トランプ対決
「あっはっは、俺が親分こと、リオン様だよ!」
俺らより背が低い上に、かなりの童顔。
でも身のこなしは確かに軽かったし、そして何より足取りが今まで見慣れて来た戦士の物だった。
「あれ驚かねえのか?」
「いやまあ。案外よくある事かもなあと思ってなあ、まあそうだろ?」
赤井ならこういう事も知ってるかと思ったけど、口を半開きにしてた。
なんだよ、市村や大川だけじゃなくお前も騙されてたのかよ……まあ別にいいけど。
「それでさ、あんたら結構できるみたいだな。あの花に目を付けるだなんてよ」
「なんか不思議な花なのですか」
「あれはな、食える花なんだよ!切って調味料とかと混ぜて食うとうまいんだぜ、なあアビカポ!」
「あっしはあれが大好物でやんす」
「ああ思い出しました、私の世界にも食用菊ってのがあります、それでしたか!」
「まあそういうこったよ!」
食用菊かあ、時々お使いとかでスーパーマーケットにも行くけど、まったく目に入ってなかったよそんな食材……っつーかさすが大川だよ、しっかりしてるな。っつーかそんなもんをなんでわざわざ飾るんだろう?
「この屋敷を手に入れるためにはね、いろいろ厳しい思いもして来たからねえ」
「すべてはラブリのおかげ様よ、本当に頭上がらねえぜ」
「まったく、お客様の前で、それこそあの花を食べなきゃならないぐらいまで追い詰められてた頃と何にも変わらないんだから……」
っておい、ラブリって人腰を屈めてリオンさんの頬にキスしてるよ。
なんとなくこの二人が夫婦なんだろうなってのはリオンさんって人が親分だって事がわかったついでに理解したとしても、こちとら単なる十五、十六歳の集まりだってのに。やめてくれよ!
あ、一〇八歳のオユキも顔を赤らめてる……そういう免疫はなかったんだろうな。
「あの、もしもしー……」
「ああ悪い悪い、にしてもさ、お前さんたちずいぶんときれいな頭だな」
「まあその、やはりこの辺りでもこんな頭は珍しいんでしょうか」
「珍しいねえ、ああ珍しい。そこのお嬢さんの銀髪も珍しい」
「私は雪女だから」
「ほぉ……」
見た目がこれとは言え、魔物を見ても驚かないほどには肝が据わってる。やっぱり本物の親分様だなって感じだ。もちろん、俺たちの黒髪を見てもだ。
って言うか玄関もさることながらここも全体的に趣味のいい部屋だ。
まあ俺に趣味の良し悪しはいまいちわからねえけど、少なくともいやらしい感じはしない。たぶんリオンさんの趣味なんだろうな、うん間違いない。
「で、何だい。お前らは何しにここに来たんだい」
「俺たちの仲間、同じ色の頭をした人間を探しています」
「っつーか何だ、人のカミさんをじろじろ見やがって」
「すみません、実はどうも彼女のような人って苦手なんです」
「あらそうかい、それは悪かったねえ」
俺が弱点をひけらかすと、みんな追従してくれた。
オユキはワンテンポ遅れたが、オユキだってロキシーの件でこの手の女性は苦手になっているだろう。ましてや連続であの手の女に苦しめられた俺らはなおさらだ。
この世界に来てから、苦手な物も増えた気がする。
前は納豆ぐらいしか苦手な物もなかったのに、今は狼とセクシー系の金髪美女も苦手になってしまった。狼はともかくセクシー美女は少しだけまずいかもしれない。
「おいおい、そんな調子で大丈夫かい?あんたもさあ、どうしてまた」
「ナナナカジノを荒らしたミーサンも、クチカケ村で魔物を操ったロキシーも、いずれも豊満な肉体を持った美女だったのであります。私たちの世界では豊満な肉体の美女はともかく金髪碧眼は比較的希少な特性なのであります」
「そうかいそうかい、本当あんたもツイてねえよなあ。でよ、どうしても聞きたいのか?」
「はい、聞きたいです」
「そうだな、俺を認めさせたら教えてやるよ。アビカポ、例の物を持って来い」
「わかりましたでやんす」
