上田裕一の惨敗
セブンスは俺に向かって祈りをささげながら、一枚一枚ゆっくりとカードを渡す。
「仲のいい事ね。やっぱり彼女だから?ってあらあら、本当にほほえましいわね」
俺が平静を装いながらも震える指を伸ばした最中にそんな事を言われた結果つい配ろうとするセブンスの手の甲と右手の中指が当たってしまい、ラブリさんに思いっきり笑われた。
「そうですけど、ああもしかしてインチキをしているんじゃないとか」
「だとしてよ、お前さんたちのデメリットって何だ?俺らはゼロだぜそんなもん。なあラブリ」
「可愛いのねえ、できる物ならばしたいんでしょ?」
「はい、したいです」
セブンスは真顔でとんでもない事をぶちまける。
ラブリって人に思いっきり笑われても全く気にする様子もなく、むしろ必死ににらみ返している。背丈が違うから迫力はないが、それでも希少な体験をさせてもらっている事に変わりはない。
そんで、とにかくカードを手に取らない事には始まらねえとばかりに見てみる。
♥の4と5とキング、♦の6と7、そして♣のジャック、そして♠の4。
合計50。
「カードを見たか?」
「ええ、把握しましたよ。それで先手は」
「お前からでいいよ」
まったく視線の動かないリオンさんの側には、アビカポやラブリさんなどがへばりついている。
言うまでもなく俺の仲間たちにカンニングをさせないためであり、文字通り俺たちとリオンさんたちの戦いであると言う事を示すためだ。
一人一人、顔も違えば性別も違い、名前もたぶん違う。
「どうした、ほら来いよ」
「30!」
「53!」
俺の放った30に対し、いきなり53。
こっちはジャブのつもりだったのに、いきなりストレートを返して来た。
53。
確かに1枚の数字の平均は7だから、7枚×7の49よりは大きい。だが大きく逸脱はしていない。
リオンさんの顔面が全然動いていない。こんな童顔のどこから、戦う男のそれをむき出しにした気迫ってのがあるんだろう。ポーカーフェイス?いやそんな生易しいもんじゃない、もっと恐ろしい何かだ。
こっちだって50しかないんだから、ここは突っ込むかしらを切るかしかない。
なぜ即答できた?仮に53だったとしても、いきなり突っ込んで来るはずはない。こんな慎重そうな人が。俺だったら、俺だったら……
「54!」
「待った!」
待つと思った。実際は60ぐらいあるかもしれないと思った。
言うまでもなく、俺の負けだ。
そして、リオンさんの手札は……
何だこれ、♥のエースと8、♣の5・6・7、♦のエース、そして♠の8、つまり36しかないじゃないか!
「わかるんだよ。お前さんは頭がいいって。だから大胆に行っちまったんだよなあ」
「さすがは私の旦那様!」
ラブリさんが甲高い声でリオンさんを褒める。36でそんな結果を売って来るだなんて、ったくアビカポ以下の皆様はやんややんやの大騒ぎ、こちとら愕然だぜ。
「もう一回!」
「じゃあ、今度は5枚にするか?」
「了解しました!」
「今度は神の名の下に私が配るであります!」
「神の名の下にねえ、ったく、大真面目な連中だねホント」
ついカッとなってもうひと勝負を申し込み、今度はセブンスからカードを受け取った赤井によって5枚のカードが配られる。
セブンスよりずっと手練れていて、かつやっぱり真摯な手付きだ。
今度は♠の6と7に、♥♦♣のジャックがある。
合計数で行けば46だ。
リオンさんはやっぱり自分のカードを見る事はなく、俺の顔ばかり見ている。顔ばかり見ているのに、目線が全然動いていない。
「やっぱりお前さんからでいいぜ」
「わかりました。では、30」
「45」
またとりあえずとばかりに適当な数を言ったってのに、いきなりとんでもない数を返して来た。
「そんなに焦っていいんですか」
「いいんだよ別に、キング4枚とクイーン1枚なら64だぜ」
そんな訳あるか、今回はたった5枚だ。64だなんてそんな事がある訳はない。
何よりこっちは46だ。平均9.2だ。こんなに優位な事もないじゃないか。
もう一段階押す!
「46」
「48」
「待った!」
48?そんなに強いカードはないだろ。
とか言う俺の浅はかな期待は、リオンさんの心底からの笑顔と共に裏切られた。
♦の6とクイーン、♣の10とクイーン、そして♠の10。
ああ、48どころか50じゃないか。
セブンスたちも実に感心したような顔をしている。リオンって人が本物であり、これまで対峙して来たどの大人よりもカッコイイ事は間違いなかった。
————俺は、まったく、歯が立たなかった。




