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01 子どもになっているんだけど

 目が覚めるとそこは父親の書斎の中だった。


「あれ? 確か俺は教室に居たはずじゃ?」


 八代秋月はそもそも教室で授業を受けていた。それなのに、何故か父親の書斎に居る。

 寝ぼけているのかと瞬きをするが、そういうわけでもない。

 立ち上がって書斎を見て回るが、見たことある本がいくつか並んでいた。

 父親に借りて読んだ小説があることからやはりここは間違いなく父親の書斎であると確信する。

 秋月は頭を悩ませて考える。少し前のことを思い出す。教室でパニックが起きた。急に辺りが暗くなり床が光りだしたのだ。

 床を見ると、そこは光の魔方陣が描かれていたのだ。

 そして、意識が遠のいていき、目が覚めたら父親の書斎にいた。どういうことかよくわからない。

 秋月は疲れているのだなと思い、書斎を出る。

 書斎から出る唯一の扉。そこを開くと、秋月は呆然とする。

 通常、廊下に出るところがそこは自然溢れる森だったのだ。


 秋月は戸惑っていると、黒いひらひらとした服を纏った人物が走ってくる。よく見ればそれはメイド服であった。

 そのメイドは十代後半くらいの女性だ。しかし、背が高いメイドだった。秋月は背が低い方でも高い方でもないとは自覚しているが、それを考慮するとメイドの背はあまりに高かった。

 それに見た目が日本人には見えなかった。西洋人だろうか。


「アーロン様! こんなところにいらっしゃったんですね! 探しましたよ」


 ほっとした様子のメイド。

 アーロン? 誰のことだ? 日本語を話しているところから彼女はここが日本である可能性は高いが、秋月はこんな白人の女性の知り合いなどいない。正直戸惑いしかない。


「アーロン様、お怪我はありませんね。はぁ、さぁ、冒険は終わりです。帰りますよ」


 やはりアーロンと呼ばれているのは秋月のようだ。手を掴まれる。

 そこで気づくのだ。自身の手が小さいことに。自分の腕が体が小さいことに。


「え? え?」


 よく見れば服装も制服でもなく、私服でもない。見たこともない子供用の正装服だった。


「どうかされましたか? アーロン様? なにかおかしなことでも?」


 メイドは怪訝そうな顔でこちらを見る。

 そこで気づく。メイドは決して背が高いわけでもなかった。秋月自身が背が低くなっているのだ。



 混乱した状態で秋月は連れられて森を抜ける。意外に力強いこのメイド。様付して置きながら結構荒い扱いを受ける。そして、歩いている内に街が見えてきた。

 メイドは迷った様子もなく一直線に目的地へと向かっている。困惑している内に巨大な屋敷の前に居た。

 メイドはこの屋敷に入ろうとしていた。秋月は本当にいいの? と確認したい気持ちだった。

 こんな豪邸、テレビでしか見た事ない。

 メイドは怪訝そうな顔でこちらを見ている。秋月はええいままよと思いながらメイドについていく。

 分厚い扉を抜けて中に入ると、だだっ広い玄関ホールが迎えてくれる。

 秋月が一生お目に掛かれなさそうな高級そうな花瓶やいかにも高そうな風景絵画や子どもが書いただろうと思うような妙な絵画がかけられている。

 床はウレタン樹脂で作られているようなツルツルで、庶民の秋月にとって場違い感が甚だしいにも程がある豪邸である。


 ふと視線を上に上げる。これまた巨大な階段が玄関ホールを出迎えるように配置してあり、その階段の上に少女が立っていた。現在の秋月と同じくらいの少女だろうか。これまた見た目が日本人ではない。金髪のセミロングに気の強そうな青い瞳。綺麗な黒のブラウスに黒のスカートといった不幸でもあったんですかという服装である。

 秋月がもしこんな状況で無ければ外人! 可愛い! と内心興奮していたかもしれないが、今はそんな余裕など無かった。


「アシュリー様」


 メイドはそう少女の方を見ながら言う。

 しかし、少女は偉そうにこちらを酷く冷たく見つめているだけで答えようとしない。無愛想というよりもこちらを侮蔑しているように見える。一部の人にはご褒美と言える視線である。

 しかし、アーロンといいアシュリーといい、どこか聞き覚えのある名前だ。なんだったかなと秋月が頭を悩ましていると、


 玄関ホールにコツコツという足音が響き渡る。


 隣にいたメイドがビクつくのが目に入る。秋月はゆっくりと再度顔を上げて階段の上を見上げた。

 足音を鳴らしてアシュリーと呼ばれた少女の隣に現れたのは青年だった。


 本来の秋月と同じくらいの歳だろうか。背は高く、180はあるだろうか。アシュリーと同じく金髪のサラサラヘアーにアシュリー以上に鋭い青い瞳。黒のスーツといった正装を纏っている。

 青い瞳が秋月を捉える。思わず秋月は身震いする。鳥肌が立つのがわかる。その鋭い瞳はあまりに冷たい瞳だったからだ。アシュリーの侮蔑の視線とも違う。こちらをまるで人と認めていない、そう家畜を見るような目だった。綺麗な青い瞳のはずだが、秋月にはその目が酷く濁った黒に見えた。


 刹那、秋月の頭に強烈な痛みが走る。それは記憶だった。記憶が洪水のように雪崩れ込む。


 メイドがこちらに駆け寄ってくるのがわかる。しかし、そこから視界が移り変わった。


 秋月は拘束されていた。場所は崩れ気味の教会だろうか。秋月の両手両足には黒の鉄の拘束具が嵌められている。

 目の前には青い模様の入った仮面を被った剣を持った男。

 そして、数人の男女。服装は秋月のよく知っている服である。秋月の学校の制服だった。

 その顔もよく知っている。クラスで上位カーストに居座っているサッカー部の男子たち。それと同じく上位カーストの女子たち。秋月の友人も居た。そして、不安そうにまたどうしていいのかわからず困惑した様子の幼馴染がこちらをじっと見つめている。


 目の前には少女が立っていた。和服が似合う美人の大和撫子。しかし、それを打ち消すように左目が邪悪な獣ような鋭い赤い瞳。左側の顔が火傷でも負ったかのように黒く爛れていた。


 そこで視界が元に戻り始める。

 メイドが必死に大丈夫ですかと心配そうに顔を覗き込んで、身体を支えてくる。

 秋月は荒い息をしながら、雪崩れ込んだ記憶を整理する。


 思い出した。この世界は知っている。ネットで大人気でアニメ化までしたアニミズムの世界の中だ。



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