三度目のエクセル
「お前なんでここにいるんだよ!」
「俺はお前たちとこの前共闘した際にな、お前一日ほどペルエ市のホテルにいただろ」
「まさかその間に」
「そうだよ。俺はもっとたくさんの所へ行きたかったからな。しかしクチカケ村にあんな問題があっただなんて俺は知らなかったぞ。お前たちはすごいな」
実にのほほんとした調子で、俺にラブリさんの絵が入ったパスを見せて来る。
ったく、俺らも俺らだけどこいつもこいつだな……ナナナカジノ襲撃事件の後報酬をもらってパッといなくなったと思ったらずんずんと進みやがって、ったくクチカケ村事件の時もこいつがいれば少しは役に立ったのに……。
「あんた何がしたいんだよ」
「俺はあくまでも強くなりたいだけだ。強い人間と戦い、強くなりたいだけだ」
「だから魔物をスルーしたのでありますか……?」
「いや、俺が山道を登る時は出くわさなかったぞ?どんな魔物がいたんだ?」
「何だよそれは……!」
「やだ何それ」
「ちょっとせっかちすぎでやんす、もう少しゆっくりしてればこんな可愛いお嬢さんと一緒に戦えたでやんす……」
「ありがとう~。と言うかこの屋敷のじゅうたんに使われてる皮いいよね~」
大川は目を細め、セブンスと赤井は口を半開きにした。オユキのギャグについてはもう無視だ。
と言うかもしギャグ漫画とかだったら俺も市村も椅子から崩れ落ちてたかもしれねえ、オユキのギャグのせいじゃなくてこいつのせいでな……。
本当、猪突猛進にもほどがある。確かにいささか気まずさがあったとは言え一日でクチカケ村からエスタまで来た俺らも俺らだがな、と言うか運が良すぎないか?
俺ら五人でやっても狼やらゴーレムやらにえらく苦戦したってのに。
まったく同じ一日だってのに、俺らが苦労してた中とっとと入ってとっとと出てって、本当同じ時間の使い方とは思えないね。
例えばオユキの事を知ってりゃ、もう少しとどまって何かしようがあったはずなのにさ……。
「って言うかだいたいの話お前はなんでこのリオンさんの屋敷に?」
「黒髪の強い剣士がいるって言うからお前かと思ってな、それで傭兵をやらせてもらってる訳だ」
「何、目当ては俺!?」
「そうだよ。俺の目標はお前に勝つ事。お前を倒せば俺はひとかどの剣士として名を挙げる事ができる。だからっ!」
勝手に宿命のライバルにして来たエクセルに向かって、オユキが氷の弾を投げ付ける。
左肩に当たった弾はエクセルの体勢を崩し、床に落ちる前に溶けて消えた。
「迷惑な人だよね、ユーイチ」
「……だそうだ。俺自ら腕を見てスカウトしたから腕前は間違いないけどな、腹ごしらえにちと付き合ってやってくれねえか?」
「剣士ってのはこんなもんだよ……まあ俺はそれより仲間に会いたいけどよ」
陸上部だろうか野球部だろうがサッカー部だろうが、勉強だろうが、どんな分野でも絶対に負けたくない、絶対に勝ちたいって相手は出る。剣術、っつーか剣道だってしかりだろう。
だから、俺はエクセルをそんなに嫌っちゃいない。オユキとかはうんざりした顔になってるけど、俺はそういう存在を欲しがっていた。
まあとにかくそんな訳でさっき行ったばっかの稽古場と言うか訓練場と言うか競技場にて、今度はエクセルと打ち合う事になった。
得物はもちろん、さっき使った棒。
「さあ来い!」
エクセルの言葉と共に俺は飛びかかるが、あいつは全く動かない。
そして俺の動きに合わせて正確に棒を動かし、派手な音を立てながら斬りかかって来る。
本当に速い。実に速い。
真似したいぐらい速い。
実際、真似して振りまくってみるが、技も力も違う。チート異能のせいで当たらないだけで、本当なら俺はとっくに攻撃をもらっている。
「相変わらず身のこなしが凄まじいな!」
「お前こそ相当な腕前だな!」
でも当たらない。
俺は腕前が足りず、エクセルはチート異能を破れない。どっちもどっちの千日手状態で、打ち合いが絶える事なく続く。
でも正直、楽しい。なぜこんな機会に恵まれなかったのかってぐらい楽しい。
「だから無理だっつーの」
「まだ終わってねえ!」
エクセルも笑っている。俺だって笑っている。
「上田君はそういう存在に渇望していたのであります……」
「そうかいそうかい、ったく本当に因果な人生を歩んで来たもんだな……」
どうしてこうなったのか、今更ぶつぶつ言うつもりもない。だがもしそれが俺に課せられた責務だって言うんなら、受け止めるしかないのかもしれねえ。
「この一撃を受けてもらう!!」
そんな打ち合いが続くと、素人の俺だって目は慣れて来る。その上で打ち込みをかけるが、何度でもいなされる。
「もうそろそろ決着を付けるか!」
「望む所だ!」
またぼっチート異能に頼るのは癪だが、それでも黙っている訳にも行かない。
エクセルが横なぎにしようと棒を振る。俺は自分なりに身をよじってかわす。
そしてエクセルは棒をまっすぐ構え猪突猛進の態勢をとる。
隙だらけの体勢に見せて打ち込んだ所を叩き上げるつもりだろう。そして多分、俺はその速度に反応しきれない。
だが、しょせんぼっチート異能を持つ俺には通じない。
「よっと!」
エクセルの棒は俺に届かず、俺の棒がエクセルの棒を跳ね上げた。それだけの事だった。
「勝負ありでやんす!」
「ぐぅ、また負けたのか……!」
「だからお前は強い、俺はインチキしてるだけだから、気にするなって!」
「お前の言うインチキとやらもお前の実力だろう、卑下するな!」
リオンさんもエクセルも実に素直だ。それだけに申し訳なくなってくる。
「でもまあ、お前さんらの話を聞く限りこんな事とは全く無縁だったんだろ?こうなるのはよっぽどの才能があったか、それともそういう力をもらってるからのどっちかだろ」
「まったく、敵いませんね」
俺が棒を握りながら諦めめいた笑みを浮かべると、リオンさんは気にするなと言わんばかりに両手の親指と人差し指でVサインを作った。
「エクセル、お前さんも大したもんだ」
「ありがとうございます。しかしお前また強くなったな、俺はこれでも、東の騎士には勝てたんだけどな」
「東の騎士?」
「そう、Sランク冒険者のトロベって女騎士にはな」
「Sランクだって!?赤井も市村もVランクなのに、Vより三つ上なんだろ!」
エクセルはうなずきながら深々と頭を下げた。
Sランク=Aランクのさらに上ではないとしても、それこそTランクやUランクを通り越して(Uランクってのも強そうだが)だからかなりの腕前である事には間違いない。
って言うかそんなに強かったのかよ、こいつ……!ああ、そんなのをライバルとかって呼ばわろうとしてた俺って威張り過ぎだ……。