例の物と言って俺の前に差し出されたのは、見飽きるほどに見覚えのある物体————トランプカードだった。俺らも二組持っているが、全然使ってない。
「トランプですか、ここにはカジノって」
「ねえよ、どうしてもって奴はナナナカジノまで行かせるからな。そのためにもクチカケ村の宿屋はありがたかったけどな、それからそのナナナカジノも今大変なんだろ?本当参っちまうな」
トランプを扇型に開きながら、にやりと笑ってみせる。まったく、いちいちカッコイイ手付きだ。
こういう場所にはその手の施設があってそれが資金源となってとか言うのは定番だとか赤井は言ってたけど、確かに徒歩二、三日の所にそんな施設があるのにわざわざ競い合う理由もねえ。
その点でもずいぶんと合理的な人だってわかる。
「これでどうしようと」
「これなら誰も傷付かねえだろ、そういう訳でこいつで勝負しねえか。まあな、三べん勝負していっぺんでも勝ったら教えてやるか」
「こっちが負けたらどうなります?」
「どうもしねえよ、協力も敵対もしねえだけだ。お前さんたち自らの手でその頭をした男と女を探し求めろよ」
罠と言うには妙に自信満々そうだし、その上にラブリさんもこっちをずいぶんと微笑ましい顔で見下ろしている。ウソにはとても見えない。
「んだよ、俺がまさか女を手籠めにするような奴だと思ってねえか?」
「肯定も否定もしません」
「やれやれ、思った以上に警戒されてるねえ。まあそんな奴はもうだいぶ粛正したはずなんだけどな」
「いたんですね」
がっかりさせないでくださいよと言う言葉を飲み込みながらこぼした俺の六文字の言葉が気に障りでもしたたのか、急にラブリさんがリオンさんの頭を撫で出した。
大親分とその妻のはずだと言うのに、不思議なほどにしっくりくる。その上でリオンは鋭い目つきをして、俺たちの程度を試そうとしているのが見え見えだ。
むしろ見え見え過ぎて逆に怖くなる。
「で、ルールは?」
俺の意思表示を受けたリオンさんの顔がまた緩み出し、扇型の中からハートのエースからキングまでをきれいに取って俺の前に広げる。
俺の素人剣術よりずっと速い。
「全く簡単なルールだ。今からお互い七枚カードを配るんだ。それでエース、ジャック、クイーン、キングはそれぞれ1、11、12、13としてな。」
「それで」
「その配った奴を手札にしてな、お互いに合計の数を言うんだよ、マークなんかどうでもいいから。
それでだ、例えば俺が先に30って言ったら、お前さんは31以上の数を言わなきゃならねえ。そんでお前さんが31っつったら、俺は32以上を言わなきゃいけねえ。
それを繰り返し、そんな訳ねえだろと思ったら思いっきり待ったって叫べ。そんでよ、言った数よりトランプの合計が小さかったら言われた奴の負け、大きかったら言った奴の負け。ピッタリの時も言った奴の負けだ」
駆け引きと、そして運次第のゲーム化。悪くない遊びかもしれない。
だが同時にどこまではったりを言えるか、そしてそれを見抜けるか、まったく油断も隙もない戦いだ。
「上田君に幸あれと祈る事しかできないのでありましょうか……」
「正直、この戦いはかなり厳しいな」
実際問題、他に誰が適任なのかわからない。
大川とセブンスはまっすぐすぎるし、市村もあまり大差ない。オユキだって魔物って特権が通じない以上ただのギャルだ。
強いて言えば赤井だが、視線が泳ぎまくっている。
「お前さんが相手か、じゃあ誰かに配ってもらわねえと」
「私が配ります!」
俺の右隣の席から身を乗り出したセブンスにリオンは丁重に戻したトランプカードを渡すと、セブンスは俺に教わった切り方でたどたどしく切っている。
俺が教えたつもりの作法だが、いかにも危なっかしくていつはみ出してもおかしくなさそうだった。それもまたいい。
「ああ、ユーイチさんにクイーンとかキングが入っていますように!」
普通にババ抜きとかやっても面白くないのでこんな対決にしてみました。




