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ヘイト・マジックの使い方

 だいぶ雪が少なくなり、坂もなだらかになった広間。


 またまたいかにも戦うのに都合のよさそうな場所で、やにでかい剣を持った連中が出て来た。




「何の用件な訳?」

「お前ら、この先にあるのがどこのどなた様の場所なのかご存知ねえわけじゃあるめえよなあ!」

「悪いけど知らねえ、どこの誰?」

「なーにー、冗談ならもう少しましなもんを言えよ、まさかリオン様をご存知ねえとか言わねえよなあ?」

「言いますけど」


 案外顔立ちのしっかりしてる男と、それの部下らしき小柄な男、二人して俺らを舐め回すように見てる。

 ぱっと見下品そうで真っ赤な目をしているけど目つきは決していやしくなく、山賊って感じはしねえ。


「覚えておいて損はねえぞ。そんで俺らはなあ、ただの門番だ」

「そうだ、お前らの目当てはエスタ市だろ」


 俺が首を縦に振ると、二人して指を折り曲げている。どうやら目の前の獲物の数を数えているらしい。俺がジッと待っていると、親分らしき男が右手を軽く振りながら一歩近寄って来た。


「何、別に乱暴する気なんかねえんだよ。条件は二つに一つだ」

「何と何であります?」

「俺たち二人と二対二で戦って勝つか、それとも一人に付き銀貨一枚払うかだ」

「あー聞きたいんだけどさ、こんな門から離れたっぽい所で門番ってできる訳?」


 俺の質問に対し、大柄な方がYランク冒険者の、小柄な方がZランク冒険者のライセンスを自信満々に見せつける。

 俺がWランク、赤井と市村がVランクって格を押せば何とかなる気もするが、それでも俺はあくまでも冷静にツッコむ事にした。


「できるとも。あまりにも人が来すぎるもんでよ、仲間に門番を任せて俺らはこうして第一関門やってるんだよ」

「ったくもう、クチカケ村で何があったんですかねー、あそこにいた連中が昨晩の内にどさっとやって来てこちとら徹夜でやんなきゃならねえんスよ、本当眠くてしゃあねえんス」

「お前は寝てただろ、この緊急事態に備えて親分様に叩き起こされただけだろ。まあただでさえ夜中だってのに大行列で来るから俺だって眠いんだけどよ」

「…………なんかすいません」



 ったく、本当に情報が速い。


 俺たちが一日クチカケ村で眠っていた間に、速い連中は鉱山の採掘や森林の伐採を推し進めていたロキシーが失脚して慎重派のライドーさんやミミさんが主軸を握ったと見て昨晩中に村を見捨てたらしい。

 薄情とか言うより、それが生き方なんだろうな。って言うか何だその行動力。見習いてえ。


「すいません?その物言いからするとお前さんたち何かやったな?」

「ええまあ……って言うかそれって、本当に親分様の命令なんですか?」

「そうだよ、ここに来る奴は通行料として一人に付き銀貨一枚もらってるんだよ。そのおかげで何十枚単位の銀貨が入ったぜ、ほらこれ」

「冒険者ライセンスとは違うような」

「そうだ、この町に入るためのパスだ。きれいだろ?あってめえ、なんだその顔は!」


 小柄な男が俺の失言に突っかかるように身を乗り出し、その上で一枚のトランプカードみたいな札を俺に見せつけて来た。


 その札には数字でも文字でもなく、金髪美女の写真が描かれていた。


 短髪ながらセクシーそうな美女の姿は、本来ならば目を見開いて見てしかるべきもんかもしれねえ。




 でも、今の俺にはどうしても受け入れられなかった。


「いやその、ちとトラウマがあってな……」

「んだと!?知らねえとか言ってたくせにその言い草は何なんだ!?」

「いやその、金髪美女に連続で痛い目遭ったんで……」

「てめえみてえな奴は本気でぶっ飛ばす!覚悟しやがれ!」


 ウッとなっちまった俺の隙を突くかのように、二人はデカい剣を振り回して突っ込んで来た。


 ライセンス持ちだけになかなか早い振りだが、それでもよけるのそのものはまったく難しくない。




 でもやはり、どうしてもセブンスたちが気になる。


「セブンス、頼む」

「はい!」


 セブンスは昨日と同じように魔法の弾を作り出し、俺にぶつけた。言うまでもなくヘイト・マジックだ。

 元から俺を狙っていた二人だったが、これで他の仲間を狙う事はなくなるだろう。




「おいてめえ何をしたこの野郎!」

「一対二で勝つ気か!」

「ああその気だ!」

「もう許さねえぞ!」




 二人が怒り狂ったように剣を振り回し、セブンスたちは後退する。


 これで文字通り一対二の戦いだ。

 ぼっチート異能にまかせ、決して命を奪わないように、剣を抜かずに迫って来た大柄な男に突っ込んで右手で殴り付ける。


 それでもミミさんが作ってくれた小手が武器になり、顎に当たった一撃で大男をなぎ倒し、仇討のようにやって来た小男を今度は大川張りの足技で蹴倒す。


「くそっ、何だこの野郎!」

「悪いけどさ、俺ロキシーにミーサン、そんなの相手してたせいで俺そういう女性苦手になっちゃってさ……」

「何だよ、お前連続でそんな目に遭ったのか……?」

「ったく、悪い女に当たりやがって……ただのツキナシヤローかよ……すまなかったな。じゃあこのパスはよ、そこのお嬢ちゃんにくれてやる。受け取っとけ」


 あまりにも簡単に折れた二人組は、そのセクシー美女がかかれたパスをセブンスに投げつけた。

 まあずいぶんときれいな下手投げだ、遠藤よりうまいかもしれねえ。




「言っとくけどセブンスに手出すなよ」

「素手で負けるような相手に逆らいますかってーの!」


 ヘイト・マジックを簡単に使いすぎかもしれねえけど、もうんな事はどうでも良かった。


 せいぜい、このパスに使われている女性が今度こそまともな女性である事を祈るばかりだ。

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