2.20 秋分祭の日のこと①
しとしとと降り続いていた雨は、秋分祭の前日に止む。
秋分祭の日は、お祭りに相応しい、からりとした秋晴れの日になった。
「お祭り日和だね」
修道院の自室から外を覗いたサシャが、ベッドの上に放り投げられるように置かれたトールに向かって小さく微笑む。
今日は学校はもちろん休み。サシャが好きで手伝っている、太陽や月や星を観測し、その結果から計算して暦を作る『星読み』達の仕事は、昨日で終わっている。だから、というわけではないが、アランと、アランから事情を聞いたユーグから、今日は修道院から出ないよう、サシャは言われていた。
アランとユーグの危惧は尤もだ。ベッドの上で蹲ったサシャに、小さく微笑む。本人は知らないが、サシャの父は北向の王族。サシャも、王族を暗殺する狂信者達に狙われる可能性は0ではない。狂信者達は、古代の神への信仰を強制し、弾圧する者は容赦無く殺していると、黒鎧の騎士ヴィリバルトから事情を聞き出したらしいアラン師匠は言っていた。ならば尚更、古代の神とは違う神を信仰する修道院の下人であるサシャは、狙って損は無い、相手。
「サシャ」
聞き知った声に、はっと顔を上げる。
どこから入ってきたのだろう。クリスの、日焼けして赤くなった顔が、サシャの部屋の入り口に見えた。
「お祭り、行かないのか?」
無邪気に見えるクリスの笑顔に、サシャが首を横に振る。
「叔父上と、アラン師匠から、ダメだって言われて」
「こっそり行ってこっそり帰れば問題無いさ」
サシャが小さく呟いた言葉に、クリスはにやりと笑った。
「う……」
[大丈夫だ]
躊躇いを見せるサシャに、そっと表紙に文字を躍らせる。
[クリスの言う通り、こっそり行ってこっそり帰ってくれば良いんだし]
サシャが秋分祭に行きたい理由は、分かっている。
[気になるんだろ? セルジュと暗殺者のこと]
「う、うん」
俯いて考え込んだサシャは、しかしすぐに、トールの方へとその細い手を伸ばした。
「こっそり、出られるの?」
上着とエプロンを素早く羽織ったサシャが、息急くようにクリスに尋ねる。
「秘密の通路があるんだ」
再びにやりと口の端を上げたクリスと、先程よりも明らかに元気になったサシャに、トールはほっと息を吐いた。
サシャが暗殺者に狙われたら、どうする? 再びの問いに、首を横に振る。サシャの父が王族であることを知る人は、叔父のユーグと、ユーグから事情を聞いているアラン師匠、そしてサシャの学費を援助してくれているリュカの母セレスタンのみ。サシャが狙われる確率は、……おそらく低い。心を無理に納得させると、トールは、トールをエプロンのポケットに入れたサシャに微笑んで見せた。




