未練がましい男
「でもさ、私たちの到着はとっくにばれてるんでしょ、六人も強そうなのが加わってるのにボーっと待ち構えてるなんてないとも思うんだけど」
自分も入れるかねと思いたくもなるが、オユキの言う事も実にごもっともだ。
ましてや俺はWANTEDなんてもんにされてる以上、顔はともかく名前は間違いなく覚えられている。
その上あの謎の刺客だ。ぼっチート異能がなければ間違いなく危なかった。もし俺が敵ならば、どんな攻撃も当たらないような奴を敵に回したくはない。
「確かにその通りだ。クチカケ村から来た連中はお前さんたちの事を知っている」
「その上で彼らは」
「俺のとこにも来たよ、クチカケ村のゴーレムをやっつけた冒険者様一行について説明しようとするような奴も。まあ話半分で聞いてたけどよ、同じような考えの持ち主がダインのとこに行かねえなんてうまい話はない。
だから細かい連中は俺の仲間が、俺はダインと決着を付ける。お前さんたちは黒髪男とグベキを抑えてくれればそれでいい」
「六人がかりでたった二人を抑えろと!」
「だから言っただろ、どうかどうか譲ってくれよ、なあ……」
空っぽに近くなった皿から芋の欠片をすくい上げ口へと運ぶと、急に大親分様から見た目相応の坊やの顔になった。
これを拒否したらこっちが冷酷非情な男になるじゃねえか、と言うかなんでこんなにあざとそうになれるんだ?
「まったく気は進みませんけどね」
「そうか、俺のワガママに付き合ってくれてありがとう、本当にありがとう」
「あなた、せっかくそこまでしたんですから頑張りましょうね。
と言うかユーイチくんたちって、みんな本当にいい子ね。だから死んじゃダメよ。と言うかわかってるの、これは戦争なの。それも最終決戦、それこそ最後の一人が残ってた方が勝ちって言う戦い。一人のとんでもない兵士で戦局を変えるのは無理なの、本来はね」
「しかし本当に四百対三百になるんでしょうか」
「なるよ、確実にね。雪女のお嬢ちゃんが言ったように、もたもたしてると私らが優位になるからね。初っ端から全力で突っ込んで来るよ」
戦争。確かにその通りだ。
戦争ともなれば最大限の優先事項は所属する団体の勝利になる、個人の犠牲や手柄は二の次だ。ましてや魔物や山賊とは違う、相手にも相手なりの大義のあるはずの戦いだ。
町長と言う名の権力、そしてリオンさんの相手はかつての仲間で喧嘩別れしたダインと言う相容れない相手。なるほど、条件は整っていやがる。
「と言うかユーイチくんと言ったかしら、案外未練がましいのね」
「未練がましくていけませんか!」
「うちの人を信じてないの?」
「信じていますけど、それでも……」
「それでも?どうしても出たい訳?」
「はい出たいです!」
「あーあ、あなたったら……お客人様にこんなに面倒をかけて……」
で、セブンスは本当に必死だ。
俺がニッポンジンのせいか知らないけど、これまで何十人単位の人間をぶった切って来たくせに戦争って単語にはどうしても忌避感がある。ならばこれまでと同じようにザコキャラを倒しまくる冒険活劇にしてしまいたい、責任をひっかぶってしまった方が気分も後味もいいそれは理想論だって事はとっくのとうにわかっているってのに、ラブリさんもあきれ顔だ。
「お前さんたちはどうだい?」
「正直なところ、私も黙って見ているのはどうも……ああ負傷者の治癒は行うでありますが」
「私だってやってみせますから!」
「パラディンの名に懸けて遅れは取りません」
そしてそれは、赤井たちも同じだったらしい。
まさかぼっちの俺の意見に三人ともついて来るとは思わなかった。
まったく、我ながら実に新鮮な体験だ。
「ああそうかいそうかい、じゃあどうしてもって言うんなら、昨日やって来た腕利きの奴がいるからな、そいつに勝ったらお前さんたちの言う通りにする。いいな!」
セブンスがさっき俺の言葉を奪った以上俺たち六人は一致団結だと判断したリオンさんは首を横に振りながら、席を立った。
後にはやはり皿を空っぽにしたセブンスとアビカポが付き従い、ラブリさんは背伸びしながら自分の皿を台所へと運び、俺たちも追従した。
「ずいぶんと強引に押し切りましたね」
「一刻も早くその男に会いたいんだよ、黒髪男に」
「この世界の人間を斬っているのは私も同じであります」
「ゼロに近ければ近いほどいいだろ、わかるだろ」
闘技スペースと言う名の試験会場。今日だけでもう二度目の往復でたどり着いたその場所は、まださっきの殺気を残していた。
遠藤とはまた違うだろう剣士。相当に腕利き故に、既に人すら斬っただろう剣士。
遠藤に続きまた一人、いや赤井はともかく俺や市村を入れれば四人目の「殺人者」。生きるためにはしょうがないの一言で済ませられるお話とは言え、これ以上もう見たくない。
手を血に染めるのは自分たちだけで十分だとか言うのがどれほどきれいごとであり、RPGよろしく四人パーティでゲームクリアなんぞ絵空事だってのもまたわかっている。それでも俺は、あきらめたくない。
「どっちもどっちなんだよね、結局。ウエダもリオンさんも、本当に優しくて頼りになる人。ウエダって本当にカッコいいと思うよ」
「俺はただごねただけだぞ」
「ごねただなんて、そんな情けないことを言わないの」
オユキはそんな俺に付き合うかのように浮かれた調子で語り掛ける。右手を差し伸べて来たのでつい握ると、やっぱり予想通り冷たい。
だけど冷蔵庫で作った氷を舐めたりつかんだりした時のようないやらしい冷たさがなく、あくまでもいい意味で表面的だった。
「私はね、もっと女の子が増えてもいいと思ってる」
「オイ」
「だってさ、私ライドーのおじ様以外まともに人間と会った事なかったの。もちろんおじ様も素敵だけど、ウエダも同じぐらい素敵」
素敵だなんて!俺が素敵だなんて!ったくオユキまでこんな調子とか、我ながら一体何をやって来たのか自分が疑わしくなってくる。
「まったく、ここまで来ると元の世界でなんらかの操作がされていると考えた方がいいかもしれないな……」
「ちょっと市村まで何言ってるの、まあ確かに、上田君がモテなかったのは今思うとおかしいけど……」
ぼっちになるように細工?バカバカしい、一体どこの誰がそんな真似ができるんだか。どれだけの力をもってすればできるのか、本当試して欲しい。
「お前たち、試験官を連れて来たぞー。ったくワガママボウヤ同士、しょうがねえな」
「かなり腕利きの傭兵でやんす、本気でお願いするでやんす」
そうこうしているうちに、リオンさんと共に試験官とでも言うべき男がやって来た。
背は高く、鎧をがっちりと着込んでいる。その上で顔つきも整っている。
顔つきも整っている……。
「あっ!」
「えっ!?」
あっと言う声を出したのは、俺と、その男と、赤井と、市村と、セブンスと、大川。
誰が一番速かっただろうか。
そしてえっと言う声を出したのはやはり誰が一番速かっただろうか。
誰かと思えば――――エクセルじゃねえか!




