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リオンさんの意地

「突入計画?」

「さっきも言ったように、この町は今真っ二つに分かれている。今んとこ俺らが優勢だが、あの黒髪男が出て来ると危ないかもしれねえ。

 と言うか、ダインは出して来るだろう。あいつは、回りくどい事を嫌う。昔っから真正面からぶつかり合う事を正しいと思ってるやつだ」




 俺は料理をフォークとスプーンで口に運びながら、突入計画と言うリオンさんの言葉にうなずく。



 ジャガイモとベーコン、グリーンピースみたいな豆。それからニンジンとレタスっぽい野菜のサラダ。

 ジャガイモにかかってる油の味が濃くて、疲れた体には予想外によく染みわたる。

 確かに、大親分様のお味だ。


「俺はこの戦いをこれ以上長引かせるのは嫌だ。嫌だからこそ、こうしてお前さんたちにお願いしている」

「お願いですか」

「親分様がこうして頭を下げに行くことなんて初めてでやんす、そんな人にお料理を作るお手伝いができてあっしはとても嬉しいでやんす!」


 アビカポは料理を作ったラブリさんと、芋の皮むきに努めたセブンスに囲まれている。そんな中でも親分様の言葉に正確に喜ぶ辺り、本当に親分の事を神のように思っている証拠だ。



「とは言え数がわからない事にはなんとも」

「総大将のダインに、その愛人のグベキ。それから取り巻きとなった連中とその部下たち、それから昨日今日でくっついた連中でだいたい三百かな」

「三百!」

「だいじょうぶだって、こっちは戦力だけで四百はいるんだから。

 でもやっぱり、犠牲はゼロに近いに越した事はない。でよ、犠牲を抑えるにはどうしたらいいと思う?」




 これまで俺たちは、個々人の戦闘しかして来なかった。作戦と言えば、逃げ回る俺を囮にして他の人間に斬りかからせるぐらいしかない。


「大将をやってしまえば」

「ずいぶんと簡単に言うな、で具体的には」

「一騎打ちを申し込みますか」

「バカを言え、それで請け負うような相手だったら頼まねえよ」

「だとすると、やはり私が行くしかないようです」



 その俺たちがやってる戦術の要は、俺とセブンスだ。


 セブンスのヘイト・マジックと俺のぼっチート異能により、俺は攻撃を一身に集めながらも無効化できる。

 そのために俺はもちろん必要だし、セブンスだって欠かせない。


「アンタ、戦えるのか?」

「さっきも言ったように、ユーイチさんのためならば戦えます!」

「本当に強情な子だねえ。ねえあんた、ここはお客人様に甘えないかい?」

「わかってるよ、この子の強情さはよ。おとなしい顔してやると言ったら逃げねえからな。彼氏様のお頼みですらよ」

「はい、私は彼氏様のユーイチさんのためならば絶対に退きません!」



 彼氏様って言葉から逃げるように俺はニンジンを口に運び、ゆっくりと噛んで含める。ドレッシングもなくただ塩が振ってあるだけの感じだが、それでもニンジンってこんな味だったのかと認識するほどには十分な味だった。

 実はミルミル村でもそれっぽい野菜は食べていたけど、あまり味はしなかった。だが今度のはやけに味が濃い。


「これはやはり、俺たちを相当に買っていると言う事でいいんですか」

「まあな。と言うか何か彼女様に言ってやれよ」

「お前が剝いたこの芋もうまいな」

「ありがとうございます!でもニンジンとかレタスとか切らせてくれても良かったのにラブリさんったら」

「可愛い子だねえ、でもあんまりあれもこれもとやってると、彼氏様をダメにしちゃうかもよ。いい女ってのは、時々突き放すぐらいが一番いいの」

「突き放すだなんて、ラブリさんってリオンさんを突き放せるんですか?」

「まあ落ち着けセブンス、まともに立ち向かっても勝ち目はない」



 リオンさんも鋭いけど、ラブリさんもなかなかに迫力がある。同じようなセクシー美女でもミーサンのように力に溺れる所もなければ、ロキシーのように追い詰められているのを隠すような所もない。本当に余裕を持った「女」だ。


「話が飛びましたけど、セブンスの魔法を上田君に使えば攻撃はほぼ無効化できるはずです」

「そんなすごい魔法なのか」

「ええ、昨日実証できましたから」

「ふーん……」


 大川の言葉を受け、リオンさんとラブリさんは俺に視線を運ぶ。口をもぐもぐさせながら、じっと俺の事を眺めている。アビカポも二人に追従するかのように俺の方を向いている。



「ん!」


 俺がアビカポの方に気を取られた一瞬の隙に、ラブリさんがポケットから何かを取り出して俺に向けて投げて来た。だがその玉は俺の脇を通り抜け、音を立てて床に転がる。



 そしてラブリさんの手からテーブルに、それと同じっぽい一個の丸い玉が転がされる。


 ごく小さな金属の玉、直接投げるだけならばともかく頭にでも当たればかなり打撃を与えられそうな代物だ。その玉をどうやってかはわからないが瞬間的に投げつけ、俺に当てようとしたらしい。



 しかし例のぼっチート異能が発動し、こうして回避できたと言う訳だ。



「魔導士でもそんな武器を使うのでありますか」

「魔力が切れたらおしまいだからな。

 しかしお前さん、その調子で三百人の中に飛び込んで行く気か」

「そうです。ナナナカジノの時もそれで勝ちましたので」

「それはやめとけ。ナナナカジノの時はお前さんが、お前さんの意思でお前さんのためにやった事だろ。ここでそんな危ない真似をさせたら俺らの沽券ってもんに関わる」

「でもそれが一番手っ取り早く、かつ犠牲の少ない方法だと思いますけど」

「そいつは最後の最後まで取っとけ、いいな」

「でも皆様の」

「責任なら全部もらってやるよ、たぶん今までびた一文犠牲なんか出して来なかったんだろ?お前ら」


 確かにその通りだ。

 俺はこの前のような事がない限り傷一つ負ってないし、ヘイト・マジックを覚えてからはあのゴーレムですら無傷で倒せた。と言うか俺自身、あの時のかすり傷が唯一最大の物的傷害だ。

 それですらあんなに取り乱しちまった俺の率いる軍団だから、どれだけその手に弱いかは推して知るべしだ。



「この町の事はこの町の住人にやらせろと」

「まあ、そうなるな。あくまでも今回お前さんたちは控えてもらいたい。いざとなったら呼んでやるから。それまではもうちょいゆっくりしてってもいいんじゃねえかな」

「でもさ、私たちの到着はとっくにばれてるんでしょ、六人も強そうなのが加わってるのにボーっと待ち構えてるなんてないとも思うんだけど」

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