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魔王の娘はダンジョンマスターです  作者: ゆき
いち、魔王だと知ったのは娘になった後です
4/21

詰め込み基礎勉強

「おはようございますアカネ様」

「おはようツヴァイ」


シャッと黒のカーテンが開き、燦々と朝日が煌めく……ことは無く、夜明け前の薄暗さに似た光が部屋に入り込む。


「暗いね」

「午前6時頃ですからね。昼前には昨日のように少し明るくなりますよ」


曇天のような暗さ、昼前に明るくなるというのも不可思議で、アカネはここでの生活において全く知識が無いこと思い出す。


時間も、月日も、生前とは違うのだからそれもまた勉強しなければ、とツヴァイの差し出す本日の着替えを受け取り考える。


「本日は少々やることが多くて、アカネ様への案内は昼過ぎになってしまうのですが……」

「大丈夫。それなら何か時間を潰せる本はある?出来れば言語の勉強からしたいんだけど」

「でしたらこれを」


ツヴァイの手に握られていたのは一冊の本。やけに用意がいいなぁ、と思いつつ礼を言ってそれを受け取る。


そして中身を開いて、ピシッとアカネは固まった。


「ええっと、ツヴァイ、これ、何語?」

「人界の言葉の本を持ってきたはずですが……?」

「そもそも読めないのね……最初は講師が必要か…………」


肩を落としてそもそもの現実に気付いた。生前と同じように分からないことは本で、という行動の前にそもそも読み書きが出来ないのではそれをすることも叶わない。


どうしよう、と途方に暮れるアカネ。


そもそも誰かに教えを乞えば良いだけなのだが、基本的に人に頼ってこなかったアカネにはその発想が無かった。


「俺が教えてやろう」

「パパが?」


そんなとこへひょっこり現れたノアールはアカネの手にする本を取り上げ、さも当然のようにそう告げた。


「とりあえず人界語、魔界標準語、精霊語を扱えればいいだろうしな。教えてやるから支度が終わったら執務室に来い」

「…………あ、うん。」


その手があったか、とノアールの顔を見上げた後、まだ着替えすら済んでないアカネは急いで支度に取り掛かり終わらせる。


その後、ツヴァイの案内で執務室へ辿り着いたアカネは数時間後、生前より優秀な自分の頭に感謝することになった。






「ほう、まさか本当に三言語を取得出来るとは思わなかった」

「…………」


スパルタ、というよりはただひたすら覚えるまで繰り返していただけだが、数時間机に向かいっぱなしだったのは流石に堪えたらしいアカネは机に突っ伏す。


庭で花や野菜を覚えた時にも思ったが、ノアールの知識量とそれを超える自分の吸収の良さ。天才の脳はスポンジ、という言葉があるけれどもそれは本当だったんだな、とアカネは身を持って知った。



とりあえず今自分が自然と話しているのは人界語だったということを知り、手始めに人界語の読み書き。次に魔界標準語の読み書き。次いで精霊語の聞き取りと発音。


曰く精霊は言語だけでしかもののやり取りを行わない為に文字は無いのだとか。


「さて、聞きたいことは?」

「なんで朝と昼?も薄暗いの?それに昼前に少し明るくなるのも不思議」


言語の勉強とは全く関係ないが、どうも朝から不思議だったことを解消すべくそう問い掛ける。 


するとノアールはああ、と頷いた後にこう説明した。


人界と同じく魔界にも朝昼晩はある。が、しかし(ノアール)が明るいのはあまり好まんということで日中は薄暗くなるよう天候操作をしてる。


本人的には終日暗くてもいいが他の種族(植物族とか)が明るくならないと成長出来ん、と文句垂れた為に成長できるギリギリの明るさに保っている。


「つまりパパの好み」

「そうだ。俺の領地だからな、何をしても良いだろ?」

「俺様」

「強ければいいんだよ、この世界は」


フンと威張るように足を組む。


それを横に並んで見ていたアカネは溜息を吐き、少し羨ましげに目を細めた。


「アカネ様、時間が空きましたがご都合は?」

「ん、終わったからツヴァイと一緒に行く」


そんなアカネの様子を質す前にノックの音が響く。そうして数秒後、ツヴァイが執務室の扉を開けアカネは出て行った。


質しそびれたままアカネの背を見送り、一つ息を吐くノアール。


「五歳、ねぇ……?」


先程まで座っていたアカネの椅子へ視線を移し、そして机に並べられたアカネが書き取ったノートを眺める。


五歳とは思えぬ理解力、忍耐力、そして最後の表情。


どうやってもちぐはぐなそれらに面白いのが娘になったな、と笑みを深めた。




「じゃあこの虹色のやつは人界のお城から盗んできたの?」

「はい、人間が手にするには余りにも勿体無かったので」


一方アカネはツヴァイとビニールハウスを巡り、優秀な頭と物知りなツヴァイで知識欲を存分に満たしていた。


「このなんか神々しい樹は?」

「世界樹の苗木を盗んで埋めて育ったので、世界樹の若木ですね」

「何処から盗んできたの?」

「王家直属の庭師からです。直属とあって他の植物も手入れが難しいモノばかりでしたからちょっと他のも貰ってきたくなりましたね」


わぁ、と言葉と顔色がマッチしてないアカネはぐるりとビニールハウスを見回す。


見れば見るほどこれを一人で管理してるのか、とアカネは感嘆してしまう。その植物の入手元はアレだが。


「この全てを説明するとなるとかなりの時間を取ってしまうので、後で私が纏めた植物図鑑をお渡ししますね」

「いいの?ありがとう」


くるっと振り返り、アカネは打って代わりキラキラした瞳にツヴァイを映す。新しいことを覚えるのが楽しくて仕方がない、そんな様子のアカネにツヴァイも口許を緩めた。


「…………おや?」

「どうしたの?」


と、そこへ、この魔王城では感じ得ない複数人の気配をツヴァイは察知する。


それがなんなのか察したツヴァイは黙り込み、アカネは返事の無いツヴァイを置いてビニールハウス内を探索することにした。


「アカネ様。」


数分後、世界樹の若木をしげしげ見ていたアカネの所へ追い掛けてきたツヴァイ。 


どうかしたの、と問うアカネへ、ツヴァイはこの城で起きている異変を告げた。


「勇者がやって来ました」 


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