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剣崎寿一

「まあとにかく、お前さんたちの要求に応えお前さんたちを前線に出そう」

「ありがとうございます」


 リオンさんもエクセルもラブリさんも、二度の回避能力をもってあれほどの攻撃を強引にねじ伏せた俺の力を実感するかのように、黙って首を縦に振ってくれた。


「で、具体的にどうする気だよ」

「俺が突っ込みます。その上でリオンさんたちに攻撃してもらいます」

「ひとりで三百人がやれるかよ」

「セブンスの魔法を使えば、敵全員をああいう風にできます。ああ市村、大川、オユキ、どうかリオンさんと一緒に頼む。赤井は回復を」


 いつの間にかリーダーのようになっちまった以上、責任は負わなきゃならねえ。ましてや、ぼっちである俺にしかできねえような真似である以上な。


「ちょっとユーイチさん、私はまだそこまでの」

「少なくとも大将さえ抑えられればそれでいい。大将をくぎ付けにしてしまえば」

「ダインをくぎ付けか、それでも犠牲は出るぞ」

「わかってます。ゼロに近づけて見せます。それで決行は」


「明日だ。明日朝に攻撃できるように伝令をやっておく。それまでは休んでくれ。アビカポ、頼むぜ」







 リオンさんに頭を下げられた俺たちは六人それぞれ、客間に通された。


 だいたい四畳半ぐらいとは言え、寝起きするには十分なスペースだ。

 ベッドもやけにきちんとしている。


「ずいぶんといい部屋だな」

「親分様は飯と就寝は要だとおっしゃってるでやんす、ちゃんと朝夕の食事もごちそうするでやんす」

「それも親分様の」

「何、あっしらはみんなそうやって過ごして来たでやんすよ、それこそこの大きさの部屋を一人で使えるようになったのはつい最近でやんす…………」

「そうか……」

「ウエダさんはいいとこに住んでたんでやんすね……」

「どうしてそう思うんだよ、俺だってずっとセブンスの家で過ごすまで、隣に寝てくれる奴、いや寝る間際に話すような奴はいなかった。一人っ子だからってのとは違う意味で」

「どれぐらい続いてたんでやんす?」

「十年だよ」

「…………なんかすみませんでやんす」



 俺の家も河野の家も、きょうび珍しい戸建てだった。平屋だけど部屋がやたら大きくて広く、さらに妙に居心地がよかった。


 河野が「将来は裕一君と結婚するんだから」と言って熱心に世話を焼いてくれたのが理由だろうが、それにしてもまるで我が家みたいだった。


 それに比べればセブンスの家は小さかったけど、それでも居心地の良さは変わらなかった。見知らぬ訪問者の俺を受け入れてくれ、やっぱり我が家のように扱ってくれた。

 父親も母親もなくした彼女が俺の事を求めていたのかもしれねえけど、それでも嬉しいもんは嬉しかった。


 そしてセブンスとは寝る前に他愛もない事を話したり、適当にこちらや向こうの遊びを教わったり教えたりしながら過ごした。親以外とは初めての経験だった。


「すみませんって、それはこっちのセリフだよ。俺なんかこの年までびた一文も稼げず何もかも親頼りで」

「それはそちらさんの世界の事ですからあっしにはどうこう意味はございませんでやんす。まああっしはこの町をめぐる争いで家と家族を失ってしまったでやんす……そんな中拾ってくれた親分様のために炎魔法を鍛えたんでやんす……。

 ああ、ウエダさんがどうしてそうなったのかはわからないでやんすが、あっしはあっしなりに皆さんの面倒を見させていただきますんで、どうかお願いするでやんす……」

「わかった、親分様の期待に応えて見せるためにも、今日ぐらいはゆっくりさせて欲しい、早めに横になる」

「ありがとさんでやんす」




 孤児同士、肩を寄せ合って寝た事もあるんだろう。

 リオンさんだって、このアビカポだって、あるいはラブリさんだって。


 本当にままならないもんだ。

 そんな事をしたかったなんて言えばすぐさまぶん殴られても文句は言えない。



「クールダウンは大事だよなぁ」



 俺は適当な事を言いながらゆっくりと目を閉じる。


 昼寝すると夜眠れなくなるとか言うが、そんな事など知った事か。こちとら二日連続で命のやり取りをして来たのだ、少しぐらい休んでもいいだろう。



 この世界に来てもう何十回も寝て来たが、元の世界の夢を見る事もある。その中に出て来る人間は、こっちの世界の人間と元の世界の人間が半々だった。

 この前はなぜかセブンスが柴原コーチと一緒に横浜駅を歩いている夢を見た。二人とも楽しそうにしている。俺はその二人の真横を歩いている。

(ずいぶんと和やかだよな)


