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親分様は

「親分、お客人様をお連れしたでやんす!」


 お尋ね者様と、パラディン様と、聖職者様と、見習い魔導士様と、柔道少女様と、雪女様のご一行がご到着させられたのは、予想外に趣味のいい屋敷だった。


「余分な物が何もないでありますな」

「それが親分の方針でやんす」

「きれいな花だね」

「ああそれは菊って言うんだ」

「ふーんいい事聞いちゃった」

「ああそういう名前だったんでやんすか、参考になったでやんす」


 豪華なじゅうたんも高そうな壺も何もなく、落ち着いた色彩の玄関。その上で両側に一対だけ飾られた菊の花。


 ダジャレがスルーされたオユキだけは不機嫌そうだが、実際実にきれいな花の色だ。



 ミルミル村にもよくこんな花が生えていた。タンポポとは少し違うような、それでも小さくてきれいなお花。

 女の子はお花が好きとかよく言うけど、少なくとも河野は関心なんか持たなかったし、セブンスもあまり気にする人間でもなかった。


「実はこれ、東のシギョナツの町から買ったんでやんす、うまいらしいんでやんす。あああっしは今から親分に挨拶して来るんだここでしばしお待ちするでやんす」


 四畳半ほどの玄関で俺たちは男女に分かれて椅子に腰かけ、案内を待つ事にした。


「一体どんな人間が出て来るのか不安と楽しみが半々であります」

「それにしてもきれいな人ですよね」

「今度こそまともであってくれってのは淡い願望なんだろうか……」


 親分親分とか言うけど、その親分の顔も名前も俺たちは知らない。


 知っているのは、通行証に映っているその親分の奥さんらしき女性の顔だけだ。


 金髪美女。まあこの世界じゃありふれた人種かもしれねえが、正直苦手な人種だ。

 何せ二連続で大物の悪役、赤井の言う所のボスキャラがこれだったからな。


 しかも片やセクシー、片やデブと言うのは太り過ぎていないぽっちゃり女だけどどっちも美人。


 もしセブンスがいなければ、俺は本格的に金髪女性が嫌いになっていたかもしれない。



「にしてもさ、この花って何かおいしそうだよね」

「何言ってるのヒロミ、お花は食べるものじゃないよ」


 せいぜい普通の人であってくれよと言う淡い願望を抱きながら俺がその旦那様を待っている間にも、赤井と市村はじっと廊下の方を見つめ、セブンスは俺の方をじっと見つめている。


 そして大川はぱっと見じゃツッコミ待ちとしか思えない発言をし、チート異能を知らないオユキがツッコミを入れようとしながらもなんだかんだで仲良くなってるのにはちょっとホッとした。


(オユキと大川って合わないと思ってたけど、これなら大丈夫か……まあこんな所でど素人様がペチャクチャ喋っても、こっちの常識にはかなわねえんだろうな)


 ツインテールにワンピースと言えば体裁はいいが、銀髪の上にそれこそ雪女と言う名の魔物だ。ましてや自称かもしれないが年齢が108歳。

 ザ・ファンタジーと言うべき彼女は、しかもこんな非常時でさえもギャグを飛ばしまくる程度には陽気で能天気な、どっちかと言えばギャルっぽいタイプだ。

 うちのクラスにはいないタイプで、強いて言えば木村あたりが近いが木村が大川を好まない事は俺でもわかる。


「大川がそれなら大丈夫か」

「ええそうなの?そんな判断基準なの?」

「大川は知っての通り俺らの世界の人間だからな」


 大川が姿勢と柔道着の襟を正しながら笑う。


 大川は成績は今一つだったが授業態度は極めて良く、学級委員長の前田や副委員長の日下以上に不真面目な連中には怖がられていた。

 一番肝心な三田川には全く通らなかったのは残念だが、それでも平気で授業中におしゃべりするような連中には先生以上に怖がられていた。


「俺だってセブンスやオユキとは違う。俺だってこの世界に来た時には戸惑ったよ。幸いパラディンとか言う異能と、僧侶って異能を持った仲間がいたから助かったけどな」

「もう、私だってチート異能ってのがなきゃ死んでたよ」

「へえそうなんだぁ、ちっとばっかしずるいよねーアッハッハ!」

「それでウケるのはお前だけだ、たぶん」


 なぜ俺らのような外の世界から来たような人間だけに、そんな能力が宿るのかはわからない。

 あの三人娘(と言うか日下は間違いなく持ってるからあと二人)のような戦う気のない人間にもおそらく付いてるんだろう。





「よう、あんたらが西から来た冒険者一行様かい!」


 そんな風に元の世界では経験してこなかったつまらないしゃべくりと趣味のいい故に味気ない玄関を眺めているのもそろそろ飽き始めていると、廊下の方から気のよさそうな子どもが出て来た。



 まだ16の俺から見ても小柄で、もし弟がいたらこんなんになるのかなと思わせるようなやんちゃ坊主だ。


「そうですけど」

「じゃあ俺に付いて来いよ、案内するからよ!」


 その子は右腕を後方に振りながら、真っ白な歯をむき出しにしている。妙に足取りも軽く、この空間に慣れている感じだ。



「もう何だよ、そんなにかしこまっちまって。大丈夫だよ、俺は親分の事をよーく知ってるんだから!」

「そんなにはしゃいでいいの?」

「いいんだって、大丈夫だよ!」

「その様子からすると親分殿のご子息か、さもなくば弟殿でありますか?」

「どっちでもないよ、そこのお坊さん。まあよかったらここの中にそれなりには金かけた教会っぽい施設はあるからそこでお祈りでもしたら?

 一応みんな、いざって時はそこでお祈りしてからお仕事に出てるからさ、そういう事だよ。女神様への感謝の気持ちを忘れちゃダメだからね」



 確かに、こんな命のやり取りを強いられるような仕事ばかりしてりゃ神様にも祈りたくなる。でもだったらそれ相応の処置でもしておくべきじゃねえか。


 だとしても、ずいぶんと足取りが軽やかな上にやけに正確なリズムだ。どうも素人には見えない。


「相当強そうだな」

「そんな事はないって、まあここが親分の部屋だからちょっと待ってねー」


 何も言い返す事もリズムを崩す事もなく、その子は親分の部屋だってとこへと入って行く。本当にいちいちリズミカルだ。

 そしてほどなくしてアビカポによってドアが開けられると、そこに一人の大柄なセクシーそうな美女と、さっきの子どもがいた。


 親分のそれらしくデカい椅子には誰も座ってない。




「不在なのか?」

「いや、ちゃんといるでやんすよ」

「まさか……?」



 美女の方がボスかなと思ってじっと見ていると、さっきの子どもがいきなり椅子に座った。



「あっはっは、俺が親分こと、リオン様だよ!」

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