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間違いメール③

マホさんとアキさんのやり取りは、大抵夕方から夜中までです。

お仕事によっては合間にメール出来るらしいアキさんは日中にも送ってくれるのですが、マホさんはお仕事中はスマホが手元にありません。

ですので、普段はマホさんの帰宅後にその返信をしてそれから…と始まるのです。

後は、朝にマホさんが出勤準備でバタバタする前にアキさんが連絡してきた時くらいです。


『マホさんおはよう!今日は雑誌の撮影なんだ~』


《雑誌の撮影》なんてモデルみたい~とか、なんだかズレた事を考えるマホさん。

いや、アキさん芸能人だから。そういうのがお仕事の人だから。


そんな華やかな話以外にも『疲れたから今日はお風呂に温泉の素入れよう』とか『よく行く整体の先生が面白い人で』とか話してるせいか、マホさんの中ではアキさんは《職場の若い子》もしくは《歳の離れた親戚の子》なポジションらしい。

テレビや雑誌で見る人だという認識が薄く、マホさんには縁の無かった世界を見せてはくれますが、彼自身とはなかなか結びつかないようです。



撮影とか、きっとカメラマンに「手はここに置いて、目線はこっち」なんて言われながらポーズ決めたりするのかなぁ…

あ、メンバーさん達と一緒なのかな。並び方とか立ち位置とか決まってるのかしら、センターは誰とか。


この日はお仕事お休みなマホさん、用事や買い物はあるけれど時間に余裕があるので、そんな事をノンビリと考えます。

まあ、色々想像しても、そもそも誰なのか知らないのだから《何か男の人達がポーズ取ってる》程度の朧気な輪郭なのですが、何やらピコーンとヒラメキが。


《特撮ヒーローの名乗り上げ決めポーズ》!!


「なんちゃらレッド!」とか叫びながら順番にビシッと構えていくヤツ。

最後に全員揃ってポーズ決めて、背後では意味不明な爆発してるアレ。


んなワケあるかいとセルフツッコミしつつ、そんな想像をメールしたら、『似ているような似ていないような』と返信が。

え?!それぞれ名乗りながら何かカッコいいポーズしてるの?!

何ソレ、メッチャ面白……ゲフンゲフン、スゴいじゃん!


マホさんの中では、撮影と聞いたら《決めポーズ》が確定しました。

きっと必殺技もあるに違いない。是非とも技の名前を叫びながら繰り出して、敵を倒していただきたい。


敵って、誰だよ………




ある朝は『今日はPV撮影!車で移動中~』

山の中で撮るから電波状態悪そうとか書かれているのを読みながら窓の外を見ると、雨。

アキさんは都内在住ですが、マホさんは違います。といっても隣の県なのですが。

この日の天気予報は関東全域が雨です。車での移動なので関東圏内だと思われる。


『こんな雨の中、山で撮影なの?!雨天順延とかしないの?!』

マホさん、完全に運動会や遠足扱いしております。

お仕事であって学校行事じゃないんだから、そう簡単にスケジュールは変えられないですよ。マホさんだって今日もお仕事行くでしょう?


昨日の夕方から降ってるから、足場は悪いし地盤も弛んでるだろうし、水が出るかもしれないし…

さすが超ド田舎出身、悪天候時の危険性を把握してる。なぜか最悪想定だが。

野生の獣が出たら…

いやちょっと待て、どんな山奥を想像してるんだ。

秘境探索する訳でもないし、そんなに奥まで入らないでしょう。

というか、正規の撮影隊が入るんだから地元の行政に話を通してあるはずです。危険だったら止められます。


斜め上のいらん心配しながらマホさんも出勤。

ロッカーの中のスマホが気になりながらもお仕事頑張ります。


『撮影スタッフ達も含めて大所帯だから、何とかしちゃうんだよ』

まあ、そんな返信が昼過ぎに来ていたのですが。

というか、《何とか》って何?

もしかしたら必殺技が炸裂するのか!?


帰りがけにチラッと読んで、必殺技にワクワクしながら急いで買い物を済ませて帰宅。

晩酌の支度前に一服しながら、さあ返信…とスマホを手にした瞬間のメール着信。


『マホさん聞いて!!』

何やらアキさんが切羽詰まっている模様。

撮影後に事務所に寄るように言われたと日中のメールに書いてあったので、何かあったのかも。


『後輩がファンの子とメールしてたのがバレて怒られてるんだよ!!』

………はぁ?!


『恋愛なんて自由じゃん!節度の問題だよね?』

………何ですと?!


ただでさえスマホ持ったと同時の着信音に驚いて心臓バクバクしてるところに、トンデモな内容。

オバサンの心臓にもう少し優しくして下さい。

というか………



スキャンダルを外部に漏らすなよ!



まあ、《芸能人とファンの子の熱愛発覚!》なんてありふれているし、誰なのか知らないのだから芸能ニュースや週刊誌で見かけても、それが後輩君の事なのかマホさんには判別は付かないのですが。

なので、外部に漏らしたという程ではないだろうし、アキさんは《節度を守っているなら恋愛したっていいじゃん。何で怒られるの?》と言いたいのであろう。


そうなのです、《節度》の問題なのです。


マホさんとアキさんのこれまでのやり取りでは、アキさんは具体的な事は言っていない。例えば《雑誌の撮影》といっても《何の雑誌》かは言わない。

マホさんだって聞かない。

今回の事も、彼は内容はともかく後輩としか言っていない。

お互い恋愛感情などカケラもないが、いわゆる《節度のある交流》なのである。


後輩君と彼女さんの場合はどうなのか。

出会いは《芸能人とファンの子》だが、一歩進んだ《お付き合い》になると彼女さんは《情報を知り得る》立場になる。

でも、だからといって、後輩君が《公式に発表されていない情報》《公式情報を損なうような内部事情》を話していい訳ではない。

彼女さんも、そんな情報を聞いたとしても他人に話してはいけないし、そもそも後輩君とお付き合いしている事も公式に発表されていない限り黙っていなくてはいけないのです。


おそらくはどちらか、又は2人共がそのラインを超えてしまった。

だから発覚して怒られているのではないのか?


そんな事をツマミを作りながらポチポチと入力して送信。


『誰にも相談出来なくて…話を聞いてくれてありがとう!』

すごく落ち込んでいるから、ご飯に誘ってくると返事が返ってきました。

後輩君もアキさんも、ガッツリ食べて、明日からまた頑張れ!

マホさんも鶏肉のカツレツとシラスおろしをツマミにガッツリ呑んでます!


最初はひたすら泣かれて困ったけど、最後には笑うようになったからタクシーに押し込んで帰らせたと、夜中近くに連絡が。

うんうん、いいお兄ちゃんだねぇ。

マホさんも一安心。明日もお仕事だしそろそろ寝ようかねと布団に入って気がついた。



雨を何とかしちゃう必殺技、聞いてない!


いや、必殺技じゃないし重要でもないから。





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