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2.30 湖の幻想 その1

 視界に入ってきた白の眩しさに、思わず目を瞬かせる。


 ここは、……何処だ? 身体が動かないことに戸惑いを覚えながら、何とか首だけを枕からずらす。どうやら、トールの身体は、狭いベッドの上にあるらしい。顎を引いて、自分の身体を確かめる。動かせないが、胴体も、手足も、確かに、ある。右腕と右足の感覚は無いが、天井から吊り下がっている点滴に繋がれた左腕の感覚は、……ある。左足も。


「と……おる?」


 不意に響いた、震える声に、頭を動かす。


 同時に、母の顔が、トールの視界を覆った。


「分かる?」


 普段通りの、言葉数の少ない母の声に、小さく頷く。


「そう」


 良かった。涙に濡れた母の声に、トールはもう一度、今度はしっかりと頷いた。


「看護師さん、呼ばないと」


 僅かに口元を綻ばせた母が、トールのすぐ側にあった釦のようなものに手を伸ばす。


 何故、自分は、ここに横たわっているのだろう? 再び、思考が虚ろになる。


 トールの髪を撫でる母の手の温かさを確かめると、トールは再び、眠りに落ちた。

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