ぼっちとマフィアが同盟する!?
「ダインは昔、俺の仲間だったからな」
アビカポが持って来た茶碗からこんなもんしかねえけどと言いながら冷たい早熟茶を注いでくれる姿は、やっぱり「親分」のそれだった。
「ああ、その賛辞でいいぞ」
「ありがとうございます」
飲んだ上で右手の親指と人差し指でVサインを作って見せるとリオンさんの顔から少しだけこわばりがなくなり、俺の後を追うように早熟茶に口を付けた。
「昔俺がまだチンピラだった頃、あいつと共に暴れ回った。ああ、正直相当な数の連中を殺したよ」
「俺だって、たくさんの山賊を狩りました。ナナナカジノの時とかはそれこそもう」
「そうか、お前さんもいろいろやって来たんだな。それで、今までで一番嫌だったなってのはどんな戦いだい」
「遠藤とのです。旧友と言うか、何と言うかって存在でして」
「そうかい。俺にとって一番嫌だったのは、六年前の戦いでな」
リオンさんはもう一口早熟茶に口を付けながら、過去の事を話してくれた。
この町に生まれたリオンさんの両親は物心付いた時にはすでに亡く、先代の親分に拾われて育って来たらしい。
ダインって人とはそれこそ六歳の時からの付き合いで、毛も生えねえ頃からいろいろバカをやり合ってたとか時には楽しそうに、時には寂しそうに話してくれた。
「それで俺はこの関節剣って奴の扱いを、あいつは大地魔法を覚えた。それで俺たちがダブルエースになるんじゃねえかって期待されてた時期もあったぜ」
「それは……」
「だけどあいつは、うぬぼれ屋でな」
「うぬぼれ屋?」
「まああいつは育ちが良かったからな、まあ目くそ鼻くそレベルの差だけど。
いざとなれば親分の処から逃げ出すだけの場所があった。そのせいか少し無茶してもかばってくれるんじゃねえとかって勝手に思い込んでたらしいんだよ」
それこそスラム街そのものの荒れた建物ばかり並ぶこの町にも、格差って奴はあるらしい。
もちろん親分と下っ端ってのはあるんだろうけど、例えばこの親分の子どもとかつてのリオンさんのような孤児では訳が違うのかもしれねえ。それからリオンさんとダインって男の人も……。
「そんで数年前、親分が死んじまってよ。新しい親分の座ってのをシマ広げまくってた俺とダインで競うことになったんだけど、そこであいつやっちまったんだよ。
自慢の魔法をあんな事に使いやがってさ……」
大地魔法ってのは、文字通り大地を操り地震を生み出すような魔法らしい。確かに強力かもしれねえが、地震なんてそれこそ広範囲災害じゃねえか。
ましてやこんな密集地域で地震なんか起こせば次は火事って言う負の連鎖だ。あるいは使いにくい魔法かもしれねえ。
「具体的には?」
「西門にあの女がゴーレムを持ち込んで来たからよ、それでゴーレムをぶっ飛ばせば名前が上がるんじゃねえかと思いこんでな」
「ロキシーって人ですか?」
「ああそうだよ、お前さんたちが倒したって噂の奴だよ」
六人がかり、いやライドーさんも含めれば七人がかりでやっと倒したゴーレムを一人で倒せば、そりゃ名前は上がるだろう。
そういう訳である時俺がやってやるとばかりに建物ごと大地魔法ってのを行使して生き埋めにしてやろうと計画し、結果的に十幾人の犠牲者と引き換えにロキシーとゴーレムにかすり傷を与えたらしい。
その悲劇の舞台となったのが、あの西門の教会だったそうだ。
とにかくこれがきっかけとなって親分の座はリオンさんに決まり、ダインは一兵卒に落とされたと言う。
「まあ俺としてはあいつの戦力そのものは買ってたし幼馴染だったけどよ、そんでもあいつは言う事を聞かなくてな」
「元から過激派って感じの人でしたけどそれで鬱屈が溜まってなおさら……と」
「その上にあいつは女好きでな、それこそ女を囲いまくってチヤホヤされたがったらしい。でも俺はそういう趣味はなかったしな。
まあそれでよ、その後も名誉挽回を狙ったのか知らねえけど無駄な犠牲を出し続けたせいかあいつはどんどんと孤立し、ついに俺の下から逃げ出した」
「追わなかったんですか」
「追ったけど逃げられた。そして俺らは手勢を率いて奴を出すように迫ったけど、なんつったってダインは中心にいたからな、俺らの弱点も長所も全部知ってるんだよ。
それでなかなか討伐は成功しないまま時が流れ、逃げ込んだ連中の中で実力でのし上がり、この前ついにその南東地域を治めちまったんだよ」
赤井たちをもてなしてたラブリさんが体をくねらせながら近寄って来る。色気をむき出しにしながらも嫌らしくなく、正しく大人の女のそれだ。
ミーサンとロキシーに出くわしてなきゃ惚れたかもしれねえ。
「俺はさ、本当は平和な町を作りたいんだよ。だからゆっくりと納得し合ってああやっぱりこの人に町治めてもらって平和な暮らししたいなって思わせたいんだよ」
「わかりますが」
「でも知っての通りの場所だ、今までのように荒れ放題の方が都合がいい奴も多い。そういう連中がかなりの数であっちに行っちまってる。だから押しても押しても決め手がねえ。まあ、どっちかっつーと俺らがずいぶんと時間をかけて追いやったってのが正解かもしれねえがな」
確かに平和になるのはいい事だ。だが平和ってのは秩序だ。
秩序だった行動をすると、どうしてもはみ出し者は生まれる。俺だってその類だから、そういう連中の気持ちはわかるつもりだ。
どうしてもはみ出し者があふれ返り、どっちかと言えばチンピラめいた人間たちが集まったグループに流れ込んで力が与えられてるようだ。
「でもそんなグループなんぞ各個撃破すれば」
「厄介なことに、そのダインが囲ってる女の中に腕利きの奴がいるらしい」
「腕利きの女と言いますと」
「魔法使いだよ、その上に交渉術に長けててな。それでたくさんの連中を一つにまとめ上げたらしい。なんでもグベキって言う名前なんだけどな」
「グベキ!?」
グベキと言う名前に思わず俺は腰を浮かし、赤井たちも走り込んで来た。
あの小娘、こんな所まで来てたのかよ!
「どうした、心当たりでもあんのか?」
「グベキと言うのはミーサンの親族を名乗っていた少女で、ナナナカジノ襲撃にも役目を得ており現在は指名手配の状態であります!」
「何言ってんだお前、グベキってのは二十代半ばの女だぜ。真っ赤な服着ちまって、真っ赤な唇をしたよ。お前さんが言ってるのは別の女じゃねえか?」
何だ、ただの同名かよ……しかしまたグベキと言う名前の別の女が出て来て、俺らの前に立ちふさがるだなんてな……。
まあ名前はさておき、黒髪男とやらの正体を探るためにも俺らはやらなきゃならねえ。
「そんでよ、引き受けてくれるか?」
「やりますよ!」
遠藤であって欲しくもあり、欲しくもなし。それからグベキと言う名前の女も気になる。
俺はそういう訳で、リオンさんと手を結ぶ事になった。




