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2.6 思いがけない再会①

「サシャ!」


 見えてきた小さな船着き場と、聞こえてきた大きな声に、サシャの青白い頬が笑みを浮かべる。


「サシャ!」


 そのサシャの視界を辿ると、生意気そうな小さな影がサシャに手を振っているのが見えた。この、生意気そうな子供の名前は、クリストフ。皆からはクリスと呼ばれている。


「サシャも、泳ぐか?」


 サシャの近くにまで寄ってきたクリスの飾らない言葉と、柔らかな日差しに揺れる肉の少ない裸の上半身を確かめてから、辺りを見回す。船着き場の向こう側、浅瀬が広がっている場所で水をかけ合って遊んでいる、クリスと同じように上半身が裸の子供が幾人か、見える。緋星祭(あかぼしのまつり)は初夏の、農作業の始まりに豊作を願う祭。その祭から半月くらいしか経っていないから、サシャもまだ、下着の上に毛織物の上着を羽織った姿。それでも、泳いでいる子供がいるとは。


〈元気だなぁ〉


 正直に、トールは両眉を上げた。


「こらこら」


 クリスの言葉に戸惑いを目の端に浮かべたサシャを助けるように、太い声が響く。


「無理強いはダメだと、いつも言っているだろう」


 サシャが寄宿する修道院に魚を売りに来る漁師マルクの太い腕が、クリスのぐしゃぐしゃになった濃い色の髪を更にぐしゃぐしゃにした。


「でもさぁ、マルクさん」


 頬をぷっと膨らませたクリスが、そのマルクに対抗するような言葉を紡ぐ。


「サシャ、身体細いから、鍛えた方が良いんじゃないかって」


「まあ、確かに」


 至極真っ当に聞こえるクリスの言葉に、マルクの眉が小さく動いた。


「しかし無理強いは」


「良いんじゃないか」


 聞き知った声が、マルクの言葉を遮る。


「アラン師匠!」


 サシャが振り向くと、北辺(ほくへん)の修道院に居候していた、医術の心得のある修道士、アランが、血色の良い頬に浮かべた笑みをサシャに向けているのがトールにも見えた。


「身体を鍛えれば、学問にも集中できる」


 トールと同じ驚きを顔に浮かべたサシャの肩に固い掌を置いたアランが、トールも納得する言葉を口にする。


「湖の側を歩くなら、湖に落ちた時のために浮く練習をしておいた方が良いだろう」


 アランの言葉に、トールは、小学校の時に練習させられた、着衣のままで浮かぶ練習のことを思い出した。確かに、アラン師匠の言う通り、湖に落ちても溺れない練習は、……必要かもしれない。

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