 元の世界の夢は、なぜか俺一人と言う事が多かった。出て来るのはせいぜい河野だけ。


 平原、駅、デパート、バス、それから海岸。いろんな所を歩いたけど、みんな誰もいなかった。

「上田君ー!」

 河野は気安く俺に話しかけて来てはやたら近付きたがる。俺がどういう夢だか把握する暇さえ与えず、本当に嬉しそうに跳ね回っていた。いつにもまして陽気で、楽しそうで、そして俺の話なんか聞きゃしない。

 時には手をつかんで空を飛び回り、頭からケーキを出したりもした。

 まったく夢とは言え不思議なお話だ。







 そんな風に夢の事を考えながら肉体をベッドにまるまる預けた俺だったが、その安眠はほどなくして崩された。




「奇襲でやんす!」

「なんだと、兵力は何人だ!」

「ひ、ひとりでやんす!早く来て欲しいでやんす」


 奇襲だと!ったく、先手を取られた気分だ。急に目の覚めた俺はあくびをする暇もなく剣を握り門を飛び出す。髪の毛とか服のよれとかそんなもんどうでもいい。

 とにかく敵を止めなければ。



 そのつもりでドアを開けて飛び出すと、すでに三人の男が死んでいた。


 一人は真っ二つにされ、残る二人は肩をざっくり斬られて腕が落ちている。見慣れたくないけど、見慣れた光景だ。



「おい!」

「次の相手はお前か……?」

「何のつもりだ!ダインの手先か!」

「まあ、一応な」




 かなり長い剣を持ち、兜を深くかぶっている。


 兜の下からのぞくそれは、間違いなく黒髪だった。



 何より恐ろしいのは、俺のの数倍はありそうな剣。長さも太さも桁が違う。

 そして何より、それを片手で握っている。


「何ていう恐ろしいもんを……」

「そのために作られたんだろ?そのために使って何が悪いんだ?」

「その前なぜ攻撃をかけて来た?」

「一人って本当に楽だな、こんな真昼間からだーれも一人で来るなんて思わねえもんな~アッハッハ!」


 あらゆる意味で腹が立つ。俺が目を見開いて男をにらみつけると、男は大げさなぐらい長ったらしいため息を吐いた。


 その間にもリオンさんたち以下みんなが次々とやって来たってのに、長い剣をボールペンのようにでも握りながら笑っている。




「何のつもりだお前!」

「おいおいおいおい、強者ってオマエらかよ~?本当ガッカリだぜ」

「俺の知り合いにこんなチンピラはいないぞ!」

「チンピラ!?この俺がチンピラだってぇ!?ずいぶんと偉くなったもんだなモテ男!」

「完璧にチンピラだ、まったくどこのどんな染料を使ってるんだ、それとも魔法か?」


 染料とか魔法とか、そうとでも思わなきゃやってられねえ気持ちは重々わかる。


 そんなデカい剣を持ってるってのに、その口から出た言葉はあまりにも軽薄で、その上不愉快。市村が言う通り、まさしくチンピラの物言いだ。


 残念ながらどうやら本物のクラスメイトである事が確定しちまった訳だが、遠藤もそうだったけど、こんなのが俺らの仲間だなんて思いたくねえ。


「冷たいねえ、せっかくこうしてあいさつに来てやったのに~」

「こんな時間に挨拶か」

「まあ、論より証拠だからな、ほれほれ!」





 黒髪男は口を横長にしながら、右手でゆっくりと兜を脱いだ。


「剣崎!?」



 兜の下から姿を見せたのは、剣崎寿一だった。

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