なぞの青年ごっこ
明日は僕の合格発表がある。そわそわして居ても立っても居られないので久々にアレをやることにしよう。
今日のアレは双子ちゃんは居ないほうが都合がいいので一人で外に出る準備をする。
「し、シリウスお坊ちゃま!行ってらっしゃいませ!」
マイケル君が門番に居た。やる気に満ち溢れて当初の予定より早くから働き始めたのだ。
「いってきまーす」
そう返事をして門をくぐり人のいない裏路地に入る。そこで変身魔法を使い青年男性へと変身する。さらに黒いローブを着て仮面をつけてフードをかぶって準備完了だ。この格好の僕はアルトリア・ペンギンタイガーだ!大賢者が使うようなミスリルで作られた魔法の杖を構えながら街をぶらぶらと歩く。
「あ!アルペンタイガーだ!」
指を指しながら手を振ってくる子供。
なに!?婆さんを呼んでこなくては!と家に向かう酒屋の店主。
みんな僕の通る右側へと並び始める。並んだ人たちに僕はホイッ!ヒール!ヒール!エクストラヒール!と回復魔法を掛けていく。
1年前から始めた謎の回復魔法青年ごっこが今となっては大行列を生むほどの大盛況だ。
なぜこんなことを始めたかと言うと魔法の使い方に慣れておきたいなと思ったことが2割と教会の治療費が非常に高いことを知ったということが8割だ。教会はヒール1回で金貨1枚は取るらしい。金貨3枚で4人家族が1か月普通に暮らせる金額なのでヒール1回で金貨1枚はぼったくりなのだ。特に路地裏に住む孤児達は治療を受けられなくて弱っているのが見られた、だから僕はこの謎の青年ごっこを始めたのだ。
ただ、教会を敵に回すのは家族に迷惑がかかってしまうこともあり変身魔法を使い姿を偽っている。
「ヒール!ハイヒール!エリアヒール!」
そう言いながらミスリルの杖をクルッと振る。
「俺の名前はアルトリア・ペンギンタイガーさぁ!感謝したまえ!ふはははは」
そこら中から腰痛が治った!苦しさが消えた!ふはははは!など聞こえてくる。だれだ笑い方をまねしたやつ。
商店街を抜けてギルドの前を通り、教会の建物が少し見えたぐらいでこの謎の青年ごっこは終了を告げる。
「毎日笑顔だぞ!」
そういって指パッチンをしたと同時に転移を発動して姿を消す。サリウス兄さんが継ぐこの街の治安に少しでも貢献できたらいいなと思いながら変身魔法を解除した。
無償でやっているにも関わらず僕の来ていたフードには銀貨が何枚も入っている。余裕のある人たちが入れてくれたんだろう。僕はこの銀貨を握りしめてギルドへ向かった。
ギルドに向かう途中ではまだアルペンタイガーの話題があちこちでされている。正直気分がいい。軽い足取りでギルドの扉を開けて食堂の窓際のいつもの席に座る。
「パフェ1つくださーい」
昼食の時間は過ぎているために人が少ないからかパフェはすぐに来た。
う、、うまい!この世界でパフェを広めたやつは天才だな。ぜひともプリンとかも広めてほしいものだ。
「B++程度のブラックグリズリーの討伐がなんでうまく行かないんだよ!」
そう怒鳴っているのは[白銀のダークネス]のマルス君だ。そりゃマイケルを追放したからだろと思いながらパフェを頬張る。
「ミシェル!お前が優秀だって聞いたからこのパーティに治癒師として入団を許可したのに治癒しかできないじゃないか!なんでもっと前に出ないんだよ!こんなんならマイケルのほうが、、いや、あいつはダメだ」
情緒不安定なマルス君。
「治癒師が前に出るわけないじゃない!ばっかじゃないの?」
そりゃそうだ。名前の通り治癒する係なのだ。治癒タンクをしていたマイケルが変人なんだ。
「お前なんか追放だ!」
「こんなパーティこっちから御免被るわよ!」
怒りながら僕の隣のテーブルに座るミシェル氏。
「チョコレートパフェとストロベリーのミックス1つ!!」
え?なにそれミックスなんてメニューに載ってない。裏メニューとか言うやつなのか!この僕が知らなかったなんて不覚!今からでも頼みたいけど子供の胃袋には1杯でも限界なのだ。残念だけど次回にお預けだ。
「くっそ!くっそ!」
まだ荒れてるマルス君。受付に怒鳴っているがなにやらこの1週間でのクエスト失敗率が異常に高いためランクの降格になりそうだという話だ。王道すぎるけどどうかこの街に不幸な出来事だけは呼び寄せないで欲しい。前世に読んだ小説ではマルス君みたいなやつが闇落ちして王都がパニックみたいな。まぁあれは小説だし大丈夫か。
「ごちそうさま」
そういってギルドを後にした。
...
...
「ねえスリウス、セリナ、チョコレートパフェとストロベリーのミックスって知ってる?」
ミックス!?なにそれ!?といい反応をしてくれる双子ちゃん。
「どうしよっかな~。おしえてあげよっかな~。どうしよっかな~」
そう言いながらもったいぶって双子ちゃんをからかうのはちょっと楽しい。
「今度またギルドに行こうね」
そう約束して解散となる。
次はいつごろアルペンごっこしようかな。
街の人の笑顔を思い出しながら僕は眠りについた。