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魔王の娘はダンジョンマスターです  作者: ゆき
に、ダンジョンマスターと整備と解放と
9/21

魔王の娘と配下の関係

「アカネ、起きろ」

「…………ぱぱ?」


誰かに起こされた気がして心地好い微睡みを断つと、次第に自分が何処にいるかを思い出す。


「夕食の時間になっても帰ってこないから何をしてるのかと様子を見に来てみれば、こんなところで寝てたら風邪引くぞ?ただでさえ人間なんだから」


確かに石畳の床はひんやりしてて、けれど背後にはもふもふふかふかの温かい天狼がいる。子供体温故にノアールはちょっと体温が低く感じるけど、天狼はぽかぽかです。


そう言いたいのがわかったのか、ノアールはあからさまに溜息を吐いて私を抱き上げた。


「あ、天狼、ここに侵入者来たら適当にやっててね」

『了解した』


ぐるる、と喉を鳴らす天狼からノアールへ視線を移し、尋ねる。


「どうしてここがわかったの?」

「お前の気配は特殊だからな、探そうと思えば何処にいても探し出せる」

「ほう?」


興味津々に見上げてみたけれどどうやらそれ以上答える気は無いらしく、私は子供のようにむうっと口を尖らせた。


「アカネ、覚えておけ。ダンジョンマスターは自分の帰還場所を複数登録出来るようになってる。最初に登録してある自分のダンジョンは勿論、行きつけの街、行きつけの採取場、自分の家などを登録出来る。次から一人では帰ってこれるよう、屋敷を登録しておけ」

「あい」


こくんっと頷いて了承した。その間、ノアールの足元には行きと同じ魔方陣が展開され、景色は見慣れてきた屋敷へ。


ノアールに言われたことを忘れないようにメニュー表を開き、ダンジョンコア、帰還の欄にある登録をタップ。『この場を登録しますか?』という確認を再度タップして、どうやら登録が終わったよう。


「ん、出来たな。夕食はツヴァイに用意させてあるから食事して風呂入って寝ろ」


床に足を着け、ぼうっとしていた私にノアールはそう言って二階に上がっていった。二階にあるのはノアールの自室と私の部屋、他にも部屋はいっぱいあるけど使ってるのは多分二部屋だけだ。取っ手、付いてなかったし。


「アカネ様、お食事に致しましょう。食堂へ参ります」

「うん」


ツヴァイに手を引かれ、エントランスホールから然程離れていない食堂へ向かう。道中、見たことあるような人がいた気がしたけど、ツヴァイが気にしてなかったから私も気にしないことにした。


「だから!なんでこんな人間の娘が魔王様の娘なんだ!?」

「アカネ様、こちらのスープはこれくらいで宜しいですか?」

「うん、今日も美味しいよツヴァイ」

「無視するな!!」


相変わらず見た目が質素でも美味しいツヴァイの手料理を堪能している中、綺麗とは言い難いBGMがうるさい。


緑髪の、ユリアという名前の何処かの隊の隊長だった気がする。そうか、思えばここに来てからまだ数日しか経っていないのだった。余りにも濃密で忘れてた。


「しかも人間がダンジョンマスターだと?一体どんな汚い手を使ったんだ?」


髪より少し薄い緑の目が、私を刺すように射る。


「ツヴァイ、ありがとう」


本当はごちそうさま、と言いたいところだけど迂闊に変な発言をすると怪しまれるから、お礼だけ述べることにしている。


「おい!」


席から下ろしてくれたツヴァイににっこり笑い掛けてお風呂に行こうとしたとき、幼女であるアカネの手首が思いっきり引っ張られた。強い衝撃と、耳に残る嫌な低い音、感じる痛みに顔をしかめたのは、しょうがないと思う。


