地図アプリ
パートが終わった帰り道。
駅前からバスに乗る為に、ロータリーに向かって歩くマホさん。
今日は、自宅より手前にあるスーパーで買い物して帰る予定です。なので、頭の中で買い物リスト作成中。
《今日の夕飯何にしよう》は、主婦共通の悩み。と言っても、さほど料理が得意な訳ではないマホさんはレパートリーもあまり無いので、言う程悩みはしないのですが。
寄る予定のスーパーは、本日週に一度の98円均一の日。何かお買い得があるといいなぁなどと思いながらロータリーに差し掛かった所で「すみません」と声を掛けられました。
見ると、ご年配の男性。
アンケートや何かの勧誘ではなさそうなので、何でしょうかと答えるマホさん。
男性…おじいさんは、ここに行きたいのですがと手にしているスマホをマホさんに見せます。
スマホの画面には、地図。
お店等を検索すると、目的地に矢印が付いて周辺地域が表示される、アレです。
近くに交番あるんだけどなぁと思いながら画面を覗き込みます。
マホさんは方向音痴なので、道を教えるのも教えられるのも苦手なのです。
『ドコソコの角を左に曲がって次の十字路を右』とか言われても、最初に左に曲がったら、もうどっちから来たか判らなくなってしまうくらいです。来た道を戻るなんて、初めて行く所だったら無理かもしれない。
それ、もう、一人でお外に出てはいけないレベルなのでは…?
まあ、今回は道を教える側です。マホさんの知っている場所だといいのですが。
このロータリーのすぐ近くだって聞いてるんですけどねとおじいさんは言います。
それならなんとか判るかもと、改めて地図画面を見せてもらいます。
………が。
おじいさん、待ち合わせ時間ももうすぐだし困ってるんですよなどと言いながら、画面を拡大したり縮小したり回転させたりと忙しなく操作する。
見ているマホさんは、ひっきりなしに縮尺変わるわグルグル回るわで、目的地どころか現在地が地図のどこにあるのかも把握出来ません。
待って待って、目が回るチカチカする、おじいさんがスマホの操作出来るのは判ったから、動かすの止めて~!
一体何がしたいのか、スマホを目の前に差し出しても画面を見せるつもりも無いのか道案内すら要らないのか、
そして、何よりも。
目的地である、お店の名前は何ですか?
スマホ等で地図を見れるようになってから、《ここ》へはどう行くのかと地図アプリの画面を見せながら聞く人ばかりなのです。
たまにパソコンで検索してプリントアウトした地図を見せる人もいますが、それでも《ここ》なのです。
《ここ》って、ドコだよ?
《ココ》って名称の所なの?
地元住民で土地勘あるから地図見せれば判ると思ってるかもしれないけど、逆に知っているから、道と建物の輪郭程度しか表示されない地図アプリ見ても判らないんですけど。
土地勘あるって事は住宅地図レベルで知っているって事だし。
そもそも、目的地を判っている本人が見ても迷っている地図見て、何も知らない他人が判る訳が無いのです。
おじいさんも、あぁ、○○ですけどって、なんだよ知らないのかみたいな口調だけど、マホさんは今初めてあなたの口から聞いたんですけど。
その店は知ってますが。っていうか、指差してソコですって言える程近いですが。
初めて来た人でも地図の必要無いくらいです。
この駅前のバスロータリー、アルファベットの《C》の形をしています。
マホさんとおじいさんの現在地は、《C》の下側の切れ目付近。
目的地は《C》の上の切れ目からロータリーに入る道を渡ってすぐにあります。
位置的には直線距離で十数メートルしか離れていないのです。
ただ、下側から直接渡れないので、ロータリーを回り込まないといけないのですが。
まずはロータリーをグルッと回ってあの横断歩道まで行って下さい。
マホさんは横断歩道を指差しますが、おじいさんはスマホの画面を見ています。
いや、その地図必要無いから。全部直接指差し出来る範囲だから。
ロータリー回り込んだ先の横断歩道を渡って、コンビニの隣が目的地。
たったそれだけの説明なのに、スマホの地図画面を見ようとするおじいさんを制止しながらだと、とんでもなく時間がかかる。
その手に持っているスマホ、叩き落としていいですか?
最初に声を掛けられてから、既にバスを2本逃しているマホさん、さすがにイライラしています。
あ、3本目もドア閉まる…
あそこに看板あると指差しているのに、指先見ないでスマホ見てどうすんの。
もはや年上を敬うとか年寄りを労るとか、そんな気持ちがマイナスに突き抜けたマホさんは、おじいさんのスマホ画面に手を乗せて見れなくして無理矢理顔を上げさせて説明したのでした。
なんて失礼なと思われるかもしれないが、道を聞いてきたのに説明している相手の顔すら見ずにスマホばかり見ている方がよほど失礼です。
おかげでスーパーに寄る時間が無くなったマホさん、駅ビル地下のお惣菜屋で野菜炒めとシューマイを買って晩酌です。
もう二度と道案内なんかしない……
そんな決意もむなしく、二週間後、今度は二十代後半ぐらいの女性にタブレット画面を見せられているのでした。
再びの拡大縮小回転回転とココってドコなやり取りの後はやっぱり
そこの角を右に曲がって三軒目です。
すぐ近くでした。
地図、要らないじゃん。