ、俺らがダインを獲りに行く!」


 リオンさんとの約束通り、俺らは剣崎を抑え込むべく突進した。


 それに対し剣崎はリオンさんをふさぐべく剣を横にして道をふさごうとするが、そんな隙を見逃す理由はない!


「この野郎!」

「そんな剣で俺が斬れると思ってるのかよ!」

「とっとと消えろって言ってるだけだよ、今ならまだ俺らが」

「くどいんだよ、この甘々男!」


 見た目通り重い剣。その上に速い。

 そして、嫌らしい。少しでも隙を突こうとするとすぐさまその方向へ飛んで道をふさぐ。






 ――――俺の道じゃなく、リオンさんたちの道を。


「どうしてもってんなら尻まくって逃げ出したらいいぞ」

「なんてきたねえ剣だよ!」

「汚い?これもまたダインの願いだよ!」


 歯をむき出しにし、俺らをもてあそぶように剣を振る。まるで自分こそこの場を支配しているのだと言わんばかりの、実に傲慢な剣遣いだ。


「てめえこの野郎!」

「お前のようなヘボごときに俺が斬れる訳ないんだよ、俺と共に戦え!」

「できる訳ねえだろ!」

「じゃあ死ね!」

「このっ!」

「そんなんで誰がひるむかよ!」


 時に剣を止め、小指と人差し指を立てる。俺たち全体にケンカを売り、実に楽しそうに笑っている。

 アビカポの投げ付けた火の玉も簡単に斬り、火の粉すら残そうとしない。




「大変だ親分、市街戦が始まってる!」

「何!」

「俺が連れて来たのがたったそんだけだと思ったか、バーカバーカ!」


 っておい、市街戦だって!?


「一番まずい事態になっちまったな……」

「親分さんよ、自分たちだけ責任を負えばいいだなんてのはええかっこしいって言うんだよ、わかるかぁ?」


 こうして引き付けている内にリオンさんの縄張りを攻撃しようってのか!言いたい事はわかる、言いたい事はな!だがそれは……


「無駄に犠牲を増やしやがって!」

「汚くて何が悪いんだよ!それよりほっといていいのかぁ!?」

「よくない、私は行って来るから!」

「皆さん、道案内を頼みます!」

「無駄な足掻きだよ、どうせ今頃大乱戦なのに!」


 町を守りに行った大川とオユキに向けて平気でそんな事を言い出す、「剣崎」と言う名の別人。

 いったいどこで運命が狂ったのか俺が嘆く暇さえも与えてやらねえよと言わんばかりに、嬉しそうに剣を振り回す。



「てめえこの野郎!」



 その剣崎の胴に向けて、鉄が飛んで来る。


 リオンさんの関節剣だ。大親分様らしいドスの利いた声と共に放たれた剣先は剣崎の胴を捕らえ、大きくひるませる。


「うわっとぉ!」

「黙ってりゃいい気になりやがって!こいつらの気持ちもわからねえのか!こいつらは損害を抑えるために来たんだぞ!てめえは何だ、争いをこの町中に広げるために来たのか!」

「説教垂れやがって!ああ、付き合ってらんねえ!」

「その剣を捨てろ!」

「てめえは黙ってろ!」


 俺の剣を受け止めた剣崎はリオンさんの言葉にも耳を貸す様子はなく、両手の小指と人差し指を立てながら俺らに尻を向けた。


「市村!」

「行くぞ!」

「ユーイチさん!」

「あんたはこの僧侶様と一緒に待機よ!ここで傷病者を手当てして!」

「でも私の!」

「心配だってなら俺が請け負ってやるよ、ラブリは坊さんと共に病人を頼むぜ!アビカポ来てくれ!」

「了解でやんす!!」




 ラブリさんに首根っこを掴まれながら叫ぶセブンスを置き去りにして、俺と市村はリオンさんとアビカポと共に剣崎を追いかける。



「剣崎は俺がやる!俺が何とかする!」



 自分がこの世界において恵まれていたのかいないのか、そんな事はまだわからない。ぼっチートなどと言うとんでもない異能を持っていた時点で恵まれていたのかもしれないが、でももし俺がこういう連中と真っ先に出会っていたら?

 そう考えると正直ゾッとするのもまた確かだ。その分の不運と不安を何とかして背負ってやりたかった。




 三人で剣崎を追う。


 向かうは剣崎がやって来た東側の方角。


 陸上部の意地を見せるように二人を突き放し、剣崎を追い続ける。



 追いかけっこを続け東門までやって来た俺たちが見たのは、石畳が剥げ土色がむき出しになっている、前方後円墳っぽい形の、まるで何かの工事の後に雑に整地したような、赤土色の地面。



「さあ行け!」


 そこまで来た所で、ダインの配下らしき連中が武器を握りながら走り込んで来る。



「お前ら、この男をやれ!鉱山の採掘を邪魔しやがった野郎を!」

「鉱山も木も取り過ぎればなくなるんだよ、俺はそれを許せなかった!」


 俺への因縁、俺の過去のと言うほどでもないが罪が今こうして跳ね返って来ている。だが自分なりにああいう選択をした以上、悔やむ気はない。




 立ち止まった敵に向けて、俺は剣を向ける。このぼっチート異能を武器に、一刀の下に斬り捨ててやる!







「危ねえ!」


 そんなつもりでいた所で腰に強い負荷がかかり、俺は仰向けに倒れ込んでしまった。







 ――――って、なんだ、この大穴は!!

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