表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/351

1.32 思いがけない否定④

 サシャが身体を洗ってから、アラン師匠と共に森の聖堂へと戻る。


「アラン師匠」


 サシャの後ろに居たアランを見て、ユーグの顔は即座に色を失った。


「サシャと共に修道院に来てくれ、ユーグ」


 絶句するユーグ叔父に、アラン師匠は簡潔な結論を示す。


 このところずっと病気で伏せっていた修道院長の療養先が、北向(きたむく)の国の下流に位置する秋津(あきつ)の国の修道院に決まった。修道院長の甥のグイドは修道院長に付いて行くため、ただでさえ足りない修道院の人手が更に足りなくなってしまう。サシャとユーグを修道院に移したい理由を、アランは修飾語を交えることなく述べた。現在サシャとユーグが暮らしている森の聖堂は、春から『冬の国(ふゆのくに)』に行く予定の、ドニの息子ジャンが、冬の国での孤独に慣れるために一人で管理することになったことも。


 アランの言葉を、サシャと共に呆然と聞く。どうなるのだろう、不安からか、早くなったサシャの鼓動を、トールは自分のこととして聞いていた。


「君が森の外に出たくない理由は、理解しているつもりだ、ユーグ」


 視線を下に落とし、義足であるユーグの右足を見つめたアランが、再び視線をユーグに戻す。


「しかし修道院には人手が必要だ」


 そしてアランは、今度はサシャの方を見た。


「サシャには、母と同じ道を歩むための学習が必要」


「分かっています」


 俯いたユーグが、サシャを見、そして再びアランを見る。


「修道会の決定に従います」


 ユーグがアランに頷きを返すまで、長い時間が掛かった気がした。


「一つだけ、お願いがあります」


 明らかにほっとした表情を見せたアランを、ユーグが真剣な瞳で見つめる。何を、頼むのだろうか? 思わず身構えたトールの耳に入ってきたのは、意外な言葉だった。


「サシャを、修道院から一歩も出さないでください」


「え?」


 アランにも、ユーグの言葉は意外だったのだろう、先程までは滑らかに動いていた唇が、開いたままで止まる。


「分かった」


 だがすぐに、アランはユーグに頷きを返した。


 良かった。決まったことに、ほっとする。何はともあれ、これでサシャは、修道院で好きな勉強ができる。


 定位置であるエプロンの胸ポケットからそっと、サシャの表情を確かめる。アランとユーグの決定を聞いたサシャの頬は、確かに、普段の色を取り戻していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