第四話 神魔皇、強くする
セラがパーティへの参加希望を出した次の日の朝。
昨夜、リーエルは嬉しさで大泣きした為、目元が真っ赤だ。
朝ご飯を食べている時もどこか夢の中にいるような感じだったリーエルは、現在セラと森の中にいた。
「ほ、ほんとにいいんです……か?」
上目遣いでセラに尋ねてくるリーエル。
「一緒に冒険するんだから気にしない気にしない」
そう。
同行することは確定事項なのだが、セラは今朝リーエルに
『練習も兼ねて魔物を狩りにいってみよっ♪』
と持ち掛けたのだ。
冒険者ギルドに登録したときにもらえる『ギルドカード』に個人のステータスが刻まれる。
そのステータスをセラは見たのだ。
――――――――――
リーエル
種族:狐獣人
称号:『女冒険者』
職業:Fランク冒険者
レベル:3
体力 D
魔力 F
物理攻撃 F
物理耐性 F
魔法攻撃 F
魔法耐性 F
敏捷 D
器用 D
魅力 A
スキル
【剣術】Lv1
――――――――――
「エルちゃんすごい! 剣術を使えるんだね。これならすぐに強くなれると思うよ?」
セラには見慣れぬレベルなる単語があったが、そこは無視する。
どうせ魔物を倒したときに、魂に倒した魔物の霊力が吸収されて強化される現象を表しているのだろうとあたりをつけて。
この表記が昔の値とどう関わっているのかは知らないが、スキル【剣術】があれば十分だ。
十分に戦えると判断する。
なにせ前世の自分がきょぬーになろうと思った時には、スキルがゼロだったからだ。
今の彼女と同い年くらいの時だろうか、とセラは遠い昔に思いを馳せる。
「スキルを覚えたり、スキルレベルを上げるには自分でモンスターと戦わないといけないんじゃ……それに、今の私には剣もないです……」
リーエルは心配だった。
優しいセラの期待にこたえられるかどうか。
何せ昨日はホーンラビットすら倒せなかったのだ。
そんな気持ちを吹き飛ばすかのように、セラは明るく言い放つ。
「だいじょーぶだいじょーぶ♪ 剣も装備も、魔法だっておねーさんに任せなさーいっ」
瞬間、セラの周りの魔力がざわめいた。
いつしか魔力が形を成し、セラの周囲を蒼い燐光が渦巻く。
「な、なに?」
濃密すぎる魔力にリーエルの意識が朦朧としてきた。
しかし、意識が刈り取られるその寸前で魔力が収束し、具現化する。
「ほいっと」
気軽すぎる掛け声とともにセラの手に現れたのは一振りの剣。
空色の刀身に魔術刻印が施されている。
そう。セラは剣を作成したのだ。
「ふぁあああ!? そ、それって!?」
リーエルはその剣のことにも驚いたが、知らぬ間に自らの身を包んでいる衣装がガラリと変わっていることにも死ぬほど驚いた。
ひらひらとした青色のドレスアーマー。
まるでおとぎ話に出てくる姫騎士のような格好になっていた。
「ふふーん。鎧は私お手製の魔道具だよ。エルちゃんの潜在能力を極限まで引き出して強化してくれるはず。剣は超越石を生成して仕上げた魔剣だよ☆ どうぞご覧あれ~」
それは蒼と金の紋章があしらわれた儀礼剣のように美しい芸術品。
リーエルは差し出されたそれを鞘ごと受け取った。
自分の身長の三分の二もあるほどその長剣を手に取った瞬間、驚くほど軽く、手になじんだ。
重工な素材で作り上げられていそうではあるものの、見た目と重さがあっていない。
「超越石……聞いたことのないものですけど……」
言いながら、すぐさまリーエルは剣に冒険者証をかざしてみる。
これはギルドカードについている付属効果で、武器にかざすと武器のランクや能力がある程度わかるものだ。
――――――――――
名前:超越剣・レヴァンテイン
種別:超越剣
武器ランク:測定不能
切れ味:測定不能
魔力伝導効率:測定不能
スキル:【所持者絶対登録:リーエル】【スキル上達速度上昇:千倍】【全属性魔法適正付与】【魔力増強:S】【環境適応:S】【潜在能力覚醒強化】【魔法創造】【スキル共有】【収納】【無詠唱】【高速発動】【縮地】【遠隔操作】【最後の盾】【救済】【絆の力】【聖剣】【魔剣】【無限剣】【獄剣】【天剣】【神殺シノ剣】【竜殺シノ剣】【悪魔殺シノ剣】【防御補助】【攻撃補助】【魔法補助】【習熟補助】【鞘瞬間移動】【絶剣】【破壊不能】【索敵】【直感強化】【第六感追加】【基礎能力強化】【記憶強化・拡張】【空スロット】×20
名前:超越剣・レヴァンテインの鞘
種別:鞘
武器ランク:測定不能
打撃力:測定不能
魔力伝導効率:測定不能
スキル:【所持者絶対登録:リーエル】【限界突破】【剣瞬間移動】【不老不死】【超回復】【異常無効】【陣地展開】【領域】【破壊不能】【魔法耐性:S】【スキル共有】【空スロット】×30
――――――――――
「えええええええええぇぇぇぇっ!? なななななんですかこれ!?」
リーエルの剣を持つ手がガタガタと震える。
魔剣なんて見たことがなかったリーエルだったが、話には聞いたことがあった。
だが、このスキル量が異常だと思い至らない。
魔法剣がスキル持ちだということは聞いたことはあるのだが、どのくらいのスキルがついているかまでは知らなかった為だ。
だから、リーエルの中での認識はこうなった。
――すごい大魔法使いのセラさんが、自分のために魔剣を作ってくれました!