「アカネ様、手を出して」

「いや、これくらいは大丈夫、こうしてこうすれば治るから」


こきっと小気味の良い音と共に、肘の痛みは失せる。『肘が抜けた』とされるさっきの状態は、慣れれば自分でも戻せるものだ。 


りつ時代の幼少時は、良く腕を引っ張られていた。故に良く肘が抜けていたものだけど、両親がやってくれなかったから自分でやるしか無かった、という思い出が甦る。


「わ、わるい……」

「あれだけ人間人間言っても謝れるんだ?根は素直なの?」

「そうですね、たんじゅ……純粋なだけです」


私の腕を捻ったり、上げてみたりしていたツヴァイが安堵した顔半分、嘲る顔半分でそう言った。それに何も反論して来ない辺り、多少の罪悪感はあるらしい。謝罪を受けた以上無視する訳にはいかないので、改めてその女性を見上げた。


癖っ毛なのか、少し毛先の跳ねた緑髪を肩口で揃え、薄緑の瞳には私への申し訳無さが浮かび、全体的に引き締まった身体と対照的なその顔が面白い。


「私も大人げなかったよ、ごめんね?これでおあいこにしよ?」


ツヴァイが俯いたのを私は見逃さない。けれど今はそれを見逃したことにして、ユリアを見つめる。うっとたじろぎ、すまなかった、という言葉を引き出すことに成功した私はユリアと和解し、にこにこ笑顔で食堂を後にした。


「ツヴァイ、いつまで笑ってるの?」

「申し訳ありませんアカネ様……」


セリフそのものは謝ってるけど、口角は上がってるしツヴァイの目には愉悦が浮かんでるし、完全に楽しんでる。


「いえ、私もまさかユリアがあそこまで皮肉に気が付かないとは……思ってなかったのです」


くくっ、と、愉しくて堪らない、と言いたげな口調にじとりと睨む。私だってまさか皮肉をスルーされると思わなかった、てっきり皮肉を受けてまた何かをしてきたらからかって遊ぼうと思ってたのだ。けれど予想以上にユリアが純粋で、そんな気は無くなった。


「幼くあるアカネ様に大人げなかった、と言われて額面通りに受け取るとは、流石はユリアですね」

「もうちょっと仲良くならないと冗談は通じないね」


ひとまず表面上は和解出来たはず、ならば今度はそれを盾に近付いて、慕っているフリをすればいいだけ。私の安穏とした生活を得る為に、争い事は避けたい。


四天王と仲良くなる、ダンジョンマスターとして遊ぶ、勉強する、これが出来る環境へ整えるのが目下目標。


「きっと明日も楽しくなるね、ね、ツヴァイ?」

「そうなることを願っております」


ツヴァイと別れ、存在するとは思って無かったお風呂に浸かりながら、勝手知らずに緩む顔を見つめた。湯に映る私は何処からどうみても幼女で、それに相応しい楽しげな笑みを浮かべている。


明日が楽しみ、というのは初めてかもしれない。きっとあの世界の皆は、こういう感情で運動会とか遠足を待ち望んでいたのだろう。


「…………何考えてるか分からない子、だから愛想の良いお姉ちゃんのように、でもお姉ちゃんより目立たないように。貴女は必要とされてないのだから」


傷付いてることを悟られないよう、無表情で居続けたら、いつしかこうやって笑うことも出来無くなってた。ノアールが無理して子供らしく振る舞わなくても良いと言った時、無理して全てを子供にする必要は無いと言われた気がした。だから今のアカネは多分、りつであった頃にしたかったはずの行動と、理性的な私で出来ている。大人の私と、等身大のアカネがぐちゃぐちゃに混ざってる今が一番楽しい。


「ってなんでこんな懐古してるんだろ、あ、ユリアのせいか」


あの良く知った痛みのせいだな、きっと。ふう、と一息吐いて、意識を切り替える。こんな記憶をなんとも思わないくらい、今を充実させたいと思う。 


ざぱっと頭から桶の湯を受けて、良い香りの石鹸で洗って、用意されてる香油で保湿。こんなものがある辺り、魔界、というかこの世界の文明が何処まで進んでるのか気になる。


「気になったことは調べないとね、そのうち街に行こう。」


一つ感情に区切りの付いた私は自室に戻り、寝ようとした。そうしたら廊下でツヴァイと出会し、髪を乾かしていないことを咎められてドライヤー的な火と風の魔方陣で組まれたやっぱりドライヤーに似ている魔術具で髪を乾かしてもらってから、漸く寝れた。


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