1.20 冬至準備③
「サシャ、掃除終わったか?」
聖堂入り口から覗いたグイドの顔に、思考が中断する。
「あと、床磨きと祭壇の飾り付けが」
「じゃ、飾り付けやるから、後で武術の相手してくれ」
顔を上げたサシャの回答に軽く笑うと、グイドは身軽に、入り口の真向かいに位置する祭壇に現れた。
意外に丁寧な面持ちで祭壇に必要物品を並べるグイドを、見ないふりをして見つめる。グイドは、この北向の国から南に下った、八都の真ん中にある交通の要所、夏炉の国から来ている、現在病床にあるこの修道院の院長の甥。
夏炉の国は小貴族が多く、覇権争いで疲弊していると、サシャが勉強をしている時にトールが読んだ地理の本には書かれていた。そんなことをトールが思い返している間に、サシャは床磨きを終え、グイドの方は祭壇の飾り付けを終えていた。
「冬至の飾りは、直してたよな?」
「うん」
グイドの言葉に、サシャが頷く。
トールが読み覚えた祈祷書によると、この世界では、冬至や夏至、春分や秋分といった二至二分の祭は、星の名前が付いた祭ほど重要視されていないらしい。星を観測して暦を作る『星読み』も、二至二分の日の観測は主要な観測所のみで行い、この修道院の横にある、『冬の国』へ至る山道の途中にある観測所には来ない。太陽の観測は、行わないのだろうか? おそらく難しいのだろう。日蝕を観測していた時に何度も聞いた「太陽を直接見ないように」と言う先生のしつこい声を思い出し、トールは一人頷いた。
「じゃあ、今日の仕事はこれで終わり、っと」
すっきりとした聖堂に、はっきりとしたグイドの声が響く。
「院長先生のお加減は?」
「あー」
掃除道具を片付けながらのサシャの言葉に、グイドは首を横に振った。
「今のところ熱も無いし、都からの書状を読む元気はあるみたい」
「そう」
「と、いうことで」
グイドの言葉にほっと息を吐いたサシャの、掃除用に長い袖を捲り上げて外気に晒されている細く白い腕を、グイドが掴む。
「武術の相手」
「う、うん」
「強くなれば、あのテオって奴のこと、考えなくても良くなるぜ」
あくまで簡潔なグイドの言葉に、エプロンのポケットの中で苦笑する。修道院への行き帰りにサシャにちょっかいを出すテオのことは、トールを殴った件の先輩のことと同じくらい、対応は難しいのではないか? それが、隙を突いて逃げるサシャの青白い顔を毎日のように見ているトールの意見。だが、サシャが武術を学ぶのは、サシャの身体の細さを考えると、悪くないのかもしれない。だから。グイドに引きずられるように聖堂を出るサシャに、トールは小さく微笑んだ。