当然ながら、自分が人外になってしまったとは露ほども知らない。
「ふふふっ。おねーさんに不可能はないのだよ。これで、この辺の魔物にはおそらく苦戦しないはず! さぁ、魔物を見つけて剣術スキルの練習をしよ~」
にっこりとセラはリーエルに微笑む。
苦戦どころか一帯を吹き飛ばしてもおつりがくる能力だと突っ込む人間は不在だ。
「あわわわわわ……ありがとうございますっ」
リーエルは、魔剣でこれなら、自分の着けている防具は一体どれだけの効果なのだろうかと思う。
効果が無数についていて、リーエルの期待を裏切らない防具なのは間違いなかった。
それを直感で判断したリーエルは防具の鑑定をせずにセラに頭を下げる。
それはもうぶんぶん下げた。
今の彼女の後ろに立てば、ミニのスカートがめくれて、昨夜セラが作成しリーエルに渡した純白のエロ下着が見えたことだろう。
完全にセラの趣味下着だ。
ちなみに、男が見ている時にはすぐさまスカートが伸縮して下着を隠す。
自動絶対領域効果がついているのだ。
スカートをめくろうとしようものなら、自動迎撃魔法が発動し、辺り一帯が灰燼となる。
最強の下着を着用済みなことは、当然リーエルは知らない。。
「いいのいいの♪ パーティーメンバーならこれくらいしないとね! さぁ、いくよー。調子がいいなら町の方まで探検しよっ。サポートは任せて!」
セラは上機嫌で浮遊している杖に腰掛ける。
そこでリーエルは理解する。
自分が先行するのだと。
昨夜自分が話したパーティー構成のテンプレートで言えば、前衛はリーエル。後衛はもちろんセラになるからだ。
「は、はい! 行きます!」
リーエルは狐の獣人でしなやかに動くので、可動域が広くて軽いセラの作った防具も満足している。
まるで何もつけていないように軽く感じるのだ。
「ちなみに剣に付与されてる魔法の使い方は、念じるだけ。付与スキルの【索敵】を使って魔物を見つけてみて?」
先ほどからリーエルは弾むセラのおっぱいが気になってしょうがない。
話すたびにたゆんたゆん揺れて、先っぽが見えそうで見えないのだ。エロい。
昨日のお風呂での情景が目について離れないが、今はその煩悩を押し殺す。
「そ、そうなんですね。やってみます……」
【索敵】魔法を思い浮かべたその瞬間にリーエルの脳内に謎の音声が流れる。
セラの声によく似ているが、無機質だ。
『所有者登録・承認完了――起動――レヴァンテイン』
その瞬間、体力、魔力といった体中のありとあらゆるものから、【枷】が解き放たれた。
しなやかな体の見た目は変わらず、すべてが変化したのだ。
すさまじい魔力の奔流が巻き起こる。
次いで、この一帯すべての情報――這いずる芋虫から雑草一本から地下に埋まっている小石一粒の情報すべてがリーエルに流れ込む。
なぜかセラに関する情報だけ『解析不能』と出たが、あまりの情報量にリーエルはそれに気づかない。
「へっ!?」
「情報量は多いけれど、今のエルちゃんなら取捨選択ができるから頑張って♪」
――――――――――
それから数分後、完璧に【索敵】を使いこなしたリーエルは、一匹のゴブリンを相手にすることにした。
取捨選択をしたとはいえ、目に映るものすべての構造が頭に入ってくる。
無意識にその情報をいらない、と感じた瞬間にその情報は入ってこなくなった。【魔法補助】のスキルだ。
「……魔法を……使えましたぁぁ」
生まれてこの方魔法の才能がないといわれてきたリーエル。
これだけでも感動していたのだが、セラはリーエルを抱きしめながら言った。
「まだまだこれからだよ。ほら、ゴブリンを倒すんでしょ? 絶対についていくから、思いっきりやっちゃおうっ」
「はいっ」
セラに最大限の感謝をしつつ、リーエルはゴブリンに向かって走った――いや、翔んだ。
常識を凌駕したそのスピードだったが、リーエルは強化された感覚と獣人の優れた反射神経を活かして森の中をスピードを落とさず翔んでいく。
飛行しているように見えるが、実はそれは圧倒的な身体能力の為せる技。
大気を蹴って宙を駆けているのだ。
「げぎゃ?」
かすかな異変を察知したゴブリンがそちらを振り向いたとき、ゴブリンは魔石の一片も残さず存在を消失させた。
そう。
リーエルがすれ違いざまに剣を振りぬいたのだ。
そしてまた無機質な声がリーエルの頭を流れていく。
『【剣術】LVが128になりました。【軽業】LVが120になりました。【空中歩法】LVが130になりました。【体術】LVが250になりました。』
あとに残ったのは、飛び跳ねて喜ぶ金色の狐耳少女と、ふよふよと浮かんで妖艶な笑みを浮かべる魔女だけだった。